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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
17/33

ハロウィン特別話〈ケーキオアプレゼント〉

ハロウィンだからって書きすぎたので、ご注意ください。

 ハロウィン。お菓子をもらう日。仮装する日。様々な解釈があるこの日。一〇月三一日。

 街中は、ドラキュラやゾンビ、サキュバスといった悪魔とメタルマン、ハイパーマンのヒーローもの、ディ○ニー系ヒロイン、挙句の果てには、ピコ一郎、などの仮装した人で賑わっている。

 一言でいうとカオス。

 そんな街中でも、カボチャのイルミネーションだなんだでキレイに彩られているからプラマイゼロかな。

 浮かれる街とは対極に、ぼくは、ひっそりと友達の家にいた。

 その友達は。


 「お茶。お待たせ」


 もこもこのシマシマ柄ニットに白いミニスカートを穿()いて、家の中なのにオシャレな童顔の友人。

 丸い机を囲むように鎮座しているぼくと他三人は、会話をやめて彼女に礼をいう。

 

 「あ、ありがとう。詩稲さん」

 

 マコちゃんかと思った? 残念、真田詩稲さんでした。皆さんはミニスカートのところで気付いたかもだけど、よく考えてみて? マコちゃんでもミニスカは、割と似合うよ。

 詩稲さんは、お盆ごとマコちゃんに一度手渡して、ベットのほうに座る。


 「ありがとう、詩稲」


 「ありがとねー、シイちゃん!」


 まあ、真と茜さんの通例カップルが勝手に喋ってただけだったけど。てか、近いよ。二人とも。べったりし過ぎ。見せつけないでよ。


 「でも、ハロウィンだからってなにも(うち)に集合しなくても……」


 詩稲さんの姉、稲未さんが困ったように口を開く。彼女はタートルネックのニットワンピースを灰色で決めていた。ズボンかスカート、穿いてるよね? 後、パンツ。今日はスイッチ入れないでほしいよ。


 「突然。来るなら、前もって知らせてほしい」


 ベットから足を組んで、あぐらをかいていたぼくの膝の上にのせて姉を似た意味のことを言う。うっすらと魅惑的な匂いも(かお)る。

 軽いからいいけど、かかと落としだけはやめてね? こんなことされてなかったら、ドキっとするんだけどなー。


 「ドッキリだよ。急に行って驚かそうって茜が言うから……」


 「真くん、そうやって責任転嫁するのはよくないと思うなー」


 「白々しいなぁ、二人とも。共犯だよ、このリア充は。ぼくは止めたんだけどね。ていうか、スルーなの? 人の足の上に足のせてる人いるんだよ?」


 「無視。稲未、どうする?」


 無表情な顔を傾げて、姉に目をやる確信犯さん。もういいよ、この扱いも馴れたよ。

 妹に言葉に稲未さんは、迷った風で袖に隠れた手を口に当てる。


 「うーん……お菓子はあるにはあるけど、少ないし……。あ、いっそのこと皆で作る? クッキーとか、プリンとか、ケーキとか」


 「お菓子作ったことないけど、べっこう飴ならできるよー。中学のとき、兄々(にいにい)と作ったから」


 「あはは……茜らしいや」


 苦笑する真にぼくは同情の視線を送った。大変だね、彼女より彼氏のほうが女子力があるなんて。ぼくも料理ができるから少し、気持ちがわかる。味も包丁を二、三回触った程度の女子に負けない自信がある。


 「私と詩稲はできるかな。味はそこそこだけど」


 「当然。極めるつもりはない」


 「あの、詩稲さん? 足をぼくの頭にのっけないでください。すごく邪魔です」


 「褒美。うれしい?」


 「どこが⁉ なんで⁉」


 「詩稲はたまに、Sっ気が出るのよ。放っておけばその内収まるわ」


 「そ、そうなの、真?」


 「ん、なに? 聞いてなかった?」


 茜さんと談笑していたらしい彼にぼくは制裁を与える。


 「そういえば真って、クラスの女の子と結構仲いいよねー。特に、あのギャルっぽい、えーと確か……」


 「桐生(きりゅう)姫乃(ひめの)。身長一五八センチ、体重四一キロ、バストサイズはDやや大きめ。最近、真を狙ってよく話しかけている」


 「……へぇー。そうなんだー。真くんはモテるもんねー、しょうがないよねーおっぱいが私より大きいもんねー……浮気は許さないよ?」


 「そんなんじゃないよ! 僕は茜一筋だ!」


 「恥ずかし気もなく、朗々と……よく言えるわね」


 「じゃあ許すよ! へへっ……まーことくん♪」


 「はぁ……言わなきゃよかった。詩稲さん、サポートありがと……無駄だったみたいだけど」


 「落胆。でも、桐生姫乃は季原のことも狙っている。真を狙ったのは、お前との接点を持つためと推察できる」


 「え……そうなの……なんか怖いなぁ」


 「とか言ってー喜んでるんじゃないのー?」


 「え! 季原くん、告られるの!?」


 「やったじゃないか! アキ!」


 「ろくに話しも聞いていないのに、突然入ってこないでください」


 「それより、どうするの?」


 「原点回帰。お菓子を作る」


 「やっぱりそれかな。無難だしね」


 「よぉし! 私のべっこう飴が火を噴くぜ!」


 「飴が一瞬にして溶けるわね」


 *


 真田家の台所はかなり広かった。詰めれば四人は入れるくらいだ。でも、戦力はぼくと姉妹の二人だけみたいだし、かなり余裕がある。

 

 「リア充二人は、椅子に座って愛を育んでていいよ」


 「じっとしてるよ! それに、僕と茜はどこかれ構わず、イチャイチャするわけじゃないよ」


 「真くん、協力プレイしよー」


 「うん!」


 「一体、どの口が言うんだか……」


 「呆然。それより、なにを作る?」


 「この人数なら、ケーキワンホールとか?」


 「でも、イチゴはないわよ? カボチャなら、あるけど……」


 「ハロウィンだからなー。じゃあ、スポンジに混ぜる、カボチャ?」


 「必然。ネットでレシピを調べる」


 「うん。お願い」


 さて、おいしくできるかな。


 *


 「完成。意外とキレイにできた」


 「本当ね。これも季原のおかげね。まさか、スポンジのヒビ割れにオーブンの温度が関係してるなんて」


 「急に加熱しすぎると、スポンジの中の空気が膨張するからね。空気抜きと温度調整は大事なんだ。でも、二人の手際もすごかったよ。なんか、残像で手が六本に見えたし」


 「阿修羅。私たちは、女神に匹敵するから。だいたい正解」


 「詩稲、阿修羅と女神は全然違うのよー。まぁ、可愛さなら、負けてないけど」


 二人とも、まるで本物の女神さまに会ったことあるような言い方だ。

 そんなことあるわけないし、空想の話かな?

 自惚れと言わないけど、ちょっと天狗になっている姉妹、特に姉にぼくはじとっとした視線を向ける。


 「自分で言っちゃうあたり、稲未さんってナルシストだよね」


 「えぇー、そう~? でも、ひねくれてるよりよくない?」


 「どっちもだね」


 ぼくと稲未さんのやりとりになんの興味を示さない詩稲さんは、スマホゲームに熱中しているリア充二人に完成を伝える。


 「出来た。二人とも、ケーキを分けるから一度やめて」


 詩稲さんに言われて二人はスマホをスリープ状態にしてしまうを立っている詩稲さんを見上げる。

 

 「どんなのー? おいしい?」


 「アキがいい感じに教えてたみたいだね」


 「卓然(たくぜん)。私たちより季原は料理上手。そして、教えるのが上手い」


 台所を挟んでぼくは褒められていた。詩稲さんに褒められるなんて、一生に一度なんじゃないかな。

 少し、下を俯いたぼくを稲未さんは見逃さなかった。


 「しーなー、季原が赤面してるわよー。もっと褒めて赤くさせてー、私がたべるからー」


 エロスティックなことをさらっと言ってのける稲未さんを見て呆れた詩稲さんは相手にもしなかった。


 「季原、ケーキ持ってきて」


 「はいはい」


 協力して作ったケーキをリア充が待ち受ける机まで運ぶ。後ろから、スイッチが半分入った稲未さんもついてくる。


 「これが、詩稲と季原の共同作業の成果です!」


 「君も頑張ってたんだけどね、稲未さん」


 ぼくは突っ込むが、詩稲さんは表情を変えずただ、ケーキを見ている。


 「どうしたの?」


 「喜楽」


 短く言葉を切ると彼女は真と茜さん横に並んで座っている彼らの反対側に座る。

 喜楽……喜んで、楽しんでるのか。全然、伝わらない顔してるなー。まあ、それが詩稲さんだしね。


 「さてと、五人だし、六等分でいいわね」


 「あと、一切れどうするのー、ナミちゃん?」

 

 「季原、頑張ってたし、二切れあげる」


 え~、二切れってしんどい。あ、でも……。


 「貰えるものは貰っておく主義だからね、ぼくは。貰っておくよ」


 「アキ、大丈夫?」


 「心配しないでよ、真。キモイよ?」


 「見当?」


 「うん、ちょっとね。それより食べよ」


 きれいに切り分けてくれる稲未さん。ぼくらは、甘くておいしいハロウィンをすごした。


 *


 夜、二〇時。ぼくは暗くなった夜道を一人、ケーキ一切れを抱えてとある子のところにきていた。


 「……いるかな?」


 お泊りとかじゃなきゃいいんだけど……ぼくと違って友達多そうだし。


 インターホンを押すとマイクから『はい?』と聞きなれた声がする。

 よかったいたみたい。


 「あ、ぼくだよ。柚紀ちゃん。ちょっといいかな?」


 『え⁉ 先輩ですか! ちょっと待ってください、すぐ出ます!』


 インターホンの赤いランプが消える。

 ほんとにすぐ、ガーネット色のセーターにねずみ色のタッグパンツを着て出てきた。慌てたのか、少し息が乱れている。


 「そんなに慌てなくてもよかったのに」


 「先輩が不審者に(さら)われたりしたら、一大事じゃないですか!」


 「君はぼくをそこまでか弱いと思ってるんだ……」


 「いえ、先輩は口喧嘩なら無敵ですけど、それ以外はからっきしですから。別に先輩を貧弱な頼りない男なんてこれっぽっちも思ってないですよ?」


 「褒めてるの、(けな)してるの?」


 「褒めてるんですよー。あ、ところでどうしたんですか? あ! まさか、ハロウィンだから、こう……『トリックオアトリート、柚紀ちゃん。君のすべてをくれなきゃ、イタズラしちゃうよ?』ってことですね! どうぞッ! ユズのすべてを先輩に差し上げます! イタズラも先輩にされるなら本望です!」


 さっきまでとは違う意味合いで息を乱す彼女の頭をぽんぽんと撫でる。すると、可愛らしい赤い顔をして落ち着いた。


 「今日、友達の家でカボチャのケーキを作ったんだけど、一つ余っちゃったから。お(すそ)分け」


 「あ、それで先輩から女の匂いがしたんですね。香水の匂いがぷんぷんします」


 「犬なの? まあ、確かに女友達の家だったけど、男もいたからね」


 彼女持ちのマコちゃんとは明言しない。この子嫉妬深いから、あんまり言わない。


 「でも、いいんですか? ユズが貰っても……先輩のことだから、冬海ちゃんに渡すと思ったんですが?」


 「君の中でぼくってシスコンなの?」


 「はい! 同時に後輩好きのコウコンってことになってます」


 「造語作らない。はい、どうぞ」


 「ふふっ、ありがとうございます、先輩」


 にっこり笑う彼女の笑顔は中毒性があるのかもしれない。

 ぼくは、この顔が見たくてこうしていると、最近思うようになってきた。

 だから、今がいうべき場面だと思った。ぼくの気持ちを。

 高鳴る胸の鼓動を感じつつ、早まって噛まないように気を付けて、ぼくは彼女の大きな瞳をじっと見つめる。

 

 「柚紀ちゃん、ぼく――」


 ぼくの一世一代の告白はもっとも身近な子に台無しにされるなんてこの瞬間には思っていなかった。


 「あ、あにうえー!」


 手を大きく振って駆け寄ってくる。


 「冬海ちゃん、いらっしゃい」


 久しぶりに実妹へ怒りが湧いてくる。こんな狙ってきたようなタイミング……そんなのってないよ……。


 「はぁ……どうしたの、冬海?」


 冬海は仮装していた。それも、忍者のコスプレだ。チョイスがずれてる気がするのは気のせいかな。

 ため息交じりなのが気になったのか、冬海はぼくの顔を下から覗き込んだ。


 「どうしたの兄上? あ、柚紀ちゃん、そのケーキは?」


 げっ……気づいちゃった。どうしよ……。

 この状況でも、柚紀ちゃんは動じていないようで、平気で素直に言う。


 「これ? 先輩からもらったの。美味しそうでしょ? 柚紀ちゃんはいいよね、こんなにいいお兄さんがいるんだから」


 「うん! 自慢の兄上だよ!」


 え、スゴイ。冬海がなんの疑問も生じてない。


 「柚紀ちゃん、兄上をよろしくね!」


 それもそのはずだった。冬海はすべてを知ったうえでぼく達を応援していたのか。

 まいったな……。恥ずかしいや。

 ハロウィンはもうすぐ終わる。一日限りのイベントだけど、その短い一日を満喫できたのは、ぼくの交友関係のおかげだ。

 つまりはぼくの実力。と前までのぼくは思うだろう。今のぼくは、ちゃんと感謝をしている。友達に。


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