~夏のしらべ~3
二
「ちょっと待て! 待ってくださいよ!」
悲鳴のように叫んだのは入佐吉だった。
「琴菊は文を七通書いたんでしょう? ここにいるのは四人だ。ここに来ていない三人がその、父親かもしれないじゃありませんか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれません」
治平は禅問答の答えのように言った。
「しかし、みなさんはここに来てくださった。それはつまりまだ琴菊さんのことを思っていらっしゃるということです。子供の父親にはそういうお人でいてほしい……」
「いや、しかしですね。いきなり子供と言われましても、わたしには女房も実の子供もおりますし」
入佐吉はくるりと与ノ助の方をむいた。
「あなた、お子さんは」
「へ? いや、あたしはまだ独り身で」
「じゃあちょうどいい、あなたが子供を引き取んなさい!」
「ええっ!」
与ノ助はあわてて丸っこい手を振った。
「そんな、女房もまだいないのにいきなり子供だなんて」
「少し落ち着け」
研之介は二人の商人に言った。
「父親かもしれないと言われただけだ。その子をどうするという話はまだ出ておらん」
研之介は治平に向き直った。
「で? 俺たちをここに集めてどうするというのだ。確かに三年前、俺たちは琴菊と関係があった。そして三歳になる子供がいる。そこのざる屋の言うように、その子の父親になれというのか」
「父親どころか、金を出せというのならお断りですよ!」
入佐吉がきんきん声で言う。
「こんな話なら来るんじゃなかった。わたしは琴菊にもう一度会えるのかと思ってきたんですからね。その琴菊が死んじまって、どこの種ともわからぬ子供を押し付けられるなぞ………」
「おい」
あまりのいいざまに研之介が声をかけようとしたとき、入佐吉の背後にいた紋次がひょいとその襟首を掴んでひっくり返した。
「ひええっ!」
仰向けになった入佐吉は驚いて手足をバタバタさせた。
「ぎゃあぎゃあわめくな、ざる屋」
紋次の声は静かだったが、ひやりとする怖さを秘めている。入佐吉は両手で口を覆った。
そのとき、小さく鼻をすすりあげる音がした。はっと四人の男の目が障子に向く。
治平は立ち上がると障子の引き手に手をかけた。
「琴菊さんの子供ですよ」