第二二週目 突然の恋慕宣言
さぁ、放課後だ。
逃げよう。
「待ちなさい秋斗」
「制止。季原」
荷物を素早く担いで退散しようとするが、二人の女子に呼び止められて、がっかりしながらぼくは立ち止った。
でも、え? 二人?
ぼくと同じことに疑問を持ったんだろう真が詩稲さんに近づいて、狼狽えながら尋ねる。
「し、詩稲? どうしたのさ。アキを呼び止めるなんて……露草にケンカを売るようなもんだよ……?」
「上等。むしろそのつもり」
険しい(分かりにくいけど)剣幕で真を一蹴する詩稲さんに刹那は鼻で笑う。
「真田さん、だったかしら? 秋斗に何か用があるの?」
「無い。用があるのは、お前。季原に付きまとうのをやめるべき」
「貴女に言われる道理はないわ。逆に、貴女の方こそ何様のつもりなのかしら? 私が秋斗と一緒にいると何か不都合でも?」
腕を組んだ時の刹那は、機嫌が悪くなってきている時だ。このままだと、詩稲さんに何かしかねない。
「二人共、そういう危ない感じはやめてよ。しかも、ぼくを挟んでる時にさ!」
さっきからぼくを盾に好き勝手言い合ってるけど、こっちはスゴく気まずいんだよ!
真だって、いつの間にか消えてるし。大方、茜さんが呼びに来て一緒に仲良く帰ったんだろうけどさ……。
あのリア充め……さっきまであんなにぼくの心配してたくせに、なんだよまったく!
「不都合ならある」
ぼくの要求をスルーして、無表情に反論する詩稲さんはなぜか、ぼくの手を自身の胸に押し当てた。
え?! ヤダっ、小ぶりながらよく実ってるわ! 柔らかいわ!
オネェ口調になるくらい動揺しちゃうわ! どうしちゃったの、詩稲ちゃん!
「恋慕。季原は私の王子。露草刹那、お前がいると、一緒にいられない」
「……」
「……そ、っそうなの? ぼ~っとしてないで答えなさい、秋斗!?」
…………………………はっ! あまりの衝撃に気絶しかけた……。
でも、え? これって……ぼく、告白されたの? 詩稲さんに?
「ふっ嘲笑。お前は季原の恋人ではない。いや、元恋人に過ぎない」
「なんで貴女がそれを……知っているの?」
流石の刹那も驚愕しているようだ。ぼくは想像が付く。真が色々説明したんだろう。かなーり、盛っているみたいだけど……。
恋人っていうか……まあ、確かに告白はされたけど、振っちゃったんだよね。ぼくが。
当時、中三だった刹那は良く言っても、性格に難有りきだったし。
振った直後に『この世の誰よりも、アナタを愛せるのは私よ』って諦めない宣言してて……少し嬉しいから困ったけど……。
「秘密。教える道理が無い」
そう言いながら、未だに自分の胸に押し当てているぼくの手を今度は円を書くように動かし始める。
フォー! なにこれヤバすぎない? 色んな制限引っかからない? スゴく興奮してくるんだけど!?
女の子の胸は柚紀ちゃん以来だけど、あの子とはまた違った感触だ……。女の子によっても違うんだ、お胸って……。
「赤くなってないで、離れなさい!」
「わっ!」
真っ赤になっていたぼくを身体ごと引っ張って自分の胸に抱く彼女。
うん! 今日は運気絶頂期だね!
詩稲さん、柚紀ちゃんとは段違いに膨よかで早い鼓動が聞こえる刹那のお胸。
「秋斗を誑し込もうにも、そんな些細なモノじゃ無理よ! 満足しないわ!」
「傲慢。そんな無駄な脂肪がある時点で幻滅する。バランスが良い肉付き、それこそが季原の望む美」
詩稲さんの両手がシャツの襟を掴んで、ぼくを刹那から開放する。
ちょうど中間でぼくは二人の女の子から腕を引っ張られるという、男冥利に尽きるイベントが発生した。
そして、イベント、というワードや、ぼくを探知する能力を有したあの子がこの状況を逃すわけもなく。
「せんぱーい! カワイイ後輩がお迎えに上がりましたよー! あれ、先輩?」
「ゆ、柚紀ちゃん……」
この両手に花状態を目撃してしまったぼくの後輩ちゃんは呆然としてしまっている。
そして、そんな真打ちをこの二人は流さない。
「卓然。入学式の……」
「あの子は……昔、秋斗と一緒にいた……」
引っ張る手が双方共緩んだ一瞬を突いて、ぼくは棒立ちになっている柚紀ちゃんの腕を掴んで、教室から退散した。
「停止! 季原!」
「待ちなさい、秋斗!」
後ろ手に聞こえる二人の好意に答えを返さず、ぼくは一目散に走った。
「先輩……」
ただ、ぼくに腕を引かれる彼女だけは頬を蒸気させ、微笑んでいることに気がつかないでいた。
次回は四月五日の午前一時です。




