2話 人体実験
翌日、(株)未来装置研究所に向かった。
午前中は昨日と同じように身体検査。
問診の際には「今朝は何を食べましたか?」「昨日はお風呂に入りましたか?」「最後に射精したのはいつですか?」
など、近況について詳しく訊かれた。
その後、テストのようなものをやらされた。
たぶん知能検査だな。
昼休憩。
白衣のスタッフに連れて来られたのは食堂ではなく個室。
トレイに盛られた黄色、ピンク、白の流動食。
味は悪くないけど歯ごたえがなく、総評してまずい。
さらに白い個室で1人というのもまた味気ない。
(しかしまあ、これで9:00~12:00の3時間3万円か。悪くない。)
食後はカプセル剤を飲まされた。
ちょっと不安ではあったが、研究所が出したアヤシイ食事を食べた後だ。
毒を盛るつもりならとっくに盛られている。
言われるがまま迷わず飲み込んだ。
午後。
シャワーを浴びて着替えるから、順に奥の部屋へ進むよう指示された。
案内された脱衣所で服を脱ぎ、奥のバスルームへ入る。
3畳ほどのバスルームには、何も無かった。
シャワーのホースもヘッドもコックもない。
ほどなくして、天井のスプリンクラーのようなものから適温の湯が放出された。水圧はちょっと強め。
シャワーが止み、入ってきた方とは反対側の脱衣所に行くと、バスタオルと着替えが用意してあった。
着替えはなんというか・・・連邦軍の制服を未来っぽくしたようなデザイン。
パンツやシャツなど下着類が一切ないことから、零号機パイロットのスーツに似ているとも言えるのかもしれない。
さらにその奥は、部屋は10畳ほどの白い個室だった。
中央には、これまた白を基調とした乗り物のようなものがある。
タイヤは付いていない。
たぶん持ち主はフ○ーザって人で、これは空を自由に飛ぶことができる乗り物だとおもう。
入ってきた扉の対面、正面ガラスの向こうから白衣の人達がこちらを見ている。
お茶の水博士もいた。
映画でよくある隔離部屋のように、マイクで指示を出すようだ。
「では脇の階段を上り、マシンに搭乗してください」
マシンと呼ばれたその乗り物の中央にはシートがあり、それを囲むようにいろいろなメーターやらボタンやらレバーがある。
まるでジェット機のコックピットだな。
「計器には触れないで、そのまましばらくお待ちください。」
大人しく待つ。
高い報酬を受け取って雇用される身だから仕方がない。
10分。
次の指示はまだか?
20分。
計器に触るなと言われたが、見るなとは言われていない。
正面には大きな7セグメントディスプレイ。
7セグといえば今でもパチンコで見かけるが、それは飽くまで疑似表示。液晶がそれっぽく見せているだけだ。
年寄りがそうゆうの好きなんだよねぇ。
半世紀前に全盛期を誇っていた技術であるが、すでに絶滅したとおもっていた。
30分。
レバー、ボタン、スイッチ、テンキー、メーターがある。
それぞれに英語で名称が振られているようだ。
航空機なんて操縦したことがないから理解不能。
40分。
スイッチを押してみたくなった。
でも、もしこれが自爆スイッチだったらやだなぁ。
もし爆発して「息子さんの死因は自殺です」とか説明されても困るし。
うん。大人しくしておこう。
50分。
飽きてきた。
自由気ままに生きてきたニートにはきつい労働だ。
60分。
トイレに行ってもいいらしい。
しかしすぐに連れ戻された。
70分。
なんでこんなにスイッチが必要なんだろう。
ガ○ダムでさえ1つのコントローラーで操作できるというのに。
80分。
操縦桿が無いのに気付いた。
空を飛ぶことはできないっぽい。
90分。
ヒマだから、このマシンの用途について妄想してみた。
7セグには66000000と表示されている。
ここから想像できるのは・・・HPだ!
つまりこれは戦闘マシンであって、耐久力が表示されているのだ。
すげーな。
スーパーロボットもびっくりだぜ!
このレバーで高射砲の照準を合わせて、このボタンで発射。
このスイッチがバリア。
このスイッチにはチャージと書いてある。きっと波動砲の充填だ。
このオプションと書かれたやつは、分身を呼べる。
このセレクトってやつは武器の選択。
このモードってやつを押すと、暴走モード発動だな。いざという時に使おう。
このコマンドってやつは、うーん・・・エンカウントした敵に対して敵に対して「たたかう」か「にげる」か「じゅもん」か「どうぐ」を選択する。
このADとBCってやつは・・・わかった!このテンキーを十字キーに見立てて、↑↑↓↓←→←→BAとやれば裏技発動!
しかし回避方法がわからない。アクセルも無いし、もしかして固定砲台か。
俺、ニュータイプだから自走式でも使いこなせるぜ?
いやまてよ?
これってこのまま動くんじゃね?
モビルスーツじゃなく、いきなりモビルアーマーかよ。
んで、あの身体検査とかはサイコフレームを測定するため。
そこで良好な成績を叩き出した俺は、難しい操作をすることもなくサイコフレームでコイツを浮かせることができる、と。
しかも地球連邦軍のコスプレ。
いろいろと合致してきたぞ!
100分。
やっとマイクから声がかけられた。
お茶の水博士の声だ。
「では、これからそのタイムマシンの説明をします。」
「えー。そんな夢のない答えは聞きたくありません!」
せっかくジオン軍との戦いをシミュレートしてたのに、ショックだ。
この溢れ出しそうなドーパミンに対してどう責任をとってくれるんだ!
男はみなガ○ダムなんだぜ?
タイムマシンなんかで戦場に出れるとおもってるのか?
タイムマシンなんて、せいぜい過去とか未来とか行ける程度だろ?
・・・・・え?マジ?
タイムマシン?
すげーじゃん。
「・・・コホン。えっと・・・これから行うのは、人類史上初の試みとなる人間搭乗による時間航行実験です。
あなたには被験者となってもらい、6600万年前の地球に行き、帰ってきてもらいます。」
夢がないとか言ってすみませんでした。
6600万年前とか、超がつくほど夢に溢れてます。
しかし、1つだけ聞きたい。
「あの、大丈夫なんですか?
その・・・帰ってこれないとか、死んじゃうとか、ハエと合体してハエ男になっちゃうとか。」
「大丈夫だ。すでに無機物をはじめ、生物、知的生物まで実験に成功している。
その後の経過も問題なく、実験に参加した猿も元気にしているよ。」
なぜ俺が選ばれたか、という疑問も浮かんだが、それを先行するように話は続けられた。
「すでに安全性は確立しているものの、この研究所内の誰かにやってもらうというわけにはいかない。
万が一の場合、対処できる者が抜けることになるからね。
また、この研究は信頼できるある組織からの資金提供により極秘裏に進められているものなので、あまり派手に被験者を募集をすることができない。
そこで、誰でもいいから1番初めにバイトに応募した者が被験者になってもらう、ということになったんだよ。」
俺はニュータイプじゃなかったらしい。残念だ。
というか、それなら面接すらいらないじゃん。
「で、報酬についてだが、たしかキミは時給が高ければ高いほどいいって言ったよね?」
なんかイヤな予感がしたが、無言でうなずく。
「そういうわけで、高い高い報酬に比例して長い長い時を遡ってもらうことにした。
6600万年前。そう、恐竜が居たとされる時代だね。
なに、だいじょうぶ。生物が居たとされる時代だから空気はある。
着いていきなり窒息して死ぬようなことはない。」
いや、危険でしょ、その時代。
1発で踏みつぶされちゃうよ?
まあ、戦国時代とかも危なそうだけどさ。
「しかしもし危険であれば、すぐにそこのリターンボタンを押せばいい。
今の時代の、今のこの場所に戻れるはずだから。」
そうか。飛ばされた後にすぐにボタンを押すだけ。
簡単な仕事だ。
「あとね、もし到着した先で、文献で示されているものとは違い、そうだな・・・
例えば見たことも聞いたこともない生物がいたとか、恐竜が言葉をしゃべっていたとか、なんでもいい。
今までの歴史の推論を覆すようなことが発見できたら報告してくれたまえ。
その内容に応じて臨時ボーナスを出すよ。
残念ながら予算の都合もあるから、上限300万円程度しか出せんがね。」
前言撤回。
じっくり調査してみよう。
「まあそんなわけだ。
そのマシンの細かな使い方は覚えなくていいから、帰りたくなったらリターンボタンを押すだけでいいよ。
説明は以上だけど、何か聞きたいことはあるかね?」
うーん。ここでいろいろと聞いておくべきなのかもしれないけど、俺はあまり細かいことを考えないタイプだ。
それよりも、まだ見ぬ未知なるボーナスの世界へと心を躍らせていた。
「質問はありません。さっさと行きましょう。」
「よろしい。では実験開始!」
博士がポチっとな、といった具合でボタンを押すと、カウントダウンが始まった。
10
9
8
7
6
5
4
3
「あ、そういえば非常食とかって積んであります?」
2
1
「ないよ。」
0
まぶしい光が一面に広がり、とても目を開け続けることができなかった。




