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~鬼灯の夢~4

 翌朝、研之介は佐平から渡された夏御召にぱりっとした袴を履いた。夏鈴も信吾もそんな上等な格好をした研之介を見るのは初めてだったので、目を丸くしていた。

「主さま、ほんとうは姿のいい方でござんしたねえ」

「ほんとうは、というのはなんだ」

 研之介は着物のたもとをひっぱった。

「似合うか?」

「お似合いでありんす」

「借り物なのだ。今日はちと格式のやかましいところへ行くのでな」

 研之介は二人の文机を見た。

「お前たちが寺子屋から帰ってくるころまでには戻ってこよう」

「あい」

 二人が長屋の入口まで出て見送ってくれた。立派な着物の効果かもしれない。手を振って出向く研之介の胸のうちは、嬉しさ半分、煩わしさ半分というところだった。


 屋敷は○○町にある。

 相内藩は二万五千石、石高は低いが領地は土や水に恵まれ領民の暮らしぶりも安定していた。

領主の羽佐間時宗は現在五五歳だが、去年から病を得て政務のほとんどを嗣子の時定と家老たちに任せている。時宗が隠居し時定が家督を継ぐのも早晩の問題であろう。

 正門につくと佐平が門を開けてくれた。一年ぶりの屋敷だ。

 玄関からあがるとき、思わず左右を見てしまったのは、義母であるお光の方の存在を恐れたからだ。兄に会いに来たと言えばいやみのひとつも言われるだろう。だが幸いにもその恐ろしい姿は見えなかった。

 羽佐間時定は研之介と九つ違いの三一歳。物心ついたときから研之介の味方はこの兄だけだった。

「久しいな、研之介」

 上座に座った時定は平服している弟を見てゆったりと微笑んだ。

「元気そうだな」

「兄上も」

 研之介は顔をあげ、兄の顔を見てほっとした。一年前に会ったときとあまり変わっていなかったことに安心したのだ。

「国元での(まつりごと)、さぞご多忙のことと思いますが」

「いやいや、家老たちが優秀なのでな、私は楽をさせてもらっているよ」

 兄はおかしそうに笑った。

「それよりお前だ、研之介。家を出て長屋住まいももう二年、そろそろこちらへ戻ってくる気はないか」

「それは―――」


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