20話 帰還
帰ってきた。
西暦2030年の世界に。
あちらの世界には約1年間滞在したが、こちらでは約3ヶ月しか経っていない。
なぜかというと、タイムマシンの機能上、タイムスリップをした直後の時刻にリターンポイントが自動で設定されるため、どれだけ転移先に滞在してようが最後にタイムスリップした日時に戻されるというわけだ。
そして、所長達は3ヶ月の間に何十回も救助の為にタイムスリップしていたということだ。
てっきり2031年になってると思っていたが、まだ2030年11月だった。
戻った俺が目にしたのは、研究所の白い壁。
その後すぐさま、黒いスーツとサングラスのエージェントみたいな人に無理矢理連行され、わけのわからないまま研究所の個室に押し込められた。
個室にやってきたのは、俺の両親。
両親は俺を抱きしめると、わんわん泣いた。
悲しいとは思ってなかったのに、俺までもらい泣きしてしまった。
・・・・・
今回の件に関しては、秘密裏に処理された。
俺は、タイムマシンと関わった一切の事を口外しないことを約束に、解放された。
(たぶん逆らったら消されていたとおもう。)
タイムマシン事業は凍結され、(株)未来装置研究所は解体された。
雇用者である(株)未来装置研究所が解体されたことで、俺のバイト代(時給1万円×1年分+ボーナス)は支給されなかった。
そのかわり、親の口座には国から莫大な金額が慰謝料として振り込まれた。
死亡の場合の使用者賠償をはるかに上回るその金額には、口止め料という意味も含まれているんだろう。
(内閣官房機密費ってこういう時の為に使うのか。)
所長ほか、研究員のみなさんがどうなったかは知らない。
(国の関係機関だから、どっかに天下ってるんじゃないかな。)
・・・・・
その後について。
俺はアパートに戻った。
親が「息子は絶対に生きている」と信じて、アパートは引き払われずにいた。
アパートに戻った俺は、ニートに戻った。
しかも親からの仕送りを受けている、完全体ニートだ。
まあ、慰謝料から出ている金だから、どうかといえばもともと俺の金でもある。
そして、働く気がない。
いや、勘違いしてもらっちゃ困る。
以前のように、なんとなく働く気がないわけではない。
脱力感というか・・・
空虚と言うのが適当か。
なぜかどうしようもなく虚しいのだ。
愛する人を失った時とか、こんな気持ちになるんだろうか。
あれ以来、何もする気が起きない。
アパートのカーテンを閉め切って、ずっとここに居るだけだ。
これは”生きてる”と言えるのだろうか。
ここに居て、息をしている。
ただそれだけだ。
いっそこのまま息が止まってしまえばよかった。
試しにテレビをつけてみたものの、胸糞悪くなって消した。
何もしたくない。
どうしてこんなふうになってしまったんだ。
死にたい。
そう思ったこともあった。
実際、何度か首を吊ろうかと思った。
でもしなかった。
別に度胸がないわけではない。
死にたくないと思ったわけではない。
死ぬことに意味がない。ただそれだけだ。
鏡を見れば、げっそり痩せこけてクマが出来た自分が映っていた。
まるで死人のようだ・・・ハハハ
眠れない。
1日に4時間くらいしか眠れない。
動悸で起こされる。
起きた後も動悸が続く。
そのくせ目が冴えてる。
最近はメシをろくに食べてない。
食欲がない。
食べても戻してしまう。
なんとか水なら喉を通る。
空気と水だけで生きてる。
きっとこのまま死ぬんだろうな。
・・・・・
朝も、昼も、夜も、あの楽しかった日々を思い出しながら過ごした。
血を分けた兄弟のように親身になってくれるオキナ。
最後に想いを伝えられた、俺の大好きなオーナ。
いつもオーナは起きるのが早かった。
朝食の用意ができると「おにーちゃん、カズヤ起きなさい!」って言うんだ。
オキナに仕事へ連れて行かれると、毎回違う仕事が与えられる。
今日は草刈りかな?今日は荷物運びかな?今日は屋根の修理かな?
毎日が新鮮だった。
俺が未来の道具を作った時は「すごーい」って褒めてくれるオーナと、「まあな」となぜか自分が誇らしげにするオキナ。
元々は誰かの発明品だから大してすごいわけでもないけれど、未来の道具を再現するのは楽しかった。
そして別れ。
例えばあの時、「絶対帰らない、帰るくらいなら死んでやる」とでも言って自分の身を人質にすれば、あの世界に留まっていられたのかもしれない。
後悔。
こんな気持ちになるとわかっているのであれば、絶対そうしただろう。
しかし、過ぎたことを考えても仕方がない。
近い未来、タイムマシンが世に出れば、後悔というものが無くなるんだろうか?
いや、タイムマシン事業は凍結されたから、未来永劫タイムマシンは日の目を見ることが無いだろう。
・・・・・
ある日、あの世界のことを思い出す為、パソコンをつけてインターネット検索をしてみた。
パソコンをつけるという行為に胸がむかついたが、あの世界を知る為だと思い、我慢した。
紀元前6600万年、魔法、赤い月、縞瑪瑙の城・・・
俺の思い描いた検索結果とは違っていたが、満足した。
あの世界のことは未来装置研究所の人を除いて誰も知らないんだから仕方がない。
それでも、あの世界を懐かしむ材料となるのだから、こんな楽しいことはない。
検索を続けるうち、何か心にひっかかるものに出くわした。
「これってもしかして・・・」
その日のうちに、俺は失踪した。
「これを読んでいる頃、俺はもう死んでいます」と書置きを残して。




