第一三週目 隣の関わりたくない人
入学式が終わり、教室に戻ってきたぼく達、新入生。
そして、皆が入室した後、小さな小さな担任の先生が教卓に隠れる。いや、正しくは、アホ毛だけピョンピョン動いている。
「はい、皆さんおはようございます! 先程かるーく自己紹介したと思いますが、担任の小野撫子です。一年間よろしくお願いします!」
ピョコンとアホ毛がお辞儀をした。なんだろう、先生の威厳ってものが微塵も感じられない先生だ……。
さて、このクラスの反応は――
『……カワ(・∀・)イイ!!』
わおー顔文字だー。みんなもれなく顔文字だー。まだ、ぼくは先生の顔もろくにみれてないけどカワイイのはなんとなくわかるよ。小動物見てると癒されるみたいな感じだよね。
それはそうと、ぼくの席は幸運なことに窓際の前から二列目。”き”だから、おかしいと思うかもしれないけど、実は入学式直前、指定の机上に紙が置いてあって、
『席替えの番号だから捨てないでね♡』と書かれていた。
どうやら、この学校は入学早々、席替えというイベントがあるらしい。
イベントの空費もいいところだね。
ぼくの席の反対側、廊下側にいるのが暗い顔したマコちゃん。前が背筋ピンと凛々しい姿勢の詩稲さん。
そして、席替えにおいてもっとも重要ポジションであるお隣は、まったく知らない女の子だった。
それも、普通の女子ではなく、ぼくが関わりを避け続けてきた人種。
「ハァー……ダッル」
金髪黒ギャルだ。いや、黒まではいかないか。化粧がケバイから錯覚しちゃったテヘペロ(心の中で罵倒するしかできないのはぼくが弱い子だからです)。
はっきりいって怖いし、常に気だるげなのに、お仲間が集うときゃあきゃあと騒ぎだす。まるで壊れたレコーダーのような人種。
制服を大胆に着崩して、前の席なのに机の上に足を乗せる破天荒さ。
教卓の下から注意事項や校則を説明しだした先生には、見えもしないだろう。
この学校、教卓に椅子とかないみたいだし。
「ねぇ、アンタさー?」
先生のお話中にもお構いなし、ギャルさんは声を潜めずに口を開く。誰に話してるのかは知らないけど、話しかけられた方はご愁傷様。
「ねぇ……ねぇ、ちょっ聞いてんのー?」
ああ、無視してるんだ。まあそうだよね。ぼくも同じ立場ならそうするよ。もしくは適当に相づち打って終わりかな。
「ねぇ、ねぇってばッ!」
「うわっ⁉ なんでそんなに近いの!」
「なーんだ、聞こえてんじゃん。アタシ、無視されてんのかと思ったー」
無視してましたよ。気付いてたけど、他人だと思い込んでスルーしてました。それに、椅子だけ近づけてきたら、気付かないフリもできないでしょ。肩の間一五センチもないくらいなんだし。
「で、アンタってどこ中なの? あ、アタシはカラ中なんだけどー」
「流八木根市中学校」
「ハ? どこそこ? あ、県外? でも、街中で見かけるし……わざわざ県外から電車で……? でも……」
”?”がいっぱい浮かんでるギャルさんはぶつぶつ呪文のように考えをダダ漏れしている。
まあ、そんな中学校なんてないけどさ。反対読みじゃなきゃ罵倒できないのはぼくが弱い子だからです。
「あ、アンタまさか……!」
ばれちゃったか……。閃いたって顔で語ってるギャルさんは食い気味に体を前に出す。
「帰国子女ってやつ⁉ ヤッバ、チョー頭イイじゃん!」
君はバカなんだね。アホなんだね。チョー頭ワルイじゃん! なんだね。
お胸は立派なのに頭が残念。頭脳が胸に吸われたんじゃないの? あ、後、香りにも持ってかれたんだ。中々のいい匂いだね。香水臭くなくていいよ、好印象。
「今度アタシに勉強教えてよー。お礼もちゃんと弾むからさー」
腕を組んで、無駄に胸の谷間を強調しないでください。なんでちょっと得意げなんですか、いやらしい。
「ぼく、教えるの下手だから。でも、この横列の一番端っこの貝塚くんは教えるの上手いみたいだよ」
「マジでーチョー助かる! サンキュー、季原!」
そういうと上機嫌で自分の机に戻るギャルさん。
あれ? ぼく名前言ったかな?
一二月入りですね。
クリぼっちに向けて、精神を鍛える日々を送っています。