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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
19/33

クリスマス特別話〈サンタ色と灰、金、褐色〉

 一二月二四日、クリスマスイブ。昨日、今年初めての雪が降って、ギリギリホワイトクリスマスとなった。

 街中はハロウィーンの時同様、イルミネーションがキラキラと輝いている。光色と、曇天から零れる白い結晶は、相互に美しさを増していく。そして、街並みをどんどん神秘的に彩っていく。


 今日、ぼくには予定がある。それは、友達と過ごすこと。

 折角のクリスマスイブ、ぼくを哀れに思ったリア充が誘ってくれたのだ。

 『僕の家でパーティするから、アキも来なよ』と。


 勿論、それまで予定がなかったぼくはそのお誘いにのった。まあ、明日は家族と過ごすからダメだけど。イブは毎年、部屋でゲーム、漫画三昧だから、ちょうど良かった。

 さて、前置きはこの辺にして。


 「じゃ、真、音頭(おんど)よろしく」


 「オッケー。みんな、コップ持った?」


 会場、貝塚家のリビングにて、メンバーが一様(いちよう)にコップを持つ。


 「それじゃあ……メリィークリスマース!」


 「「「「「メリークリスマース!!」」」」」


 カコンとガラスのコップが音を立て、パーテイの幕を開けた。


 すると、早速ご馳走にかぶりつく卑しい子が二人。


 「こら、冬海! そうやってすぐ、チキンを食いちぎっちゃダメだよ。女の子なんだから。それと、稲未さんはその手に持ってるの置いて」


 「はーい」と、冬海は生返事返すだけで手を止めない。

 一方、右手にグラス左手にBL本を持った稲未さんはスイッチON状態で近づいてくる。詩稲さんは見張り番のような目で、姉の後に続く。


 「その手ってどっち~?」


 両手を顔まで上げて、にへへと笑う彼女にぼくは少し身体を引いた。


 「左手だよ」


 「あ、こっち?」


 「なんで右手のグラスを置くの?」


 ぼくの問いかけに首を傾げる稲未さん。後ろで詩稲さんが溜め息をついている。


 「へ? だって季原から見て、左手でしょ?」


 うわぁ……うぜぇ……。こういうこと言う人ってかなりめんどくさいんだよね。


 「うんごめんぼくが悪かったね。君から見て左手です」


 「これは、ダ・メ」


 「無駄。そのBL本は、今朝、家の郵便受けに届けられていた。稲未宛てに」


 一八禁を大切にする姉に嫌気が差したのか、詩稲さんはそう呟くとぼくの背後に回った。


 「季原、姉の相手はいい。それより、どう?」


 稲未さんの「『いい』って何よ! 『いい』って!」という不満をスルーする。


 「どうって……その服装のこと?」


 クリスマス、ということでコスプレしているのは、何も街中だけではなかった。

 赤い布地、帽子や首元、胸元にある白が目を引くサンタ衣装。

 詩稲さんがサンタ衣装するだけでも驚きなのに、ミニスカートというチョイス。

 それは平生のクール詩稲さんとはギャップがありすぎた。


 「そう。似合う?」


 グラスを置いた手は机に触れた。

 ぼくはその手に目を向ける。


 「……似合ってると思うよ? 詩稲さん、そういう感じ珍しいね」


 ぼくがニコっと笑顔を見せる。すると詩稲さんは、目を閉じた。呆れじゃない、落胆しているようだ。


 「嘘。季原が目を合わせない時は嘘をついている時」


 ぼくですら知らないぼくの癖。詩稲さんは、本当によく周りを見てると思う。


 「……うん。ごめんね。嘘ついたよ」


 彼女の閉じた目を見て、諦めるようにぼくは言う。

 予見していたと目を開けて伝え、踵を返した彼女。


 「やっぱり、似合っていない……着替える」


 すぐにでも。と彼女が告げる前にぼくは露出された白く小さな肩に触れた。


 「ううん。似合ってるっていうのはホントだよ。ぼくが嘘ついたのは、詩稲さんの感じが珍しいってとこ」


 確かに詩稲さんは周りをよく見ている。でも、自分はあまり見ていない。

 でも、ぼくは彼女を見ている。


 「? いつもはこんなに華やかじゃない。そこ合ってる」


 ぼくを見る目。いつもなら、感情が読めないのに。

 それだけ、分かっていないんだ……自分のこと。


 「違うよ。最近の君は、以前にも増して華やかになったよ。前は近寄りにくい感じだったけど、今はこうして一緒にパーティーしてる。それって、華やかじゃない?」


 「季原は私をちゃんと見ていた?」


 少し照れてしまうけど、これまでを振り返りながら、ぼくは彼女を見る。


 「そうだね。真とケンカした時からかな。君と仲良くなったのはさ。それっきり、君と話してるとなんだろう……認識を改める機会が増えたんだ」


 誰か一人でいい。本当の自分を見てくれる人がいるっていう事実だけでぼくは変われた。

 彼女のことを見るようになって、ぼくは似た何かを感じた。

 多分、だからだろう。ぼくが彼女を本当の意味で見るようになったのは。


 「そう。……季原? 私は季原にとって、真と同じくらいの存在?」


 「もしかしたら、真以上かもね……」


 同じ境遇の君は、真ではなれない存在になっているとぼくは思う。

 

 「そう」


 「うん」


 ぼくはともかく、詩稲さんまで目線を逸らして、黙り込んでしまった。

 この気まずい空気を破壊してくれたのは、詩稲さんと似た感じのサンタ衣装をしたあの子だった。

 

 「先輩! 浮気はダメです! ユズが彼女候補ナンバーワンなんですから! ユズの相手してください!」


 後ろから脱力していたぼくの腕を引っ張る柚紀ちゃんがヤキモチを焼いていた。可愛いね構ってちゃん。


 「市井、それは勘違い」


 頬が緩んだぼくに代わって、袖を掴んでいる柚紀ちゃんを離れさせる詩稲さん。

 柚紀ちゃんは安心したようで、ぼくから離れる。素直になったよね、君。


 「なんだーてっきり真田先輩がアキ先輩を……」


 「浮気じゃない。だだの恋人同士の他愛もない会話」


 「こ、恋人!? どういうことですか!先輩!」


 詩稲さんの後ろにいるぼくに鋭い眼光を浴びせる柚紀ちゃん。

 そう言われても……ぼくも驚いてるところだよ。詩稲さんがそう言うこと、君のその顔。もう虎、タイガーだよ。

 ぼくが柚紀ちゃんに怯えていると詩稲さんは事を進める。


 「季原は私が真以上の存在と言った。つまりそういうこと」


 まさか、詩稲さんのドヤ顔が拝めるなんて思ってなかったよ……。

 あと、柚紀ちゃんもなんで、そんな悔しそうに歯ぎしりしてるさ……。


 「くっ、まさか貝塚先輩以上と先輩に言われるなんて……ユズと同格ということですか……」


 「君たちって真をものさしにしてるんだ」


 本当にもう……。当のものさし野郎は彼女と「あ~ん」してるし……死ねばいいよ。

 睨み合う二人とそれをおもしろ半分で見物している稲未さん。


 「ハァ……カオスだね。コンビニでも行こうかな……」


 決して、逃げたわけじゃないから。逃げたわけじゃないから。

 大事なことだから二回は言わせてもらったよ。逃げたわけじゃないから。あ、三回言っちゃった。

 サンタ色はカオス色なのかもしれない。


 *


 この時期の夜のコンビニはある意味天国かもしれない。暖房がめっちゃ効いてるしぃ、週刊誌読めるしぃ。


 「ほんっと、奇遇じゃね? こんなとこでアンタに会うとか、もぉーマジヤバいしぃ」


 そうだね。マジヤバいしぃですね。主にぼくの身。食べられちゃうんじゃないかな……外にお仲間いるみたいだしぃ。


 「桐生さん……こんな時間になんでいるの? 危ないよ?」


 ボリュームのあるタートルが目立つニットワンピースは「寒くないの」と言いたくなる。灰色のワンピースと金髪、若干の褐色肌が個性を強調してるようにも見える。


 そんな個性への気遣いに見せかけた拒絶。でも、にぶちゃんは気がつかない。


 「え、なになに? 季原がアタシの心配してんの? チョーウケるー!」


 ダメだ、会話が成立しない……。なにが面白いの? わけわかんないよ。なんで嬉しそうなの?


 「……そんな顔しないでイイじゃん。ちょっと、テンション上げちゃっただけじゃん」


 あ、いけない、顔に「バカか?」って出てた……。桐生さん、シュンってなってる……。あの常にアゲアゲの桐生さんが。なんか……元の素材が良い分、素が可愛いね……。


 「えっと、ごめん。ちょっと強く言いすぎたよ……」


 「……ううん、ええねん……うちが言いすぎてもうただけやし……」


 「え?」


 「あ!?」


 かん、さい、べん?


 「アカァァァン!」


 確定ですね。


 「あ、あわわ……どないしよ……なんでよりによって季原にバレんねん……」


 もんのすんごい動揺してる……桐生さんって関西の人だったんだー。そういえば、たまに何か言いかけて咳き込んでたなー。そういうことだったんだー。


 「とりあえず、ここはコンビニだし、君のお仲間も外にいるし、一回落ち着こう」


 「き、きはらぁ……」


 涙目でぼくを見るギャルちゃんに少しドキっとする。

 でも、もう耐性ができてるよ。


 「メイク、落ちるよ?」


 「あ……」


 三分後。


 「じぶんって口硬いほうなん?」


 「うん、颯爽とトイレでメイクを直してきたことにツッコミを入れないくらいは」


 週刊誌の前でしゃがみ込む男子とギャルという絵面。流石に店員さんの目がイタいけど、ギャルさんがそれでいいならいいよ。だって、店員さんの視線、お尻に行ってるし。このスケベめっ!


 「ほんなら、黙っといてくれな? うち、みんなに内緒にしてんねん。せやさかい、今まで仲良う出来てん」


 語尾の力がなくなっていく。大きな目も下がっている。


 「大丈夫だよ。別に君の方言をバラしたところで得も無いし。でも、隠すほどのことでもないよね」


 「なんでぇな! みんなと違うってだけで、ケンカになるんやろ? そんなんややから、季原にお願いしとんねん!」


 あー、勘違いなのか事実なのか微妙だなー。まあ、少なくとも、ぼくや真たちは違うけどさ。


 「ケンカになるのは、その相手の器量が小さいからだよ。言葉遣いだけで関係性が悪化するなら、一緒にいなければいい。疲れるだけだよ。相手を選んで友達になればいい話だと思うけど?」


 「……」


 「あ、あれ? 何か変なこと言ったかな、ぼく?」


 急に黙ってぼくを見つめるギャルさん。ど、どうしたのかな。


 「季原って、ごっつカッコええなぁ!」


 あ、目がどことなく柚紀ちゃんだ。

 興奮して周りが見えなくなる展開。まずい。

 ぐいぐい前進してくる桐生さんに対してぼくは後退する。


 「えぇ? なんで、そうなるのさ?」


 「前々から思とったけど、やっぱ季原はきっぱりしとってええわぁ。非力そうな見た目なんにそういうところあると、惚れてまうやんかー!」


 壁際まで追い込むと、抱きつこうと飛びかかってくる桐生さん。そして、それをなんとか紙一重で躱して、立ち上がるぼく。


 「えぇえー! 感性がわからない……なんで、今の流れで、ほ、惚れるのさ!」


 彼女も立ち上がると、ぐっと親指を立てる。それも、八重歯を出してすごくいい笑顔で。


 「うち、季原みたいな男なら方言隠さんとおれる! ありがとうな!」


 「…………う、うん」


 「元気出た! ほな、季原、メリークリスマス!」


 「メリー……クリスマス」


 彼女はヒラヒラとスカートをはためかせ、コンビニを出て行った。そして、お仲間とギャル語で会話しながら、夜の街に消える。恐らく、彼女たちの前でもいつかは素を出すのだろう。


 嵐にあった気分だけど……微妙な関係だった桐生さんとも仲良くなれそうでよかった(?)よ。



 


メリークリぼっち!

リア充様たちの背景になるため、修行を積みました。

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