~手の届かない花~2
研之介は夏鈴と信吾を近所の「三ツ輪」という小料理屋へ連れて行った。のれんをくぐると「いらっしゃい」という明るい声がかけられる。
「こんばんわ」
「あら、佐々木の旦那」
真ん丸な顔の女将が研之介の連れた子供たちを見て目を丸くする。
「まあまあ、どこの子なの?」
「ゆえあって俺がこの子たちの面倒をみることになった。今後ともよろしく頼む」
「まあまあまあ!」
女将が大声を出している間に研之介は二人を椅子に座らせた。
「ここは俺が朝晩世話になっている飯屋だ。美味いし安いぞ」
研之介はそう言ったが夏鈴は眉をひそめただけだった。
「とりあえずご飯と魚の焼いたのと油揚げの煮つけたのでいいかね」
女将は研之介が何か言う前にどんどん皿を置いてゆく。信吾は油揚げの甘い匂いに鼻をくんくんさせた。
「食べろ食べろ」
研之介はそう言って箸を持たせてやった。
「いたぁきまぁす」
信吾は椅子の上に膝立ちになり、身をかぶせるようにして食べだした。
「はら、夏鈴も」
「いただきます」
夏鈴は皿を手前に引き寄せ、箸で小さく切ると上手に食べだした。
「かわいいねえ! どんなゆえあって、なんだい?」
「うむ、まあ、その、男の義理というやつだ」
昔の女の子供だと言ったらどんな詮索されるかわからないので、あいまいに濁した。
「確か女将さんとこの息子もこのくらいの年だと思ったが」
研之介は夏鈴を見た。
「この子らの面倒をみてくれるかな? 一緒に遊んでくれるといいのだが。なにせ初めての土地だ、友達は早く作ったほうがいい」
「そうさね、うちの子はやっつになったばかりだよ、ちょっと、太一!」
女将が呼ぶと、小柄な少年が板場から顔を出した。
「こっちおいで、佐々木の旦那がね、子供を引き取ったんだってさ」
太一と呼ばれた少年は前掛けで手を拭きながらやってきた。
「こんばんわ、研さん」
「おお、太一、今日も手伝いか、えらいな」
研之介は夏鈴の頭に手を置いた。
「俺がひきとった夏鈴と信吾だ。太一の遊び仲間に入れてやってもらえるか?」
太一は夏鈴を見て母親そっくりに目を丸くした。
「研さんが子供を?」
夏鈴はいやそうに研之介の手を払いのけ、太一を睨むように見た。太一は前掛けから手を放すと、腰に手を当てた。頬が少し赤くなっている。
「研さんの頼みならしょうがねえな、仲良くしてやらあ」
「―――別に仲良くする気なんかおざんせん」
夏鈴はぷいっとそっぽを向いた。




