世界と、現状
「これは……大変なことになったわね」
口に出しても、現状が変わるわけもなく。
私は窓にかじりつくようにして、外の様子をうかがっている。
知ってはいたけれど、本当に酷い。これほどまでとは……。
2ヶ月ほど前のこと──。
隕石が、地球に落ちた。
隕石自体は人がいない寂しい所に落ちたため、犠牲者はいなかった。
しかし、本当に恐いのはここからだった。
隕石衝突による異常気象──。
気温は跳ね上がり、わずか4日で池という池、海という海が干上がった。
とっくの昔に水道も止まっている。
しばらくなら貯えた水で人類は生きられる。が、それ以上に深刻なのは、食料不足だった。
例えばチーターを、人間が食べるとしよう。チーターのエサはトムソンガゼルだ。トムソンガゼルは草食のため、当たり前だが草がいる。そしてその草は、水がなければあっと言う間に枯れてしまう。食物連鎖が狂ってきたのだ。
今まで自然界を支えてきた食物連鎖。それによって人類が滅亡の危機にいるのは、なんと皮肉なことか。
いや……、人間も散々勝手なことをしてきた。そろそろ、潮時かもしれない。
でも死ぬのは怖い。死にたくないのだ。同じ人間に殺されて!
きっかけは、何の変哲もない男の人だったらしい。
その人には、もう水がなかった。その事で家族と喧嘩になり、弾みで奥さんを殺してしまった。そして、あまりに水と飢えていた男は、その血を飲み、肉を食らった。周りの人もそうしはじめ、人類は『共食い』し始めた。
ある日やってきた美喜にそうきかされ、戦慄した。
美喜というのは、私のお手伝いさんだ。
「お嬢様、綾乃様!どうされました!?」
「あっ、ごめんなさい。つい考え事を……」
私はある理由から、倉にこもっている。美喜は毎日来てくれて、世話を焼いてくれる。きょうはけっこうくるのが遅かったな。
美喜は今のところ無事だ。何でも、キックボクシングと柔道をたしなんでいるそうで。
「美喜?今日は来るのが遅かったですね。どうかされたのですか?」
「申し訳ありません、お嬢様。──襲われました。気絶させて、武器を奪っておきました。」
床に置かれたのは、乾いた血がこびりついた包丁。
「うぉう……」
私はグロ系に弱い。どれくらいかというと、乾いた血を見ただけでも「ちょっ……吐きそうなんだけど」となるくらいだ。
「お嬢様。いつまでもここにこもっているわけにもいきません。いつか食料も尽きます。何か解決策を考えないと──」
それはつまり──……。
「人を喰え、と……いうの?」
解っている。いつか食料不足に陥ることも。
でも──その事と直面して、私はなにもいえなかった。