第七週目 先輩達の卒業
作者名とジャンルを変更し、キーワードに『ギャグ』を追加いたしました。
ジャンルは『コメディー』から『学園』へ。
作者名は、ボロ秀と同じ『表 裏淳』となっております。
急な変更、誠に申し訳ありません。
三月は、はたして春なのか?
なんて思うこの頃、ぼくらは別れを告げられる側になった。
「卒業証書、授与」
そう。卒業式だ。
隣にいる真は背筋をぴんと伸ばして、姿勢よく椅子に座っている。今時、そんな真面目ちゃんいるの?
でも、真が真面目になるのも分からなくはないかな。
だって。
「……兄さん」
真の二つ上のお兄ちゃんが卒業するんだから。
あのチャラそうな人があんなに真剣味のある顔するなんて、やれば出来るじゃないか。
「……イエイ!」
違った。卒業証書貰って壇上から降りる直前、斜め上の青天に向かってブイサインするなんて。変人の域を出ないのは認めるよ。
珍行動中の変人にぼくら在校生は白けた眼を送る。
後ろの人が一瞬止まって、順序通りスムーズに流れていた行列が途切れる。
「早く降りろ、後がつっかえるだろうが」
「へへっ、悪りぃ」
後ろから卒業証書を貰った黒髪の男子が真のお兄ちゃんの背中を片手で押す。押された変人の人は笑って壇上から降りていった。
「……」
でも、あの人、さっきの変人さんと全く同じ方角をじっと見つめている。人のこと言えないじゃないか。
「…………秀さん」
「真、知り合いなの?」
名前を呟いた隣の辛気くさい顔した友人に小声で訊ねる。
真は何も言わない。まぁ、卒業式中だし。別にいっか。
「後で話すよ」
「あ、無視したわけじゃなかったんだ」
「僕がアキを無視するわけないよ」
「……少し嬉しいから、反応に困るよ」
そうこうしている内に例の黒い人は壇上から降りていた。
かなり異様な卒業式になったね。ぼくの時はもっとまともなのがいいなぁ。
リアルガチで。
*
卒業式が終わって、三年生達は胸に花を咲かせてワイヤワイヤと騒いでいる。
外で記念撮影する一団や未だに連絡先の交換をしていなかった相手とライン交換したり、後輩からの贈別などなど。
ぼくには思い出のある先輩などいない。部活・委員会・生徒会の役職に一切関わりを持ってこなかったから、こんな時は真に引っ付いて、適当にやり過ごすのが寂しい奴と思われない手段だ。
「真は誰かお祝いする先輩いるの? 部活、弓道でしょ?」
「ああ、弓道部の方はこの前済ませたから別にいいよ。先輩達は今頃、詩稲達に見送られてると思うよ。嫌々ね」
「嫌々なんだ……」
あー、運動部の後輩の本音ってこんななんだ。なんか、幻滅かな。
もっと青春チックでキラキラだと。
「それより、兄さん達を探してるんだけど……アキどうせ付いて来るだけならさ、手伝ってよ」
「それは構わないけど、変人さんのことだからどっかその辺で変な事でもやってるんじゃない? さっきみたいに」
「兄さんは年がら年中変な事してるわけじゃないよ! そりゃ、たまに訳分からないことするけど……」
「あ、アレじゃないかな? あの六人集団。茜さんもいる」
「えっ! どこッ!?」
真はやっぱりおもしろい。感情の浮き落ちが激しいから飽きないや。
真が駆け寄る集団をぼくは傍目で眺めている。あの集団の中にぼくの席はないし。人見知りするぼくにあの個性的なキャラクター達はインパクトが強すぎる。なんだかんだ顔立ちがいい人ばっかだし、中身は知らないけど。
「真、楽しそうな顔してる……」
あんな真、ぼくが知る限り、尊敬してる人の話をする時――あ、そっか。
「あの黒髪の人が……真の……」
じゃなきゃ、真も茜さんも幸せじゃなかったかもしれない。そのことをぼくは間近に黙視してしまった。
彼と向き合って親しげに会話しているウルフカット(?)の人。髪型とかよくわかんないし、ぼくみたいなセットも出来ない重力に素直な髪質には無縁だ。
筆無さんって人。きっともの凄い人なんだろうな。それこそ、ぼくなんかが声をかけていい人じゃ……。
「おい、茜。さっきからこっち見てる一年は誰だ? 新手のストーカーかなんかか?」
「ん? あ、季原君だね。真君の友達だよ!」
「ふーん……ちょっと呼んで来い」
「へ? なんで?」
「ちょっとな」
なんか、茜さんがこっちに小走りでって、ぼく?
「季原君なんか私のにいに――じゃなかった、お兄ちゃんが呼んでるの。来てくれる?」
「え? ヤダよ。だって怖いもん。それにあの人と話したことないし、今日卒業する人と交流もっても利用価値がないし」
あれ、なんでぼくはこんな現金なことを言ってるんだろ? 危機察知能力が無意識に働いちゃったかな?
「そ、そんなこと言わないでよ。ほら、早く」
ぼくの手を白くて柔らかい手が包み込んだ。と同時に二方向から殺気が……。
「……アキ」
真の目が……自称一五〇キロの球もカタツムリのように観えるという眼(笑)が光ってる。背中には不穏な気のようなものも見えてる……。なんか、アニメみたい。
「真の顔オモシローイ」
「ちょっ……季原君!?」
「アキ! いい加減茜から「離れろ、クソガキ」」
え?
突然、
世界が反転した。
事態が一行に読めない。状況を整理すると、真を馬鹿にする→茜さん止める→真キレる→世界反転。
なにがどうなってるんだ?
「イッテ!」
「キューだ」
僕が身体を地面に叩きつけられて出た悲痛の声にギャグを上乗せする人が。
ワックスでセットされた黒い髪に意志の強そうな黒いつり目。悪鬼の形相。
この人かな? ぼくを回したのは?
「えっと、誰ですか?」
「ほお、この俺に睨まれて、ビビらねぇとはな」
「いやいや、ビビッてますよ? いきなり宙に浮いて世界が回って地面に打ち付けられて睨まれるなんてそうそうないですからね。それに、茜さんもなんかオドオド」
「てめぇが茜を名前で呼ぶな」
「ム……さっきからなんですか? ぼくが茜さんをどう呼ぼうがぼくの勝手です。それに貴方は茜さんのなんなんですか? いくら真が尊敬してる人でも、友達の彼女さんに手を出すゲスなら通報するまでです」
この人のこと知らないけど、なんか勝てない気がする。でも、真の為ならぼくは辛辣にも卑怯にもなる。それが、恩人への恩返しってやつじゃないか。
倒れているぼくの右頬のすぐ傍に足を落とす彼がどんな人であっても、揺るがないよぼくは。
「……なんだ。案外しっかりしてんじゃねぇか。真の友ってのは伊達じゃねぇな」
「え? ちょっ、急に態度変えないでもらえますか? カッコつけた自分が恥ずかしいんで……」
「そいつは無理だ。俺はもうお前を認めちまったからな」
「はい?」
足を退けて、ぼくに手を伸ばしてくれる筆無さん。
「驚かせないでよ兄々。ごめんね! 季原君」
「ううん。ぼくは平気だよ。でも、真は全然平気そうじゃないね?」
「当たり前じゃないか! 秀さんも止めて下さい。アキは戦闘力たった五のゴミなんです」
「さり気に悪意を感じるよ……」
筆無さんの屈強な手に起されて、制服についた砂を払う。ぼくの背中を筆無さんが払って砂を落としてくれる。
「有難うございます」
「いや、礼言われるほどじゃねぇ。それに張った押しちまった詫びだ」
「あれ? 随分と小さな詫びですね?」
「おい、いい気になるなよ」
「認めてくれたんですよね(なんのかは知らないけど)」
「撤回してもいいんだぞ?」
「ご勝手にどうぞ」
「フン! 秀、こんな生意気な一年に構っている場合ではないだろ!」
睨みあっているぼく達の間に文字通り、割って入ったのは綺麗な人だった。ロングヘアーでスレンダーの。
お胸はちょっと寂しいみたいだけど。その人につられて金髪の二人組みが……一目でリア充ってわかる二人がこっちに向かってくる。
「そうそう。早いとこ写真撮っちまおうぜ」
「貴様は写るな。変人がうつる」
「翼、言い過ぎよ!」
「上手い事言ったつもりか!」
「貴様よりマシだ」
「んだとっ!」
「やめなさいって!」
あの三人の空気感が出来上がっている。なんか、相性いいんだねあの人達。
写真ならみんなで撮りたいだろうし。
「あ、写真ならぼくが撮りましょうか? どうせ部外者ですし」
「ありがと、季原くん」
「いえいえ、お代は茜さんの笑顔と真の泣き顔で」
「買ったよ!」
「売ったよ!」
「二人共落ち着きなよ……」
人の商売に水差さないでほしいな。営業妨害で訴えるよ?
「一年、このスマホで撮れ。それくらい出来るな?」
「お安い御用ですよ」
黒髪美人さんのスカートのポケットから藍色のカバーが被ったスマホをカメラモードで任される。
「おーい、秀。お前、真ん中な」
「わかったよ。態々言わんでいい」
「真君は私の隣だよ!」
「う、うん!」
「目の前でイチャつくな。妹」
「おい、翼。お前は何故、俺の肩に手を置く?」
「主従関係アピール」
「お前の口からそんな言葉が……」
「なぁ、てか、俺端っこ過ぎじゃね? 俺映ってる? ちゃんと入ってる?」
「た、大誠……もうちょっとこっち寄ってもいいわよ?」
「はーい、撮りますよー」
「おい、答えろよ! 真の友だグフッ」
「うるせぇんだよ、ちょっと口閉じろ」
「いいぞ、秀。そのまま下顎を押し続けろ。私は上から頭ごと押す」
「筆無、翼! アンタ達ほどほどにしてよね!」
「なっ! アリア、ボクはまだ『筆無翼』ではないぞ!」
「ちょっと! 肘痛い!」
「あ、茜さん抑えて」
「……はい、チーズ」
携帯のシャッターをきる。なんか一言で言うと。
「これがこの人達の『いつも』なのかな?」
こちらにも楽しさが伝わるようなとってもいい写真に仕上がった。
この人達のことを知らない人がみたらおかしなものだろう。けど、この人達を知っている人ならとてもいい写真だと思うんじゃないかな。
*
「ほらよ、卒業式の写真だ」
「うむ……ほお、なかなかよい写真ではないか」
「お前も来ればよかったじゃねぇか。また化けられんだろ?」
「可能だが、私は貴様等とあまり干渉する訳にはいかんからな。この写真一枚で充分だ」
「そうか。まぁ、お前がいいならいいさ」
「筆無、貴様と会うのもこれで最後だ」
「あ? なに言ってやがる。そんなこと言って毎回来てるじゃねぇか。結局お前、天界に帰るって行った時からしょっちゅう俺に顔見せに来てるし」
「それをいうな。貴様に会いに来て何が悪い?」
「なんも悪くねぇよ。まぁ、期待はしないがまた来いよ。ミルクティー奢ってやる」
「ふっ、その台詞も何度目だろうな?」
「さぁな」
「……ではな」
「ああ。待ってる」
「 」
「俺の守護神、パラス・アテナ」
今回のラストはボロ秀のラスト(仮)です。当てにはしないでください。
また、話しの内容や文章がわかりにくいと仰られたそこのアナタ、ごもっともです。
罵倒、アドバイス等を心待ちにしております(ニッコリ☆)
次回からは、またいつも通り季原兄妹の日記を書いていきます。
今後とも季原兄妹の日記とボロ秀をよろしくお願い致します。
次回の投稿は三月一五日午前一時です。