~手の届かない花~9
三
研之介が伊丹屋の用心棒を始めて三日たった。
夜になると与ノ助が徳利をもって顔を出し、話し相手になってくれたり、あれこれと気をきかせてくれたので、快適に過ごすことができた。
あまりに居心地がいいので、本当に夜盗でも出てくれないことには心苦しいと思うほどだ。
そこで黒鼠の情報でもないかと、浅草の紋次を訪ねてみることにした。
浅草に出向いて田丸一家のことを聞くと、誰もがすぐに教えてくれた。眉をひそめたり、困った顔をするものもなく、組は町に親しまれているようだった。
店屋がずらりと並びさまざまな商品を売っている。日本橋のような大店ではないが、活気もあり楽し気だった。研之介はあっちこっちと見て歩いた。
信吾や夏鈴を連れてきたら喜ぶかもしれない……、そう思って研之介は驚いた。なにをするにしても子供たちのことを考えてしまう。これが親になるということなのだろうか?
組は門を持たず、路面に広い玄関を開けていた。若い者が箒で道を掃き清めていたが、その掃除は組の前だけでなく、両隣の家の前まで行われている。研之介はその若者に声をかけた。
「すまぬが、若頭の紋次さんを呼んでもらぬか?」
若者はくたびれた袴の研之介を見て、迷惑そうな顔をした。
「うちは今は用心棒は間に合ってるよ、浪人さん」
「いや、仕事の話ではない。紋次に用があるのだ」
「どんな用だい」
若者はぞんざいに言った。
「どんな用と言われてもな、話をしたいのだ。知り合いなのだ」
「諸刃の兄貴はそんなに暇じゃねえよ」
言いあっていると組からもう一人若者が出てきた。その男はさっと研之介に近づくと、腰をかがめた。
「もしや佐々木さまではございませんか」
「おう、お主は喜助か」
押上で紋次と一緒に大五郎の仲間と戦った男だ。顔を覚えていてくれたらしい。
「ちょうどよかった。紋次はおるか?」
「へい、今呼んできやしょう」
喜助はすぐに組の中に戻っていった。箒を抱えた若者は目をぱちくりさせる。
「ろ、浪人さん、いや、お侍さん。あんた、ほんとに紋次の兄貴に知り合いなのか……なんですかい」
「うむ、まあ兄弟のようなもんだ」
若者はひええっと叫んであわてて頭を下げる。
「し、知らぬこととは言いながら申し訳ござんせん!」
そこへ紋次が出てきた。おろおろしている若者を手を振って下がらせる。
「忙しいところをすまぬな」
「いや、別になにも用事はねえよ、それよりどうしたんだい」
紋次は研之介を組から少し離れた場所へ誘った。
「うむ、実は俺は今、伊丹屋の用心棒をしているのだがな」
研之介は紋次に江戸を騒がせている黒鼠の一党の話をした。
「もしかしたら紋次さんのところにそいつらの動向の情報などないかと思ったのだが」
「あいにく盗人とヤクザは違う種類でね」
紋次は別に気を悪くしたふうではなかった。
「盗品売買に関してなら少しはわかるが、押し込みをやるような連中がどこに潜んでいるか、次に狙うのがどこか、ということはわからねえな」
「そうか」
「ただ……」
紋次は腕を組んだ。




