次女・冬海ストーリー 〈生徒会の書記としての顔〉
様々な書類やファイルが陳列した生徒会室。秋の薄暮は、活気溢れる中学校は静々としていることを告げる。
なお一層、黙々と業務を全うしている生徒会役員は半数以下であった。
「冬海ちゃん、もう帰っていいよ。残りはボクがやっとくから」
「はーい、それじゃあ、お疲れでーす」
季原冬海、一三歳。浅葱中学校一年生にして、生徒会書記を務める彼女は、各部の予算管理を終え、書類を束ねていた。
「あ、思い出した。ツバキ、友達のヒナちゃんがラブレター出すって」
「え……また? これで一五人目だよ……」
赤みが掛かった髪に凛々しい顔立ちをした生徒会長。荷物をまとめながら告げる冬海に、困った顔を向けるツバキは、山盛りの書類に目を通し、ため息を漏らす。
「勘弁してほしいよ……仕事はこんなに山積み、部活も顔すら出せない状況で……」
「中年サラリーマンみたいな愚痴は冬海が帰ってからやって」
「愚痴ぐらい聞いてよ……」
書類の山を前に脱力した背中を椅子に預けるブルーな赤髪会長、市井椿。
荷物をまとめ終えた冬海は、生徒会室の出入り口まで行くと、ふと質問を思い出して立ち止まった。
「それより、いつも通り冬海から断っておけばいいの?」
「ああ、うん。お願い」
「あーあ、女泣かせなかいちょーだ」
「ボクもこう見えて『女』だからね⁉」
ガタガタと音を出して立ち上がる会長に、雪のごとく冷たい視線を浴びせる書記。
「はいはい。ボクっ娘キャラね。カワイイカワイイ」
「扱いが雑じゃん……一応、ボクの方が年上だからね……」
「柚紀ちゃんはそんなこと気にしてなかったよ?」
「姉さんと一緒にしないでくれる! あの破天荒さに苦労してたボクの気持ち、わかる?」
「冬海は、苦労したことないからしらなーい。というかむしろ楽しかったけど?」
「ああ、笑顔なのに嫌味だ……。流石だよ……」
「なにが、なんて訊かないから。じゃあね」
「ホントに帰っちゃうんだね……」
「さっき、帰っていい、みたいなこと言っといて。なに? さみしがり屋なの?」
「今ならもれなく書類の山積み付きだよ」
「いらない」
心境を理解されたからか、安心したような表情で冗談をかますが、冬海は構わず生徒会室の扉をピシャリと閉めた。




