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季原兄妹の日記  作者: 表 裏淳
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第六週目 長男の存在

 バレンタインから一週間と少し経って。目覚まし時計の甲高い音で覚醒したぼくは自室から一階のリビングに降りた。それで最初に思ったのは。


 家の中が寒いです。


 「大雪、積雪、雷、波浪、暴風警報が出てるってよ。アキ、冬海、学校は休校みたいだぜ。よかったな」


 「お兄ちゃん、そんなことよりさ、暖房つけないの?」


 「寒い……」


 起きてきた冬海はセーターを羽織り、両手を交差させて肘を擦っていた。見るからに寒がっている。


 椅子にかけてあった毛布を妹の肩に更に羽織らせる。


 「それがな、今、停電中」

 

 「え……ホントに?」


 「マジ」


 お兄ちゃんも参ったと身振りで表現する。よくみると、スウェットの上からパーカーを着ていた。


 「おねえさまは一度起きてきたけど、なんか電話一本いれて休みとったらしい。現在二度寝の真っ最中」


 「……よくこんな寒い中で寝られるよ」


 「冬海も二度寝してくるー」


 「えっ?」


 「停電直ったら起こしてー」


 「……(うち)の女共は本当にもう…………」


 呆れるよ。頭痛がする……。


 「まあまあ、寒いからアキも毛布羽織っとけよ。俺は倉庫に炭と火鉢とガスコンロ取って来るわ」


 「え? 火鉢なんてあったの?」


 「ああ。昔、まだアキが生まれて間もない頃にちょうど今みたいに停電になってな。そんで、おとんとおかんが倉庫から持ってきたのが火鉢と炭だった」


 「へぇー。じゃあ、ぼくはインスタントラーメンとか探してみるよ」


 「おう」


 こうして、季原家の男児は苦労を重ねるのであった。なんてね。


 戸棚を開けて奥の方を探す。

 えーと……あ、あったあった。インスタントラーメン。それと味噌汁やコンソメスープ、カレー。


 意外とあってよかった。


 「あ、ついでに冷蔵庫の中にも何か無いかな?」


 早めに使っておかなきゃいけない食品とか。確か、昨夜の残りのポトフが……。


 「よし、ある。これで、今日一日なんとかなるかな。あ、夜に備えて蝋燭とかも用意しとこうっと」


 夜までこの状態が続いて欲しくないけど、念のために。

 物置部屋のほうにあったかな? 


 階段を上ろうとすると、両手が大きなダンボールでふさがったお兄ちゃんが外から帰ってくる。冷気と雪も一緒に。


 「さむっ!!」

  

 思わず、そう叫ばずにはいられない。外は一面雪化粧で吹雪いている。もう冬が終わる時季とはとても思えないほどだ。


 「俺が一番寒いって! っと、アキ。あったぞ。火鉢のほうも割れたりしてなかったし、新聞紙下にひけば床は汚れないだろうし。ガスボンベも新品を一本確保」


 「やったね、お兄ちゃん。こっちも食材のほうは大丈夫そう。今、蝋燭探してくるよ」


 「頼むな。こっちは火鉢の準備しとく」


 「うん、寒いから早くしてね」


 「任しとけ」


 ダンボールを玄関にドスンと置いたお兄ちゃんは胸を叩いて、心強く笑う。

 やっぱり、兄妹で一番頼りになるのは長男だね。


  *


火鉢をリビングの床、ちょうど真ん中くらいのところにセッティングしたお兄ちゃんと二人で囲むように座っていた。


 「お兄ちゃん、火鉢も暖かいね」


 「だろ」


 ニッコリと人懐っこい笑顔をぼくに向けるお兄ちゃん。


 「そういえば、彼女さんの方は大丈夫なの?」


 火鉢の暖気に手を当てつつ、背中は毛布で熱を逃がさない。ぼくは温かさで落ち着いた。


 「あー、まあ、大丈夫ちゃー大丈夫だ。ラインの返事はきたし」


 「ふーん」


 「でも、なんか、いまからこっち来るみたいなこと言っててよ……」


 「エッ!? なんでっ!」


 「なんか、『こういうイベントは逃せない』らしい」


 「どういう発想してんのさ……」


 「……正直、わからん」


 「ちゃんと断った?」


 「もち。だって、あぶねーだろ?」


 「うん」


 流石、リア兄。そういうところがカッコいい。でも、同時に妬みたくなる。


ぼくは曲げていた腰を伸ばして、椅子に深く座り直す。それから、携帯をポケットから出して真にラインする。こういう時、安否を確かめる相手が少ないと楽だからいい。


『そっちは大丈夫? こっちは停電中で家の中は昭和風になってるよ』


『兄さんが外でカマクラ作るくらい大丈夫。でも、寒いよね』


『お兄ちゃんって超人?』


『ううん。変人』


その返信とこの猛吹雪の中、カマクラを作っている金髪の人が写った写真がトークに載せられた。


ホントにカマクラ作ってる……。


 真には悪いけど、ラインはここまで。


 なんだか、眠くなってきたし。


 「お、アキ。寝るんなら、ソファー行けよ?」


 「……うん。そうする」


 ぼくはよろよろとした足つきでソファーへと行き、寝転がる。


 うっすらとした意識で睡魔に身を委ねる。

 ぼくは落ちる前にお兄ちゃんが自分の毛布をかけてくれるのがわかった。


 「……あり、がと」


 「おやすみ、アキ」


 にっこりとしたその笑顔を瞼に焼き付けるかのようにぼくは出来る限り、睡魔に抗った。

次回の投稿は三月八日の午前一時になります。

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