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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
27/33

第一九週目 束の間の気分転換

 露草刹那(つゆくさせつな)の宣言はクラス中の動揺を生んだが、すぐさま受け入れられる事実となった。

 反論するタイミングを完全に逃したぼくは、見事、彼女の恋人と扱われることに。

 羨む者、悔しがる者、嫉妬する者、その大勢を彼女は「秋斗に何かするのだけは止めてね」という一声で切り伏せた。これによって、ぼくへの被害は心配なくなったが、誤解を解くのも難解になる。

 どうしようもなく、ただ()んでしまったまま、昼前の体育をこなす。 


 「……貝塚っ!」


 「オッケー!」


 薄い金髪セッターからのトスを強烈なスパイクでブロッカーを打ち破り、相手コートにボールを叩きつける真は、八つ当たりをしているように見えた。顔に苛立ちが出ている。背後に燃え盛る炎も。


 「ナイスっ、貝塚! あれ? なんでそんなに機嫌悪そうなの。俺のトスなんかまずかった?」


 「ああいや、全然。良かったよ」


 炎を鎮火させて、ニッコリ笑う真を前につけ上がる金髪。彼はこの体育の時間で親しくなった吉田(よしだ)。割とバカだけど、たぶんいい人。


 「そぉかっ! 流石、バレー部の俺だよなっ! な! 貝塚!」


 「……やっぱり、ちょっとネットに近かったかも」


 「なんで急にそんな突き放すの!?」


 山から谷へ突き落とされた吉田は、相手コートからの目など気にせず、一人騒がしい。

 そして、理由は、うざいからに決まってるじゃないか。壁によしかかっているぼくまでそう感じるんだ。相手をしているまこちゃんがそう思わないわけがない。


 「セットポイントは僕抜きで大丈夫だよね? 後、よろしく」


 「え!? 貝塚抜きでどうやって点取ればいいの! 最後までやってよ、ちょっとぉぉ!!」


 体全体を使ってオーバーにリアクションする彼を無視して、コートを抜けたまこちゃんは近くにいた男子を代わりにして、ぼくの元にやってくる。


 「いいの? 後、一点で勝てるのに」


 見上げながら、活躍を惜しむぼくに肩を(ほぐ)しているバレー部じゃないのに上手い人は疲労感たっぷりな顔だ。


 「疲れたんだよ……一人で二〇点は取ってるんだから、もういいでしょ?」


 言い終わって座るドヤ顔くん。


 「でも、真の他にスパイク打てる人、いないと思うよ。あのチーム」


 「吉田、バレー部だから」


 「吉田、リベロだけど?」


 相手チーム、体育会系の集まりで真抜きに対応出来るなんて思えない。

 ほら、早速、一点取られた。


 *


 「あー! 貝塚が最後までいれば、勝てたのに! なんで途中リタイアしちゃったの?!」


 体育が終わって教室に戻る際に、悔しがる吉田は真に責任を押し付けていた。

 力なく両腕が垂れる真。


 「疲れたからだよ……」


 「今頃、女子は悠々とテニスだもんね。あ、茜さんのテニスウェアを借りてくれば、全回復するんじゃない?」


 「それだ! ふふーん、じゃあ、貝塚、早速借りてくるんだ!」


 「ヤダよ! それじゃあ、まるで変態じゃないか!」


 「お兄さんは立派な変態だから、兄弟揃って変態でいいじゃん」

 

 「え、貝塚のお兄さんって変態なの!?」


 「うん。年がら年中、発情期なんだよー」


 「人の兄さんをケモノ呼ばわりしないでよ……」


 「ということは、貝塚もケダモノなんだぁ! 筆無さんを毎日襲ってるなんて、エロいぞこのヤロー!」


 「一文字多い上に襲ってないし……」


 「へ~、それってつまり、茜さんには女としての魅力がないってこと? 失礼な彼氏だなー」


 「季原の言う通り、彼女をなんだと思ってるだよ!」


 「めんどくさいなこの二人が揃うと……」


 このやり取りが教室についても続き、昼休みが始まる頃には、心身共に疲れ果てたまこちゃんでした。

 君の犠牲のおかげで、張り詰めていたぼくの心も落ち着いた。恐らく、わかっていて、敢えて、触れないんだろう。さっきのことに。

 やはり、真は、ぼくの本心を見てくれている。

 穏やかになった胸の内で、ぼくは静かに感謝を述べた。


次回は三月十三日の午前一時です

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