次女・冬海ストーリー 〈季原秋斗の妹としての顔〉
肌寒さのある空気と日が沈んだ歩道を一人で歩く冬海はカバンからスマホを取り出し、電話をかける。
電話を掛けられた相手はワンコール置かずに出た。
『もしもし』
安堵感を湧かせる声に冬海は癒され、いつも帰りが遅くなるとこの相手に電話をかけてしまう。
「兄上、今から帰るよ。今日のご飯なに?」
寂しさと夜道を歩く怖さを紛らわすためと会話をつなげる。
兄の方もこれを承知しているので、なんら問題ない。
『今日はお前の好きなモンだ』
「え! もしかして、兄上のはだか――――」
『天ぷらだ。てか、帰り道だろ? あんま大声でそういうこと言うな! 兄ちゃん怒るぞ』
「兄上に怒られるなら、ドンとこいだよ! なんなら、お仕置き込みで!」
『ホントに怒るぞ……大声出すなって言ったそばから……まったく。はぁ……今どこだ?』
辺りに目をやり、目印となるものを発見。
「今? 駅過ぎたとこー」
「ホントだな」
と、目の前に電話を耳に当て、片腕を腰に当てた制服姿の愛兄。
冬海は全力で駆けだす。
「あにうえー‼」
「おう。おかえり」
近くまで行き、頭を撫でられるだけで冬海は一日の疲れをリセットできる。ような気がする。
「聞いてよ、今日生徒会の仕事がさぁ」
それから、兄と他愛のない話をしながら家まで歩く。その時間だけが大好きな兄を独り占めにできる唯一の時間。
冬海は兄のことが最初からこんなにも大好きだったわけじゃない。
でも、やはり、ここまで好きになったのは、とある事情があるがそれはまた別の話。




