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~鬼灯の夢~14

 望月の家へ行くと、広い庭で妻の澪が洗濯物を干しているところだった。着物のたもとから白い手首が出ているのを、研之介はまぶしく見た。

「あら」

 澪は研之介を認めるとさっと腕をおろした。

「こんにちは」

 研之介は西瓜を持ち上げてみせた。

「友人が持ってきてくれまして。よろしければ召し上がってください」

「まあ、こんな大きくて立派な西瓜、二人では食べきれませんわ」

「子供たちにもどうぞ」

 澪は研之介を縁側に勧めた。

「干してしまいますので少しお待ちください」

「おかまいなく、すぐ帰ります」

「そうおっしゃらずに」

 澪は洗濯ものに戻った。研之介は彼女の腹を見た。今は目立ってないがあそこに子供がいるのだ。

 すっかり干したあと、澪は家にあがり、研之介に茶をいれてきてくれた。

「夏鈴や信吾の様子はどうですか?」

 そう聞くと、澪は盆を膝の上に立てて小首を傾げた。

「夏鈴ちゃんは賢いですねえ。もうかなは全部書けるようになりましたから、最近では漢字まじりの本も読んでますよ。ただ知識がちょっと偏っていますね」

「ほう」

「世間のこともとてもよく知っていることと、まるっきり知らないことがあって」

「それはやはり廓育ちだからでしょうか」

 澪はちょっと目を伏せた。

「ええ、おそらくは。町の中で見かけるいろいろな商売や道具のことはよく知らないみたいです」

「男の子とは仲良くやってますか。ちょっと前までは喧嘩ばかりでしたが」

「喧嘩は今もしてますね」

 澪は楽しそうに言った。

「口が立つので男の子たちは苦手なようですよ。でも太一ちゃんがいるのでいじめられたりはしていないみたいです」

 太一にはなにが奢ってやらないとな、と研之介は思った。

「信吾ちゃんはおっとりしてて素直で、みんなにかわいがられていますよ。今まで大勢で遊んだことはなかったみたいなので、体力的にちょっとついていけないところもあるみたいですけど、男の子はすぐに大きくなるので、あまり心配しなくてもいいでしょう」

「勉強はどうです?」

「すこし飽きっぽいみたいです」

 澪はくるりと盆を回した。

「カルタは全部覚えたんですが、最近はそれでは遊んでいませんね。お習字も、字を書くよりは落書きが好きみたいで」

「すみません」

 思わず頭を下げてしまう。澪はくすくす笑った。

「まだ三つですからね、そんなに気になさらなくても大丈夫ですよ」

「あの、」

「はい」

 研之介は思い切って言った。

「おなかが大きくなられたら、澪さんには勉強を見てもらえないのでしょうか」

 澪ははっとしたように片手で帯の下を押さえた。

「先日、望月どのから澪さまがご懐妊されたと伺いまして」

「―――ああ」

 澪はゆっくりとうなずいた。

「はい、佐々木さまとお話されたとは聞いておりました。実はあの日、望月から子供を産んでいいと言われました」

「―――そう、そうですか」

 思わず声が大きくなる。

「それはよかった。おめでとうございます」

「はい……」

 澪は嬉しそうにうなずいた。

「一時は子供は諦めようという話もしたのですが、佐々木さまとお話して考えが変わったようです。本当にありがとうございました」

「いや、いや!」

 深々と頭を下げられ、研之介は慌てて手を振った。望月の心の中に抱えた恐ろしい夢の絵解きの話しなど、澪にすることはできない。

「俺など何も。望月どのが決められたことです」

「一〇年待ってやっと出来た子供だったんです。産んではいけないと言われたときはとても悲しくて、一晩中泣いていました。だから本当に嬉しくて嬉しくて……」

 研之介もほっとした。これで望月も悪夢を見なくなるかもしれない。

「でも……」

 澪はちょっと言いよどんだが、思い切ったように顔をあげた。

「そのとき望月はこれからは自分が頑張るというようなことを言って……その日から毎晩帰りが遅くなってしまったんです。どこかで働いているのだとは思うのですが、教えてくれません。佐々木さまはなにかご存じないでしょうか」

「い、いや」

 研之介は首を振った。

「それは何も聞いていません」

「左様でございますか。でも帰りがいつも遅いので、からだを壊してしまうのではないかと心配なのです」

 澪は細面の顔に手をやって不安げに呟いた。



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