第一四週目 市井柚紀の回顧
クリスマスのうちに投稿したいという謎の願望……
ギャルさんを躱した後、残りの授業(どれも授業というより自己紹介タイム)を終えた。
今日は午前で終わりだし、帰りに何か買って帰ろうかな。
「あ、あれは……」
廊下を歩くぼくの前、見知った後ろ姿が一人で歩いている。
そういえば、クラス分かってから連絡してなかった。まあ、ギャルさんがしつこかったっていうのが原因なんだけどさ。
そうだ。どうせなら早歩きで背後に近づいて、驚かそう……。
こっそーと足音を殺してアサシンさながらの足取りで背後をとり、やろうとしたその時――――。
「先輩! お昼どうしますか?」
「わっ!?」
さっと振り向いて、元気な声でぼくに詰め寄る柚紀ちゃん。ぼくは通路の邪魔にならないように、端によって彼女にも促す。
素直に壁際によったからなのか、なぜか、喜んでいる彼女にぼくは落ち込みながら尋ねる。
「なんでわかったの? せっかく驚かせようと思ったのに……」
「ふっふーん。甘いですね、そんなことでユズの能力、『アッキーレーダー』を掻い潜ることは不可能ですっ!」
またハキハキと中二病みたいなことを……。ちょっと苦笑い。
「随分と便利な能力があるんだね……」
「はいっ! 先輩の匂いなら半径一〇〇メートル、気配なら半径三〇〇メートルまで余裕です! 因みに、ユズは具現化系でっす!」
「……君は念〇力でも使えるの? それも達人級……」
危ないことを平気で言わないでほしい……ぼくもだけど。
「まあ、惜しむべきポイントは、先輩以外には使えないところですかね。でも、ユズはそれを条件にしたんですけどー、ふひひっ、かっこほし」
「『かっこほし』って……柚紀ちゃん、変換できてないよ?」
ぼくの糾弾を受けた彼女は、若干、気を悪くしたようで、ツンっとそっぽを向く。
「細かいミスはユズじゃなくて、地の下の人に言ってください」
「天の上じゃなくて地の下って……真逆じゃん」
君、今日はギリギリ発言連発ですね……。回収するのぼくなんですよ……勘弁して。
呆然とするぼく。そんなぼくを見てか、彼女は何か意を決したような顔をして、近かった距離をさらに詰めた。
「な、なに? どうしたの?」
「……(ドン!)」
無言で壁ドン。年下の可愛い女子に冴えないぼくっ子男子が壁ドンされた。
「壁ドンです☆」
勝ち誇った顔でニヤっと壁に小さく細い手を押し当てる彼女は無邪気に見える。
ちょっとしてやられた感があるね……。
「……一本取られたよ。まさか君に壁ドンされるなんてね」
ぼくは彼女の顔を見て目を細めた。
「先輩には笑っていてほしいですから。その為にユズは今まで頑張ってきたんですよ」
何かぼくにはわからないものを隠した柚紀ちゃんの顔をぼくは覚える。
この顔の裏にある何かをぼくは知ったほうがいいのか、わからない。
でもね。
「はい。中二病的展開はここまでだよ、柚紀ちゃん?」
「えぇー、もうちょっと続けてくれてもいいじゃないですかー」
そう。☆がついたあの辺りから若干、怪しいと思っていた。
「ごめんね。また今度。これから、買い物行かなきゃだし」
「お供しますよ、先輩?」
「ダメって言ってもついてきそうだね」
「だって、断れる理由、ありますか?」
「ないよ」
「お昼はどうするんですか?」
「買い物してる最中にでも済ませるよ。冬海は午後も学校だから帰ってこないし、上の二人も帰ってこないから、ぼくだけだしね」
「『だけ』じゃないです! ユズがいますよっ!」
「ふふっ、君ってブレないねー。家においで。買い物ついてくるなら、帰りによってよ。大したものは出せないけど、お昼作ってあげる」
「ほんとうですかっ、先輩!」
彼女といると自然と嫌なことを忘れられる。
リア充が幸せなわけが一つわかったよ。
「今日なら、いいよ」
ぼくたちは、いや、ぼくは、向き合うことはせず今日を終えた。
*
夜二二時。ベットの中で今日のことを振り返る。
「今日、楽しかったなー……」
思い出すと、頬が自然とゆるむ。
買い物を済ませて、お昼は先輩のお家で一緒に卵焼きを作って、夕方まで、お喋りをして……。
あの卵焼き……ユズが作ったの、おいしいって言ってもらえてすごく嬉しかった。先輩のには、負けましたけど……なんであんなに美味しくできるんだろう?
秘訣があるのかな……今度聞いてみよ……。
ずっと続けばいいのに、なんて思うくらい先輩との時間は楽しかった。
でも、先輩の買い物は夕食のメニューを考えずに行うと思い知りました。
スーパーに入って最初に目にした特売品の広告『牛肉半額!』に反応した先輩はお肉売り場に早足で行ったのに、いつの間にか、野菜売り場にいて、そこから真反対の魚の切り身が売られた場所に一分で到着し、鮭に落ち着いた。
理由が『冬海が好きなんだよね、鮭』。冬海ちゃんが羨ましかったです……。
正直、先輩の本気を垣間見たと思います……妹への。
ピロン♪
携帯のバイブがなったので開いてみると、冬海ちゃんからです。
『兄上が作った焼き鮭だよー』
『とっても美味しそう! 羨ましいっヽ(●´ε`●)ノ』
携帯をスリープにしてもう一度、ユズは布団に潜りました。
「(明日……早く来ないかな)」
こんなにも明日が待ち遠しいなんて、小学生の頃は思いもしなかったなー。
「(頑張ってよかった……先輩にもう一度振り向いてもらえて)」
興味もなかったオシャレや美容を勉強したり、お母さんに料理を教えてもらって……意外とユズって頑張り屋さんなんだって気づいた。自分でも可笑しい。
勉強も運動も友達作りも、何も頑張らなくて良かったのに……、好きな人に振り向いてほしいと頑張れた。
その結果、ユズは変われたんです。
何も頑張らなかった時よりも、何もかも頑張った時の方が、ユズも周りも気持ちがよかった。
「……アキ先輩」
先輩の夢、見れたら明日の話のタネにしよっと。
できれば、ユズと先輩が初めて出会った中学一年の頃がいいな……。
慌てて投稿したため読みづらかったと思います。
すみませんでした。
今年はホワイトクリスマスならずで……リア充の皆様、ご愁傷様です(笑)
(これが言いたかった……!)




