~手の届かない花~5
二
それから数日たった午後、伊丹屋与ノ助が大きな風呂敷を背負った小僧と一緒にやってきた。荷物を持っている小僧はもちろん、太った与ノ助も汗みずくだ。
「こんにちは、研さん」
与ノ助は開けっ放しの玄関に立って声をかけた。
「やあ、与ノさん、どうしたんだい」
「いえね、あたしとしたことがうっかりしてまして」
与ノ助は小僧から荷物を受け取った。
「布団ですよ、敷き布団と夜着。夏鈴ちゃんと信吾ちゃんの」
「え、それは」
研之介は驚いた。布団といえば高級品だ。
「そんな贅沢なものを」
「いえいえ、大層なものだと研さんにも受け取ってもらえないと思いまして、綿もずいぶん少ないものなんですよ」
「それにしても俺のより綿がはいっている」
「ああ、それでは研さんにも同じものをさしあげましょうか」
「い、いや、そんなつもりで言ったわけでは」
研之介はあわてて首を振った。
「遠慮しないでください。うちは布団屋、売るほどあります」
与ノ助は陽気な笑い声をあげた。
「二人はどうです」
「ああ、今遊びにでかけているんだが」
研之介は与ノ助を家にあげた。
「信吾は素直で年相応ないい子なんだが、夏鈴がむずかしくてな」
「むずかしい?」
「同じ年頃の子供をバカにするのだよ。とくに男の子を」
「ほう」
「郭で生まれ育った夏鈴にしてみれば、同じ年の子供はガキっぽく見えるらしい。まあ女の苦労を見ているから仕方ないのだろうが」
研之介はやれやれというように首を振った。こんな愚痴を言える相手がいるというのはありがたいことだ。
「こないだも近所の飯屋の男の子と言い合いになってな」
と、研之介は太一と夏鈴の話をした。
「そんなふうだと信吾がいじめられるかもしれんぞと脅したら、すぐに飯屋に行って謝ったらしいんだが」
「へえ、そりゃあ素直じゃないですか」
「それがな、帰ってきてから言うことには」
夏鈴は研之介に向かってこう言った。
「やっぱり男はお馬鹿でおざんすねえ。ちょっと甘い顔をしたらころっとだまされて。だから子供だって言うんでありんす」
口元を隠してころころと笑う。同じ男としてさすがに研之介も不愉快になった。
「子供子供と言うが、おまえは太一と同じ年ではないか」
「主さまは郭をご存じない」
夏鈴はぴしりと言った。
「郭は女の精気を切り売りする場所。精気がなくなれば女はどんどん年をとりまする。あそこでは女は娑婆の倍の早さで老いていくんでおざんす」
そんな夏鈴の顔はほんとうに大人の女のようだった。




