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~鬼灯の夢~10

「なに?」

 望月も研之介も驚いて夏鈴の顔を見た。

「わっちの住んでいたところにはほおずきがたくさんありんした。ほおずきはわっちたちにとって必要なものであったからでありんす」

「必要?」

「主さまは、ほおずきをどう使うのかご存じありゃしんすか?」

 夏鈴は茶碗の中の波紋を見つめている。

「うむ。乾かして飾りにするくらいしか知らぬが」

「ほおずきは薬なんでありんす。身ごもってはいけない遊女が子供を堕ろすときに使いんす」

「あ……」

 夏鈴は顔をあげ、寺子屋の師匠を見た。

「お師匠さまの夢はきっとほんとうのことなのです」

「ほんとうのことだと? 女が、母が子供を食べたというのか」

「いいえ―――(かか)さまが食べられたのはほおずきでありんす」

「それは……母が子供を堕ろすために?」

「そしてきっと、その堕ろされる子供はお師匠様」

「ちょっと待て!」

 研之介は思わず夏鈴の顔の前に手を差し出していた。

「それは無理があるぞ。それなら望月どのは生まれていないことになる。腹の中の赤子がどうしてそれを知ることが」

「主さまも、お師匠さまも、月足らずで掻き出された赤ん坊を見たことはござんせんでしょう?」

 夏鈴は表情のない声で言った。

「人の形を成してなくとも、耳や目はできているのでありんすよ」

 研之介の背にそくそくと寒けが昇った。カクン、と望月の背が低くなる。糸の切れた操り人形のように、力が抜けて背が丸まっていた。

「お師匠様は初めてのお子さまができて、そのために赤ん坊の頃の思い出が甦り、そのような怖い夢になったのではないでしょうか」

「も、望月どの、これは夏鈴の、子供の想像だ。本当の話ではない」

 呆けた表情の望月に、研之介は声を励まして言った。

「ほおずきが堕胎の薬だとして、お母上がそれを使われたという証拠はない」

「―――いや、佐々木どの」

 望月はかすれた声で呟いた。

「そう考えれば実はいろいろと思い当たる。母は拙者にだけ甘かった。兄弟たちに隠れて菓子をくれたこともある。叱られた覚えもない。しかしそれは優しさではないとなんとなく知っていた……」

 望月の目はうつつを観ていない。過去を、記憶を辿っている。

「……遠慮がち、そうだ、母はいつも拙者に対して距離をおいて接していたような気がする」

「いや、しかし、結局母上は望月どのを生んだのではないか、子供を殺したい母親などおらぬ」

「母はいつも拙者を殺し損なった子供だと思っていたのかもしれぬ」

「考えすぎだ、望月どの!」

 研之介はこんな状態をもたらした夏鈴を睨んだが、彼女はそしらぬ顔で茶を飲んでいるだけだ。

「―――望月どのがそう感じ取られるのは自由だが、それも過去の話だ。今は望月どのにも子供がおられる。そんな夢などに惑わされず―――」

「違う、違う!」

 望月は研之介を遮った。。

「それを聞いて拙者はもっともっと恐ろしくなった。拙者は───拙者たちは妻に宿った赤子を殺そうと話していたのだ」

「なんと?」

「恥ずかしい話だがうちには借金があり、とても子供を養っていく余裕がないのだ。子供をもてば親子三人、飢え死にしてしまうやもしれぬ。そう言って腹の子をどうするかと話しておった……ああ……」

 望月は泣き出した。

「子供はその話を聞いているかもしれんのだな……!」


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