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~手の届かない花~6

「なにかな、あいつは信吾以外の男には冷たいのだ」

「はあ、さようでございますか」

 与ノ助は困り顔の研之介に同情するように相づちを打った。

「琴菊さんは天女のように優しい(ひと)でありましたがねえ。夏鈴ちゃんは琴菊さんからその心映えを学ばなかったのでしょうか」

「ううむ」

 男二人は顔をつきあわせてため息をついた。

「ーーああ、だがな、夏鈴は悪い子ではないのだ」

 研之介はぱっと顔を上げた。

「あの年で台所のことは一通りできるし、あの子がきてから部屋の中はさっぱりときれいだ。洗濯もこまめにやるし、そのための水くみも厭わない。まあ俺はしょっちゅう小言を言われるが、」

「研さん、なにか得意げですな」

「え、そうか?」

 与ノ助はあわてて顔を擦る研之介をにこにこして見た。

「信吾ちゃんは自分の子供だと思いますか?」

「うーん、どうかな。自覚はないなあ」

 研之介は首をひねった。

「あの子はのんびりおっとりしている。三歳にしては少し言葉が遅いようだが、誰にでもにこにこと愛嬌がある。そういうところはお主に似ているんじゃないかと思うぞ」

「そ、そうですか?」

 こんどは与ノ助がまんざらでもない顔をする。

「そういえば紋次さんはいらっしゃいますか」

「いや、それが来ないのだ」

「やっぱり顔を出さないおつもりなんでしょうかね。相談したいことがあったんですが」

「どうしたのだ?」

 与ノ助はふっくらした頬を指でつつきながら、

「いえね、研さんもご存じかもしれませんが、最近「黒鼠」とかいう強盗による押し込みが続いているでしょう?」

「ああ、」

 研之介はうなずいた。町でよみうりを賑わしている盗人だ。

「箕輪屋さん、伏見屋さん、丹後屋さん……。日本橋界隈の老舗がのきなみ被害にあってるんです。まだ死人は出てないですけど、伏見屋さんではご隠居さんが斬られて大けがをなさってる。もちろん、店にあった金は根こそぎです」

「ふむ」

「うちでも毎晩交代で寝ずの番を立ててはいるんですが、おとっつあんもおっかさんも心配しておりましてね、それで紋次さんなら何か情報をお持ちでないかと」

「紋次はやくざであって強盗ではないぞ」

「ええ、それはわかっております。でも裏家業についてはあたしども素人よりはご存じでしょう」

「そうだなあ」

 研之介は腕を組んだ。

「まあ俺もどこかで会うことがあれば話をしてみよう」

「お願いします、あたしがおおっぴらに田丸組を尋ねるわけには参りませんので」

「なんだったら今日から俺が夜だけ泊まり込んでやろうか?」

「そうですね……」

 与ノ助はちょっとの間、目線を上に向けた。

「いいかもしれませんね、小僧たちを寝不足にするのも可哀想ですし、研さんにもお手当をはずむことができます」

「うむ、実は夏鈴に言われて鍋釜を買ったり味噌を買ったりして、汗だくなわりにはふところが寒いのだ」

 あけっぴろげな言い方に与ノ助は笑いだした。

「わかりました、それでは店に戻って両親に話してみます。あとで小僧をよこしますよ」

「うむ、頼む」

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