~手の届かない花~3
「おい、夏鈴」
「まったく、こんな子供と一緒にどんな遊びをしろとお言いなんしか。男と女の遊びと言やぁ、閨の中でしっぽりと―――」
研之介はあわてて夏鈴の口をふさいだ。太一が目をぱちくりさせている。
「ねやのなかって?」
「い、いやその……ね、猫のいる納屋のことだ」
夏鈴は研之介の手を口から離させると、油揚げを食べる作業に戻った。
「すまないな、太一。照れているんだよ、初めて会ったから」
「うん―――なんか、変わってんな、おまえ」
その言葉を聞き、ぱしん、と夏鈴が箸を卓に置いた。
「おまえ、と言いなんしたか、おまえのような子供におまえ呼ばわりされるほど、この夏鈴、安くはござんせんよ」
「子供って……おまえだって子供じゃねえか」
太一は急に怒り出した夏鈴に面食らって言った。
「父母のもとでぬくぬく遊んで安らいでいるような子供と同じにしないどくれ」
「なんだと、だれが遊んでいるだと!」
「おまえが……っ」
「このあぶあぁげ、おいちいねえ」
激しくなる夏鈴と太一の声の中に、無邪気な信吾の声が割ってはいった。
「おにいちゃ、おいら、このあぶあぁげ、だいしゅき」
「……ありがとよ」
太一は怒らせていた肩を落とすと落ち着いた声音で答えた。
「ねえちゃ、おいちいね」
信吾は夏鈴にも言う。
「……そうね」
夏鈴も唇を尖らせてしぶしぶ言う。太一はそれを聞いて、こわばった顔に得意げな笑みを乗せた。
「そいつぁおいらが煮たもんだ。なんだったら作り方教えてやるぜ」
むっと夏鈴が目を吊り上げる。またなにか言いそうになったが、女将が白い飯と魚の皿を置いたので、それ以上は言わなかった。
「ごめんね、お嬢ちゃん。うちのばか息子がなにか怒らせたみたいだけど、飯に免じて許しとくれナ」
「ばかってなんだよ、おっかぁ!」
太一が抗議をしたが、その声も聞こえていないように、女将は夏鈴に向かってにこにこした。
「とんでもござんせん、女将さま。たいそうおいしい御馳走でうれしゅうござんす」
夏鈴は花がほころぶようににっこりと笑った。
「そうかい、たっぷり食べておくれよ」
女将は夏鈴の口調にちょっと怪訝な顔をしたものの、料理をほめられてうれしそうに笑った。
「えらいべっぴんだねえ、研さん。大きくなったらきっとこの町内の小町娘になるよ!」
「あ、ははは……」
研之介は笑って答えたが、内心では大きなため息をついていた。




