第三章~鬼灯の夢~1
一
コンコンコンと調子のよい音のあと、ゴスッという鈍い音と、「いたっ!」という叫び声が聞こえた。
「……ってぇ……」
研之介は金槌で打った指をしゃぶった。同じ長屋に住んでいる大工から借りた道具だが、なにか恨みでもあるのかと思えるほど、指を狙ってくる。
「おいちゃん、だいじょーぶ?」
信吾が心配そうな顔でのぞき込んでいる。研之介は手をぶらぶら振って笑いかけた。
「大丈夫、大丈夫。なんてことないさ。それよりどうだ、これ」
さっきから手を腫れあがらせて作っていたのは小さな文机だ。明日から寺子屋へ通う信吾と夏鈴のためのものだった。
寺子屋で使う机は親が作って持たせるということを知らなかったので、朝から大慌てで板や釘と格闘していた。しかし、剣術以外は不器用な研之介、思い描いたものとなんだか微妙に違う。
信吾は地面に置いた文机に手を置いて揺すった。
「がたがたするよー?」
「そりゃ地面がでこぼこだからしょうがないさ」
「んー」
信吾は首をひねってがたがたと机を揺すっている。
「なにをしてるんですか、研さん」
声をかけられ振り向くと、背の高い紋次と丸っこい与ノ助のでこぼこ二人組だ。
「やあ、二人そろってなんて珍しいな」
「日本橋を通りかかったら、この旦那が店から飛び出して声をかけてきたんだよ」
紋次が苦い顔をして言う。
「大店の若旦那がやくざに声をかけるなんて、なにを考えているんだか」
「いいじゃないですか、あたしら兄弟なんでしょう?」
与ノ助はにこにこと人のいい笑顔を見せる。
「杯も交わしてないのに兄弟にされちまったよ」
紋次は仕方なさそうに笑った。少し嬉しそうだ。
「それよりなんですか、それ」
指をさされたので研之介は地面から作品を拾い上げた。
「信吾の文机だよ」
「文机?」
与ノ助と紋次が揃って声を上げた。
「ちょっと見せてみろ」
紋次が研之介から取り上げる。ひっくり返して足の部分を見ると、それを掴んで引っ張った。
パキン、と音がして足がはずれる。
「ああっ、なにをする、紋次!」
「冗談じゃねえ、こんな机、ひじをついたらすぐにぺしゃんこだ」
紋次はしゃがみこむと地面に置かれた鋸を手にする。
「だいたい、足の高さが揃ってねえだろ。釘は曲がってるし左の足はまっすぐで右の足はななめって、これはもう机じゃねえよ、しかも切りっぱなしでやすりもかけてねえし、立派な道具が赤面する出来だぜ」
「そこまで言わなくても」
研之介はふくれたが、まあ言われればそんなものだ。
紋次は黙って足を削りだした。
「文机なんて言ってくださればあたしが贈らせていただいたのに」
与ノ助が苦笑して言う。
「いや、寺子屋の机は親が作るものと決まっているようだったからな」
「寺子屋?」
与ノ助が声をあげ、紋次も鋸を引く手を止めた。
「信吾ちゃんを寺子屋に通わせるんですか?」
「ああ、夏鈴も一緒にな」
「それは――」
与ノ助と紋次が同時に言った。
「まだ早いでしょう」「いい考えだ」
二人は顔を見合わせた。




