~鬼灯の夢~6
三
研之介が兄と別れの挨拶をすまして数日後。日差しはますます強くなり、江戸の町の屋根の上に七夕飾りが現れだした。
江戸っ子は競って背の高い竹を揚げる。黒い屋根瓦の上に色とりどりの笹飾りが揺れているさまは壮観だった。どの軒下でも葉や紙が揺れるたびにカサカサ、サラサラと音がする。
寺子屋から戻ってきた夏鈴と信吾はみんなで短冊を書いて飾ったと言う。それを家でもやりたいと騒いだので、研之介は笹を買いに行くことにした。
三人で乾いた道を歩いていくと、突然信吾が研之介の手を振り払って走り出した。人込みの中にちょろちょろと消えてゆく。
「こら、信吾!」
あわてて追いかけてゆくと、信吾は背の高い侍に話しかけていた。
「お師匠さまでありんす」
夏鈴が小声で言った。寺子屋の師、望月聡馬だ。
研之介と大差のないしわだらけのひとえに色あせた帯を絞めている。刀は脇差しだけだった。
望月はこわい髭の生えた顔で研之介に笑いかけた。
「佐々木どの、三人で揃って買い物ですかな」
「はい、七夕の笹を求めにゆきます」
研之介は信吾の頭に手を置いた。
「申し訳ござらぬ。信吾がなにか迷惑をおかけしませんでしたか」
「いや、きちんと挨拶ができてえらかったとほめておったのだ」
ほめられた信吾は自慢げに笑った。
「そうでしたか。俺はなにしろ親としては素人なので、望月どのや奥方にいろいろと躾けをしてもらわなければやっていけませぬ」
「なにをおっしゃる。親というのはだれだって子を持って初めてなるものです。拙者は確かによみかきや礼節を教えることはできるが、正しい心や人としての有り様は子供が親を見て学ぶもの。佐々木どの、自信をもってまっすぐに子供たちに向き合えばよいのですよ」
望月は穏やかに笑った。研之介より一回りほど年上だが、笑顔は若々しい。髭をそってさっぱりとすればさぞ男前になるだろう。
「そういえばわざわざ買いにいかなくても、この先の川べりに笹や竹はいくらでも生えておりますよ」
望月の言葉に研之介は「ほう」と明るい声をあげた。
「それは助かります。どちらですか」
「ご案内しましょう」
「いや、それは。そんなご面倒をおかけしなくても」
「ちょうど暇をもてあましていたところです」
望月は先に立ってスタスタと歩きだした。信吾が飛び跳ねるようにしてついてゆく。仕方なく研之介もそのあとを追った。




