第零週目 冬の家庭内で
兄妹はみんな似ているとは限らない。
母親似とか父親似とかそういう意味合いじゃなくて。
顔はまあ、似ていても不自然じゃないし似ていなくてもそれは双方が両親それぞれに似たからだろう。
でも、性格は違う。
その一例としてぼくたち兄弟を紹介するよ。
「お姉ちゃん、この問題がわかんないんだけど……」
「自分で解け。それと今忙しいからあっちいってろ」
パソコンとにらめっこしながら冷たい言葉を吐く。口調とかも少し男っぽいのが特徴。因みに二四歳の社会人。それが季原家の長女、春馬お姉ちゃん。
「おねえこわっ。アキ、俺でいいんなら教えるぞ?」
お姉ちゃんにお茶を差し入れつつ、ぼくに優しくしてくれるのはお兄ちゃん。大学二年生で一言でいうとリア充。だって顔立ちがいいのと品行方正で所属してるサークルでも人気者だから。後、彼女持ち。このリア充が季原家の長男、夏目お兄ちゃん。
「有難う。こことここがどうしてもわかんなくてさ……」
「ふーん、クラス二位のお前でもわかんないとこがあんのな。兄ちゃんびっくりだよ」
「ちっとも驚いてないじゃないか。それにぼくの場合はテスト前に勉強してるからこの成績を維持できてるだけだよ。元は悪いしね」
教科書を見てるお兄ちゃんに苦笑いを向ける。すると、机の下から急ににょきっと小さな顔が出た。
「兄上は馬鹿だったのか?」
「以前はね。冬海はぼくが馬鹿じゃ嫌?」
「ううん。兄上は馬鹿でも優しいから好き。多分彼氏が出来ても兄上の方が好き」
「そっか。嬉しいよ。でも、そんなところから顔を出すのはよそうね?」
愛くるしい顔はさぞモテるだろうけど、この調子じゃ彼氏はしばらくできないだろうなぁ。
おでこに人差し指でぐりぐりと渦巻き状になぞる。すると、頬を紅くして少し引っ込める。ちょっと可愛い……。そんなマスコット的存在が季原家の次女にして末っ子、ただいま中学一年生の冬海。
ぼくが冬海のおでこで遊んでいるとお兄ちゃんが。
「お前らまるで恋人だな」
とありえないことを言うのが通例。その返しも。
「邪魔しないで、愚兄」
冬海が辛口で睨むのも同じ。お兄ちゃんは笑って流す。
でも、今日はちょっと違った。
何故って。
「黙れ! こっちは明日のプレゼンに備えて企画書作ってんだよ!」
長女が鬼の形相で激昂したんだ。これで、冬海もお兄ちゃんもぼくも静かになる。だって怖いんだもん。
「「「……」」」
「お兄ちゃん……やっぱり自分で考えるよ」
「お、おう。そうか、んじゃ俺は洗濯物を……」
「あにうえー、一緒にゲームしようよ」
「この問題が終わったらね」
とまあ、こんな何もないどこにでもいる普通の兄妹。
その次男で高校一年、季原秋斗ことぼくが思いつきで書くことにした日記。
特におもしろいこともないと思うけど、ぼくにとっては意外と楽しい。そんな一日を綴る。