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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
8/33

第四週目 季原家の恒例行事

 二月九日。通称二九(にく)の日。

 この日、我が季原家ではすき焼き、しゃぶしゃぶといった肉を使う鍋料理が夕食になる通例行事の日でもある。それで、夕食までの間に兄妹間で話し合い、今年はどっちにするのか決める必要があるのだ。


 「俺は、やっぱ、しゃぶしゃぶだな」


 「冬海は、すき焼き」


 「おねえは?」


 「しゃぶ」


 「麻薬か?」


 「ふざけるな、ナツ。冗談でもいうことじゃない」


 「あいよ、悪かった。んで、アキは?」


 「うーん、すき焼きかな」


 とリビングが会議室と化した現状。今のところ、二対二のイーブンだ。つまり、ここからが本番。


 「去年は確か、しゃぶしゃぶだったよね?」


 ここで先手を打ったのは冬海だ。流石と言おうかな。去年の結果を告げることで自然とすき焼きへの流れを形成できる。


 でも、この程度で年長者二人は動じない。


 「ん? そうだっけ? でもそれ、冬海が『しゃぶしゃぶがいい』って言ったからじゃなかったか?」


 「それに、去年がどうとか、今年に関係ない。過去を振り返るな、未来を見据えろ。妹よ」


 「おねえ良いこと言った!」


 こちらも中々やる。二人がかりで冬海が作ろうとした流れを打ち止めにした。それどころか、去年の話しを以降無効化する雰囲気を醸し出している。息の合った二人だからこその技だ。


 けど、それだけだ。コンビネーションならぼくらも負けない。


 「じゃあさ、すき焼きじゃ駄目な理由ってなにかな?」


 「そうだよ。しゃぶしゃぶは兄上と冬海が嫌だからだけど、なんですき焼きは駄目なの?」


 喋った理由次第で更に糾弾するつもりでいると。


 「好き嫌いはよくないぜ?」


 「それに去年しゃぶがいいと言っておいて、なんだその言い様は? ()(まま)も大概にしろ」

 

 主に冬海を攻める上二人。年下を苛めるなんて最低だね。


 「冬海ばっかり攻めなくてもいいんじゃない? それよりなんですき焼きは駄目なの?」


 「別に……駄目って訳じゃあねぇけど」


 「私達の気が進まないということだ」


 「なんで?」


 「なんでって……」


 「単直に言えば、気分じゃない」


 「あ、そう」


 気分じゃないって……。それでもお姉ちゃんなのかな? こういう時は弟妹の意見を優先するもんじゃないの? 勝手な上を持つと苦労するね。


 「気分で夕食をいちいち変えられてたらキリがないよ。兄上、ここはもうすき焼き確定だよ」


 「そうだね」


 「おっと、そういうわけにはいかねえよ? 何故なら、冷蔵庫にすき焼きの材料がないからな!」


 「「え?」」


 「そう言えば、白たきとネギ、後、ゴマだれやソースもなかったな」


 「「それを先に言ってよ!!」」


 二人であっけらかんとしている上二人に抗議する。あれ、でもちょっと待って。


 「でもさ、しゃぶしゃぶも出来なくない? できたとしても、白たきやネギがないしゃぶしゃぶはしゃぶしゃぶって言えるのかな?」


 「「…………」」


 春馬お姉ちゃんと夏目お兄ちゃんが黙り込む。図星だったかな?


 「そんなことにも気付かないなんて、ホントに愚姉と愚兄ね。この世に存在する価値ないんじゃない」


 蔑んだ目線をした冬海はぼくの肩に手を置いた。何?


 「兄上一人いれば、生活面の心配無いし、二人はとっとと土葬されるなり火葬されるなりして天に召されてほしいよ。あ、水葬でもいいよ」


 出た……ドS冬海。拡散攻撃を繰り出して、実の姉兄にダメージを与えるぅ!


 「お、おう……確かにアキの作る飯は美味いしな。料理をアキの担当にするのもいいかも」


 「それは止めて」


 疲れるから。でも、褒めてくれるのは素直に嬉しいけど。


 「今、この瞬間、天に召されそうッ!」


 「それも止めて」


 気持ち悪いから。引きながら、机に前のめり状態のドMちゃんを止める。妹の暴言で召されたら、死因はなんだろう? 快楽死? それとも、罵倒死? まぁ、どっちでも変死体が転がることに変わりないんだけどね。


 「兄上どうするー? すき焼きもしゃぶしゃぶも無理だけど」


 「ちょっと待ってね。冷蔵庫見てくるから」


 なにかあったかな?


 牛肉、豚肉、玉ねぎ、椎茸、ピーマン、えのき、人参、焼肉のたれ……。あと、牛乳とお酒とジュース。


 「……焼肉できそう」


 調味料もまだ大丈夫だし、なにより、この日のためのお肉がたくさんある。


 「お兄ちゃん、昨日の買い出しって誰だっけ?」


  「冬海だろ?」


 ………………………………狙ってたのかな?


 「買い出しの時メモ渡されて、その通りに買ったんだよ!」


 ぼくの究明の視線に堪えかねたのか、冬海は焦りつつ抗議する。


 顔を紅くしているその様は可愛らしい。


 「分かったから、落ち着いて冬海。じゃあ、誰が、メモを?」


 「私だ」


 ビシッと挙手して、即答したお姉ちゃん。さっきの涎をタオルで拭いていた。うん、切り替え早いね。


 「おねえが書いたんなら、間違いねぇんじゃね?」


 「それは違う、愚姉が書いたから怪しい」


 「わおー。言い切った」


 「冬海が私を疑う根拠はそれか?」


 「存在そのものが疑わしいからね」


 「アキ、どうする?」


 お兄ちゃんが険悪な雰囲気を感じ取って、ぼくに一言訊く。


 「いつものことだしいいんじゃない? それより、ぼくは焼き肉の準備するよ」


 「手伝うか?」

 

 「いいよ、大丈夫」


 せっかくの恒例行事だし、お姉ちゃんも冬海もおいしいお肉を食べれば機嫌も直るよね。


 味付けに手間をかけてみよっかな。


次回の投稿は二月一六日午前一時です。

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