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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
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第一一週目 新年度の日常

 桜の花びらが風に吹かれ、舞い落ちる道並み。駅やバス停には初々しさが漂う中高生がわんさかいて、とても騒がしい。

 春休みが明けて、とうとう始まった新年度。進級したもの、進学したもの、就職したものそれぞれが新しい世界に心を躍らせているのが想像できる。そんな今朝の一味違った風景。

 ぼくはバスを待っている。そんなぼくにリア充がしょうぶをしかけてきた。いや、くさむらから飛び出してきたのほうがいいかな。リア充ってトレーナーかポ○モンどっちだろ? 

 

 「おっはよっ! しんゆっ!」


 笑顔でガッチリと肩を組んできたから、咄嗟に一本背負い投げをしてしまった。反射で。つい。うっかり。


 「うわっ!? あっぶな!」


 足をいち早く着地させた、イナバウワー流回避術で背中へのダメージを無効にしたリア充。


 「チッ……ダメか……」


 ぼくの残念な声は聞こえていないのか、何事もなかったように体勢をなおした真。


 「アキ、いきなりやんないでよ、ビックリするじゃないか」


 「ごめんごめん。いきなりだったから、ぼくもビックリしちゃったんだよ」


 いや、ほんとだよ。ボクウソツカナイ。


 目頭を下げて謝るぼくに真は「うーん、僕もごめんかな」と反省する。かな、じゃなくて確定で君が悪い。


 「それより、今日はどうしたのさ? 急に笑顔で「しんゆっ!」なんて。真はぼくのことそんなに好きなの? キモイよ?」


 「アキのことは普通に好きだよ。そのジト目も含めて、友達としてね。実は、兄さんに「休み明けに会う親友にはまず笑顔で肩を組んだ方がイイぜ」って言われて……」


 あ、察し。相変わらず素直なマコちゃんだことで。でも、いくらなんでも気色悪い。


 「……そのまま実行しちゃうのはちょっと……。ぼくの中で真のホモレベルが上がったよ。これからは距離置こうっと」


 「わー! ごめんって! アキがスキンシップ苦手なの知っててやっちゃったのは悪かったよ!」


 「(あわ)てるなら、泡立(あわだ)てれば? なんちゃって」


 「・・・。クラス一緒かなー?」


 「やめてっ! 無言が一番辛いの! スルーがダメージ量多いんだよ!」


 テクテクと他人の素振りで先を歩く真くんは冷たい。まあ、ぼくが悪いんだけどさぁ……新年度早々、こういう出だしが悪いのは良くない。


 よし。ならこうしよう。


 「あ、茜ちゃんだ」


 「どこっ‼」


 おお、反応早いなー。0,0001秒くらいかなー。マジ顔(笑)。


 「ウソでーす!」


 ネタ晴らしすると目の前の真から真っ暗なオーラが噴出された。


 「アキ、フ○ック」


 「い、いつの間に背後に……早すぎっていうか超人すぎでしょ……」


 地味にわき腹に手刀添えないで。マジ過ぎ(汗)。


 「冷や汗浮かべてないで懺悔の用意しなよ。じゃなきゃ、本気で怒るよ?」


 「……真ってなんなの? サ○ヤ人もしくはハンt――――ごめんなさいもうしませんゆるしてくださいおねがいします」


 震えながら必死に許しを請うとマコトさまはお許しになられてくれた。ふぅー、一安心。

 マコトさまは手刀を納めていつもの爽やかな笑顔でぼくに告げる。


 「クラスが別でもこれからもよろしく。アキ」


 こちらこそ。という言葉は飲み込んだ。普通はつまらないから。

 ぼくがそっぽを向くとバスは信号待ちしていた。信号が青になるとバスは鈍足に動き出す。

 ぼくは肩に担いだカバンを担ぎなおして、待ち時間ずっと隣にいた彼へ(おもむろ)に言った。


 「また、遊んであげるよ。なんて言ったって君はぼくのオモチャなんだから」


 「素直じゃないね」


 困ったように見える微笑は別の角度から見ると充実している顔だった。


 リア充は誰といてもリア充で羨ましい。

 ぼくにとっては明るくて眩しすぎるけど、嫌じゃない。むしろ。


 「あ、センパーイ」


 初々しいブレザーを来た彼女みたいに、これからを知っていくんだから、好きになりたい。


 「ギリギリだよ、柚紀ちゃん」


 「あ、アキの後輩の子だよね? おはよう」


 ニコッと開花した花のように笑う彼女は実に嬉しそうで楽しそうで。

 

 「おはようございます! これからよろしくです! セーンパイ☆」


 「だから『☆』止めなって……」


 「ふふっ。アキ、楽しくなりそうだね」


 「うん、まぁ――――」


 真とクラスが離れたとしても、友達で。

 柚紀ちゃんと学年が違っても、話す機会はある。


 こんなにも今年に期待しているぼくは。


 「そうだね」


 珍しいと思う。


 「先輩、隣にどーぞ!」


 「早速のお呼びだよ。アキ」


 「わかってるよ。バスなんだから、もうちょっと考えてよ……」


 バスはぼくらを揺らして進みだした。


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