第一六週目 ぼくメインのお話は進まない
タイトル通り、ほとんど進みません。
入学式から三日が過ぎた。今日は土曜日。学校はお休みだ。
家でゆっくりしようとぼくは考えていた。でも、胸になにか引っかかって落ち着かない。
あー、やっぱり結構引きずっちゃうかー。マコちゃんとの絶縁。
「なんで、あんなこと言っちゃったんだろう?」
茜さんが残念そうだったから?
真が残念そうだったから?
「違う……ぼくは……また向き合わなかったんだ」
ベットの上で後悔の念に駆られるぼくは腕を目の上に載せた。
ぼくにとって真と茜さんは無二の存在だ。
そんな彼らとの絶縁は心が痛む。
そして、惜しんだ。
「あ、携帯のアドレスとかも消しとかないと……」
携帯を手に取り、アドレス帳を出そうとすると、着信が鳴った。
表示された名前は『筆無 茜さん』。
出て大丈夫だろうか? 恐らく、要件はあの時のことだろう。
『もしもし? ちょっと季原君と二人でお話ししたいなぁと思って……今、大丈夫?』
ぶっちゃけ、大丈夫。でも、縁を切ろうとしているんだ。ウソも方便ってことで。
無理かな、と言おうとしたその時。
『……代われ、茜。こういうのは男同士の方がいい』
低く、威厳のある声が電話から聞こえたんだ。この声、僅かながら聞き覚えがある。
途轍もなく、嫌な予感がしてきた。ぼくは慌てながら電話を耳に当てる。
「あ、茜さん! ちょっと、急用ができたから! それじゃあね!」
電話を切って、そのまま流れ作業で携帯の電源も切った。
「ふぅ……危なかった」
あの人、なんで妹の問題に首を突っ込もうとするの? ぼくだったら、助言するだけで、直談判まではしない。その子の為にならないからね。
ぼくが携帯をベットに放り、椅子に座って、携帯ゲーム機を手に取ると、コンコンと、部屋のドアがノックされた。
「兄上、お客さんだよー」
「こんにちは! 先輩!」
「柚紀ちゃん……?」
返事をする前に開けられたことに文句は言わない。だっていつもだし。
ぼくは手に持ったゲーム機を机に置いて、椅子から立ち上がった。
「あれ、先輩? ちょっと元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「ホントだ。兄上、いつもよりなんか暗い」
年下二人に心配されるなんて……ここは強がっておこう。
「うん。大丈夫だよ。それより、ぼくに用事かな?」
「今日は柚紀ちゃん、冬海と遊ぶ約束してるの。『ついでに』兄上に会った方がいいでしょ? あ、柚紀ちゃん的に、冬海と遊ぶ方が『ついで』だった?」
隣にいる柚紀ちゃんをチラ見しながら『ついで』を強調する我が妹は、友達をいじって楽しんでいるようだ。誰に似たんだろう?
「も、もう! 止めてよ……事実言われちゃうと……気まずいから……」
紅い顔で「ね?」と冬海を制止する可愛い後輩ちゃん。こっちまで、顔熱くなってきた……。
「えっと……後で、お茶入れに行くよ」
「ありがとー。兄上も柚紀ちゃんとお話ししよっ! 二人の今後について、語り合おうよ!」
「なんで、それを冬海が言い出すの……?」
「え~、だって冬海は~二人の~キューピットちゃんだも~ん」
「こんな照れてて、嬉しそうな冬海初めてみたよ……」
「中学の時は割とこんな感じでしたよ?」
「そうなんだ……」
家と雰囲気違うのは知ってたけど、まさかここまでとは。
「では、先輩……お部屋で、待ってます」
「耳元で言った風なの出したいの? 悪いけど、ぼくは椅子に座ったままだし、君が手で口元を見られないようにしても、隣の冬海に丸聞こえだから」
「柚紀ちゃん、大胆っ!」
はぁ……妹までのってるなー。
仕方ない。兄として先輩として、後でお茶出しに行くとき、少しだけお話しに付き合おう。




