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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
14/33

第一〇週目 進級前のデート・午後

 こんにちはの時間帯になり、ゴミのような人(人混み)も増えてきた。

 飲食店を出たぼくたちは通路の真ん中にあったベンチに座って、アリみたくたくさん歩いている人を眺めながら、お話しタイムの真っ最中だ。それとは別にラ○ュタはいつまでも名作だと思う(昨日DVDで見たんだけど、最後のあのシーンは未だに中高生がネタにするくらい人気だ)。


「ふー、美味しかったですねー」


「……そうだねー。君のお腹の中には、ハンバーグやサイコロステーキ、フライドポテト、挙げ句の果てにはデザートのドでかパフェなんかがぎっしりつまってるんだもん。とっても美味しそうに(しょく)してらっしゃいましたからね」


 お陰様で財布がガリガリに痩せ細ってしまいましたよ。折角のお小遣いが台無しだ。


「ご馳走さまでした、先輩☆」


 ウインクと一緒に星がきゃピるーんと飛んだ。笑顔が輝きを放っているのは星のせいなのか、この子の持ち前なのか……。


「出たね、『☆』。それにしても、あれだけ食べてお腹が出ないなんて一体どういう胃袋してるの?」


 気になってお腹周りを視覚情報を駆使して調べようとするけど、彼女は両手で締まったお腹を隠すように覆った。


「コラ、先輩ってば女の子の身体を詮索しちゃダメですよ。女体の神秘は夜の顔と共にあるんですから」


 指先を唇に当てて片目を閉じ、不敵に微笑む彼女は少し大人びて見えるけど、騙されてはいけない。きっとこれはパシリに調教するための第一歩だ。男が喜びそうなことをご褒美にするという典型的パターン。

だから、ジト目の糾弾を返事としよう。


「君って時々エロに走るよね……」


「男の人はちょっぴりエロい女の方が好きと聞いたので。違いますか?」


「……さぁ」


 糾弾に反撃がくるなんて予想だにしていなかったぼくはその問いかけを流すことにした。

 それにしても返答に困るなー。一体誰だろ、この子にそんな要らない知識を吹き込んだのは?

 目を逸らして、通過していく人の波をぼーっとただ。


「誤魔化さないでくださいよ!」


 別にいいじゃん……。

 黙っているぼくの腕を掴むと揺らしてしつこく問うてくる。ぼくはこの揺れから逃げようと策を模索する。

 すると、人波の向こう側にある雑貨屋で見知った男子を発見した。


「あ、アレはぼくと同じクラスの山田太郎君だ」


「ふざけないでくださいよ先輩っ!」


「おーい、やーまだー」


「えっ!? ホントにいるんですか! 『山田太郎』が!?」


 ゴミという仮名(かめい)の人達の間を抜けて、山田君のところに歩み寄って声をかけた。


「こんなところで奇遇だね、山田」


「あ、初めまして。山田太郎さん」


 片手を上げたぼくに対して、ついてきた隣の彼女は頭を軽く下げて挨拶をする。案外、礼節はわかってるんだね、この子。その態度をもう少しぼくにしてほしいな。

 急に声をかけられて驚いたのか、山田君は固まってしばらく動かなかったけど、ハッと何かに気付いたような顔をした。


「僕の名前は貝塚真だよ!」


 慌てて、訂正を要求する山田(真)はやっぱりおもしろい。

 からかいがいのある相手を前に手を抜くぼくじゃない(キメ顔)。


「え? 知ってるけど?」


 すまし顔で「なにを言ってるんだこの人」と伝える。

 真は溜め息混じりに腰に手を当てた。


「飽きないね、アキ」


「『あき』だけに、ですか?」


 黙ってぼく達の日常を傍観していた彼女がここぞとばかりに口を挟んだ。


「別に意識してないよ。それより、この子は誰?」


「ぼくを恐喝したストーカー、略してキョーカーちゃん」


「いえいえ、決して先輩を恐喝したり、ストーカーしてないですよ。ユズは季原先輩の元後輩で今は恋人の市井柚紀です。よろしくです、貝塚先輩☆」


「え、恋人?」


「騙されちゃいけないよ、真。この子、文面に☆付けてる時はふざけてる時だし。それと、ぼくは君と恋仲になった覚えはないから」


 冷たくあしらうと彼女はふざけた調子で前屈みになり、ぼくの顔を上目遣いで覗き込んだ。


「えーそれ、まだ言うんですかー? いい加減諦めてくださいよ、ユズが先輩を好きなのはホントなんですから☆」


「だから、『☆』付けても何も変わらないし、上目遣いもふざけてたら意味ないし、真はぼくの黒歴史を知ってるからあのノートも無駄だよ」


「……アキの黒歴史はかなり色濃いめだよね」


 苦笑して後ろ頭を軽く掻いた真に「ふーん」と意味深な目をした彼女は姿勢を戻してぽつりと一言つまらなさそうに呟いた。


「ネット」


「うっ……ま、真、なんとかして……」


「え、うーん……あ、ぼくの兄さんの友達でネット関係に強い人がいるよ。あの人なら、ネットに流された画像でもなんとか出来るかも」


「それだ!」


 気まずい空気を一気に変える明るい声がぼくから出てた。ぼくのこの変化を彼女は見逃さず、真を味方に引き込もうと動き出した。


「貝塚先輩は季原先輩がこのまま非リア童貞ぼっちの引きこもりニートになっちゃってもいいんですか!?」


「あ、そう言えばその人とあんまり話したことないや。引きこもりだし。だから、ゴメンねアキ。お願い出来ないよ」


「要らない心配な上に唯一の対抗馬が裏切った!?」


 見事に陥落させられてるじゃんか! それでも友達――――あ、友達だからか。


「ふふーん。観念してください、季原先輩」


「よかったじゃないか、可愛い彼女が出来てさ。これはお祝い事だね」


「……はぁ。そのことはひとまず置いといて」


 都合の悪いことは流すのが一番だ。細かいことが気になる後輩がいても流すのがいいよ。


「置いとかないで下さい」


「真は何してたの?」


「ぼくはちょっとぶらぶらしてただけだよ。アキは?」


「デートです」


 キッパリと断言した彼女はぼくの腕を取って自分の胸に押し当ててくる。あれ、意外と柔らかいしボリュームある……。まさか、さっき食べた昼食で急成長したの?

 それより、なんで君が答えるの……。君のお胸でぼくの理性は破壊できないから離れてくれない?

 冷静に淡泊に平生のトーンで真に状況説明した。


「財布と荷物持ちがデートに含まれるなら、ぼくは独りでいいよ。無理矢理連れて来られたんだ」


「なんか意外かも、アキが家族以外と買い物なんて。雨でも降るんじゃ……っていうのは冗談で、ぼくはお邪魔みたいだからそろそろ帰るよ」


 爽やかな笑顔を浮かべて皮肉を言った真は立ち去ろうと身体の向きを変える。


「茜さんによろしくね」


「ヤダよ。それじゃあ、またクラスが一緒だといいけど」


「ぼくは真が居れば楽出来るから一緒だといいなー」


 皮肉に皮肉で返して皮肉で終わるのがぼく達のいつも。


「わざわざウソ言わなくてもわかってるから。バイバイ」


 そしてどっちかが会話を打ち切って終了。これもいつも

 でもこのいつもを見た第三者は険しい顔をしていた。


「なんか、先輩達って恋人みたいです……思わぬ所に敵が……」


 掴まれていた腕が何時の間にか開放されていると思ったら、君なに雑貨握り締めてすのさ……マグカップにヒビいれないでよ、弁償しなきゃならなくなるじゃないか。


「ぶつぶつ何言ってるのか知らないけど、いいの? 買い物」


 流石にこれ以上財布が痩せたら、骨になる。ぼくが。

 ズレていた目的を補正すると彼女は思い出したようで、ぼくの手を引っ張って歩き出した。


「あ! そうでした。先輩、下着コーナー行きましょうよ」


「トンでもないことを平然と言わないでくれるかな!? 絶対行かないからね!」


 笑顔でさらっと言う台詞じゃないよ。


「えー、先輩の好みに合わせようと思ったのに。仕方無いですねーじゃあ、百歩譲ってコンドーム買いに行きましょう!」


 なんでこの子はまた……はぁ、黙ってれば可愛いタイプだよ。


「それ何も譲歩してないし、寧ろ進撃してる!」


「先輩は何人子供欲しいですか? ユズは男の子一人に女の子三人がいいです」


「ぼくは双子かな――じゃなくて! 普通に服でも見に行けばいいじゃないか!」


「先輩に普通は似合いませんよ?」


「そのノート、一々見せびらかさないでくれるかな!」


「まぁ、下着やコンドームは今度でいいです」


「その今度が永遠に訪れないことを切に願うよ……」


 諦めが悪いなー。

 彼女は歩行を止めるとまた別のお店の中に入っていた。見る限り洋服店だ。


「じゃあ、先輩の服を選びに行きましょうか」


「……なんでそうなるの?」


予兆が全然なかったと思うけど?


「だって先輩、初デートなのに全然オシャレしてないじゃないですか!」


 くやしそうに残念そうにかといって楽しそうに。彼女は生き生きとしている。

 一方のぼくはあくまで冷静に。


「自然体が一番っていうじゃない。それにぼくはデートだと思ってないし」


「でも先輩はお昼奢ってくれましたよ?」


「ぼくが女の子にお金出させるつもりないからだよ」


「なにかとここまで一緒に居てくれましたし……」


「暇だし脅迫されてるもん」


「それに、その……ユズ、今日すごく楽しかったんです。だから、そのお返しに……」


 手を前で組んで、恥ずかしそうにぽつぽつと。

 先程までの態度とはまったく違ったその仕草、自信に満ちていた口調が今は自信なく、儚げに映る彼女の瞳。

 ぼくの理性がほんの少しだけ遺憾ながら真に不服だけど、揺れた。


「っ……そう、なんだ。ふーん……ま、まぁ、貰えるものは貰っておく主義だから選んでもらおうかな。勿論、お金はぼくはが出すから予算はそんなにないけどね」


「アレ、先輩、顔がちょっと紅いですよ! それに早口です! もしかしてユズで興奮してくれましたか! ときめいてくれました!」


「う、うるさいよ。店内は静かにしないとダメだよ」


「ふふっ、やった……」


 密かに小さくガッツポーズを取る彼女の背中をぼくはカワイイと思った。


 ぼくは柚紀ちゃんのことをよくは知らない。それこそ、利き手やら利き目を知ったところで意味もなかった。ぼくが知らなきゃいけないのは彼女の素の性格とかもっと大事なことだ。

 彼女の告白に答えを出す為にもぼくはもっと知りたくなった。


「柚紀ちゃん……これからよろしく」


「え、付き合ってくれるんですか!?」


「違うよ。でも、そうなる為にも君のことを知りたい。だから、よろしく」


 嬉しそうだった彼女。名前を呼ばれたからなのか、言葉のとり違いでも嬉しかったのか。

 知らない。

 でも、この子は多分、一生懸命頑張る性格で目標のために積極的に行動する実行型。

 消極的で怠慢なぼくはつりあわないだろうことは分かってる。でも彼女はそんなぼくを”好き”だと言う。

前の失敗を引き摺って、彼女を傷つけるなんてぼくには出来ない。

 だから、まず市井柚紀ちゃんのことを知るところから始めて、それからだ。


「先輩の遠回しな告白に気付けるのは世界中でユズだけですね」


 柚紀ちゃんは数着の服を片手に笑った。


「だから、Yesです」


 とても幸せそうに。

 ぼくの胸中は幸福感でいっぱいだ。



しばらく休載とさせていただきます。

詳しいことは活動報告に記載させていただきました。

申し訳ありません。

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