第二一週目 真のお昼
愛情の形は人それぞれ、だなんて誰が言ったんだろう?
僕の親友にとって、愛情は恐怖の種になってしまっている。
もし、それが、露草の愛の形なんだとしたら、アキはまた折れてしまうのかな……。
「真くーん? どうしたの、考え事?」
茜の作ったサンドイッチを食べながら、真剣な顔をしていた僕を不思議に思ったんだろう。茜が持っていたはしを置いた。
茜に隠し事すると後が怖いので、素直に起こった出来事を一部始終話そう。
「うん……実はね、アキが――――」
「季原は困惑していた」
僕の声を遮ったのは、姉妹揃って同じお弁当を食べている詩稲だった。
実妹の発言の意味が解らない稲未は僕に追求の目を向ける。
「どういうこと? 季原になにかあったの?」
「稲未さんと茜は編入生のこと知ってる?」
疑問に疑問で返して申し訳ないけど、持っていたサンドイッチを置いて、僕は尋ねた。
「うん。真くんとシイちゃんのクラスだよね。噂になってるよ、スッゴい美人だって」
「さっきの体育でテニス部のレギュラー、ボコボコにしてたその編入生が季原になにかしたの?」
露草は相変わらず手加減をしらないんだ……。テニス部の子、絶望してないか心配だ……それに、アキ以外は普通に接してた露草にしては珍しいな……。
訝しむ僕を置いて、詩稲は目を閉じて不機嫌そうに言う。まあ、普通の人にはわからないくらい微妙な変化だけど。
「接吻。公衆の面前で季原に……ハレンチ女」
「せっセップン⁉ mouth to mouth⁉」
「ナミちゃん英語うまいね!」
「茜、そこじゃない……稲未は声が大きい……」
「一体どこの誰よ! 私がツバつけてた季原にそんなイヤらしいことしたのは‼」
「稲未も人のこと言えないと思うけど――――ってそうだったの?」
初耳だよ、そんなこと。稲未ってアキのこと狙ってたの……。
一人唖然とする僕の前で、ミニトマトのヘタを取る詩稲は淡々としゃべりだす。
「露草刹那。会話から推測する限り、真と季原の知り合い。身長一六〇センチ、体重四一キロ、スリーサイズ八八、五九、八五。下着、水色のレース。高校生にして現役モデルのような肉体をもつ処女」
なんで、トマト食べながらスラスラと喋れるのか不思議なところだけど……それより、鼻で笑ってる稲未がスゴいエロの達人のように見えてしょうがない。
「……ふっ、スケスケおパンツの処女とは……小娘の分際で」
「今日はコロコロと顔変わるねー。ナミちゃんも処女なんだから、そんな見下した顔出来ないでしょー」
笑顔なのにどこか怖さを感じるのは、たぶん……おっぱい、なんだろうなぁ……。
羞恥心を隠せず、鼻と口に手を触れさせる。
「ていうか、男子がいるのにそういう話題は……そもそも、なんで詩稲はそんなこと知ってるの?」
「分析。体育の着替え中に」
「着替えごときで処女かどうかわかるものなの……?」
当然の疑問を発言すると姉妹二人は息ピッタリで立ち上がった。
「失礼。着替えごときじゃない。育ち、癖、性格、肉体の特徴が現れる女の余技」
「そうよ! 夜のアレ的な前でも後でも、着替えは大事なのよ! 欲情ポイントなの!男の回復の泉なの!」
「真くん、夜のアレってなに?!」
楽しそうだから混じりたいっていうウキウキとした顔で同じように立ち上がる僕の恋人。
三人の女子に気圧される形になり、思わず、両手を使ってドウドウとやってしまう。
「えっと……あんまり教えたくないかなぁ……三人とも落ち着いて、僕が悪かったから、座って」
素直に謝罪すると三人とも納得してくれたようだ。
椅子に座り直してまず口を開いたのは、詩稲だった。
「姉は着替えフェチ。茜は純粋。真は童貞」
「詩稲はムッツリ。ムッツリしいな。ムッツリイナ。私の妹はムッツリイナ」
「沈黙。姉、宝物処分の刑」
「やめてッ‼ 『アキマコ』だけは! 詩稲にも貸してあげるから、私のコレクションを捨てないでぇぇ!」
この姉妹、どっちが姉でどっちが妹なんだろう? たまに怪しくなるよ。
そして、こういう話題に疎い(詳しくなって欲しくない)僕の彼女。
「あきまこ? 秋に食べるマコモかなぁ?」
「うん……そうだよ。石川県のマコモだと思うよ……」
確か、特産だった気がする……マコモご飯とかあったなー。茜と食べに行こうかな……。
それにしても……あの人、とうとう僕たちまでカップリングし始めたんだ……いくら兄さんの同級生でも流石に遠慮してほしい。
稲未はあの人のこと知らないはずなんだけど……どうやって入手してるんだろう?
ナゾだ……。
次回は三月三一日の午前一時です。




