12話 面会
「どうだカズヤ。元気になったか?」
帰ってきたオキナにさっそく話しかけられた。
オキナには俺が元気になったように見えたんだろう。
実際、先生と話しているうちに気が塞いでいたのも楽になった気がする。
大丈夫だ。きょうは充分に休んだし、明日から頑張ろう!
「ああ、そういえばさっき先生に会ったぜ。」
「何か言ってた?」
「んー。なんか急いでたみたいだったけど・・・
そうそう。お前、明日、先生の家に来いって言ってたぜ。」
家庭訪問の次は、職員室に呼び出しか・・・
せっかくやる気になったところで、出鼻をくじかれた。
・・・・・
翌日。
塾へ向かう。
うーん。最近ほとんど仕事してないな。
なんだかオキナとオーナに申し訳ない。
せっかく拾ってもらったのに、居候がニートじゃいつか愛想尽かされるな。
いつもの青空教室では、ベア先生が子供に魔法を教えていた。
あれ?今日は赤曜日じゃなかったはず。
どうしたんだろう?
リクズシー先生は家の中か?
ドキドキしながら職員室の扉をノックをした。
「カズヤ君だね。どうぞ。」
扉を開けると、リクズシー先生は立ち上がってコートを羽織るところだった。
「さて、では行きましょうか。」
は?
よくわからないが、とりあえず付いて行った。
・・・・・
「なるほどね。オキナからは何も聞いてないんですね。」
「はい。」
どこへ行くともわからないが、話しながら付き歩いた。
「3歩あるけば忘れる。彼らしいと言えば彼らしいな。ハハハ。」
「で、どこへ行くんですか?」
「領主の館ですよ。」
領主。
この街の町長みたいなものだったか。
会ったことはないからよく知らない。
なんでそんなところに連れて行かれているんだろう?
「俺、何か悪いことでもしました?」
「ハハハ。悪いことをして連れて行かれるのは牢獄ですよ。
今から行くのは領主の館。昨日のうちに、君を連れて行くことはもう伝えてあります。」
どういうことだ?先生がやっていることがわからない。
「なんで俺が連れて行かれるんですか?」
「あなたが神の子だからですよ。」
・・・。
俺がドラゴンを信じているとバカにしたかとおもったら、先生は神の子を信じちゃってましたか。
伝承によると”光とともに降り立った神の子 民を栄光に導くだろう”だったか。
「はっきり言っておきます。俺は神から生まれていません。
両親はたぶん人間でした。」
「知っています。私だって別に、神が実在する生き物だとは思っていません。」
「ならなんで俺が神の子だって言うんですか。」
「民を栄光に導く力があるからです。
神の子は、神の子という種族じゃなくてもいいんです。
民を栄光に導いたから、後になって神の子と呼ばれるようになった。
その事実だけで、人の子であっても神の子に間違いはないのです。」
よくわからないが、何かを俺に期待しているようだ。
「栄光に導くって・・・俺にはそんな力ありませんよ。魔法はまったく使えないですし。」
「魔法には期待していません。そして、確かに今は力がないかもしれません。だからこそ領主に会わせるのです。」
「どういうことですか?」
「あなたには先進文明の知識があると判断しました。
しかし、今のあなたにはそれを有効に活用する術がない。
それならば、後ろ盾を得ることでその知識を存分に生かせると考えました。
それがこの街の利益になり、あなたのためにもなるのならば、悪い話ではないでしょう。」
ふむ。
興味がないわけではない。
でも、別に積極的に進めたいとも思わない。
なるようになーれ、だ。
話をしているうちに、領主の館の前にたどり着いた。
街の中心あたりに位置するのだろうか。
まるで城のように聳える2階建ての豪邸。
周囲の2階建てよりもさらに屋根が高く、その存在は一際目立つ。
外観からも部屋の数はゆうに20はあると思われる。
領主の”家”とは呼ばず”館”と呼ぶのはその所以か。
扉の前に立ち、ライオンを模した厳ついドアノッカーを叩いた。
「リクズシーです。神の子をお連れしました。」
おい。ちょっとまて。もう領主にまで神の子で通ってるのか?
その視線に気づいた先生は、無言の俺に回答した。
「肩書きが重要なのです。もし知識が豊富な人、とだけ領主に説明していたのでは会ってもくれないでしょうからね。」
執事らしき人が出てきた。
「どうぞこちらへ。」と通された先は応接間。
外からだけでなく、中から見ても豪邸だった。
部屋だけでなく廊下にも全面張られた絨毯。
ほかの建物とは違い、高い天井と豪華なシャンデリア。
大きな1枚ガラスから成る窓。
価値のわからない調度品の数々。
この世界に来てから、これほど贅の限りを尽くした建物は見たことがない。
領主というのは町長のようなものだと考えていたが、違った。
まるで貴族か王様だ。
なるほど。そりゃ簡単に会えるわけがないな。
謁見の間にでも通されるのかと思っていたが、数刻の後、執事の案内でこの応接間に領主と呼ばれる人が入ってきた。
領主はの見た目はまあ、領主だった。
年の頃は50代。ハゲでデブ。いやらしい目つきに、いやらしいヒゲ。
いかにも悪徳領主といった風貌。
いやいや、見た目で判断してはいけない。
なんせ先生の話では、彼が俺のパトロンになってくれるというのだから。
「まあ掛けたまえ。」
そう言われ、テーブルを前にしたソファーに腰を下ろす。
上座に領主、下座に先生と俺、という形だ。
先生が話を切り出した。
「この度は、お目にかかれて光栄です。
お日柄もよく、穣月のお忙しい時期にかかわらず・・・」
「挨拶はよい。用件が聞きたいのじゃ。」
「はっ。彼が、我が国に栄光と繁栄をもたらすために遠く彼方の異世界から神より遣われし神の子。名をカズヤと言います。」
なんか勝手に設定が脚色されてる。
「異世界と申したな。異世界とはどんなところじゃ?」
「異世界の文明はすばらしく、生命の神秘においては・・・」
「オヌシには聞いとらん!」
先生は一蹴された。
俺のターンか。まいったな。
「別にこの世界と変わりません。人が居て、建物があって、大地があって、空気があって、その中で生活しています。
ただ俺の印象では、この世界よりも遥かに文明が進んでいるというだけです。」
「”光とともに降り立つ”と聞くから、天界にでも住む者かと思っておったが、違うようじゃの。」
「はい。この空の上や雲の上、さらに大気圏の向こうの宇宙空間、あるいはあの白い月に行った人も居ますが、天界なんてありませんでした。」
「ほう。これは興味深い。では、異世界とはどこにあるんじゃ?」
俺が居た元の世界を異世界と呼ばれるのは違和感があるが、こことは違う世界という意味では異世界に変わりがない。
訂正する必要もないだろう。
「俺が元居た異世界は、こことは違う時代、西暦2030年の世界です。」
「2030年とな?今は王国暦3717年だから、オヌシは過去の時代から来たと申すか?」
「いえ、違います。西暦2030年の世界は、この時代から見て6600万年後の未来ということになります。」
さすがに6600万年という途方もない数字を聞いて、2人とも驚いた顔をしている。
そういえば未来から来た話はリクズシー先生にもまだしていなかったかもしれない。
「ああ、間違えました。6600万という数は、異世界の基本である10進数での数え方になりますので、
こちらの世界の8進数に換算すると・・・だいたい3億年後になります。」
もう、途方もなさ過ぎて、正確な数字はどうでもよくなったんだろう。
領主は質問を続けた。
「誰に召喚されたんじゃ?」
「こちら側の誰かに呼ばれたのではありません。俺が異世界から時間を遡って来ました。」
「そうか。この世界の魔法では時間を止めるのが精々だと言うのに、異世界の技術で3億年の時を遡ってきたと申すか。
異世界ではよっぽど魔法が発達していると見える。」
「いえ。魔法ではありません。科学の力です。」
「科学とな?マナの力を使わずどうやって時間を跳躍できると言うんじゃ?」
「科学の力で開発されたタイムマシンがそれを可能にしました。」
領主は質問を止め、しばらく物思いに耽った。
どうやったらそんなことができるのか空想しているのだろうか。
「うむ。わかった。して、此度ここへ来たのは何用じゃ?
なかなか興味深い話ではあったが、まさかおしゃべりをする目的で来たわけではあるまいて。」
俺は口ごもったが、代わりに沈黙を続けていたリクズシー先生が口を開いた。
「僭越ながら申し上げます。彼には我々よりも3億年先の未来の知識がございます。
これをうまく活用することが出来れば、この街の栄光を知らしめ、ひいては我が国のさらなる繁栄は約束されたようなものでしょう。」
領主はしばし考えたものの、迷った様子はなかった。
「わかった。ワシの責務はこの街の秩序と安寧を守ることであるが、さらなる発展の種があると聞いてしまっては捨て置くわけにはいくまいて。」
領主は苦々しい笑みを浮かべながらも、なんだか楽しそうだ。
領主は執事を呼ぶと、何かを持って来させた。
「これは、街の発展のための投資じゃ。
この街に無いものを作るにしても、何かと入用じゃろうて。
何か役に立つものが出来たら、また来るがよい。」
渡されたそれは、金色に輝く硬貨だった。
・・・・・
面会は終わり、先生とともに帰路につく。
金貨2枚。それが俺に与えられたものだった。
金貨なんて見たことないが、RPGでは勇者が旅立つ時に100Gくらいポンっとくれるものだ。
それが2Gだけ・・・ほんとは期待されてない、もしくは半信半疑なのだろうか。
価値を考えてみよう。
銅貨1枚で家の3人の食事が賄われるから、だいたい1000円くらいとしてみよう。
銀貨1枚は銅貨16枚で換金されるから、銀貨1枚は16000円。
金貨1枚は銀貨16枚で換金されるから、金貨1枚は256000円。
約50万円か。
ああ、よく考えたら妥当な額かもしれないな。
「よかったですね、カズヤ。」
「ええ、おかげさまで。」
(先生が尾ひれ背びれ付けてくれるから焦ったけどな。)
「しかし、よく信じてもらえたものですね。
もし、未来から来た証拠を見せろなんて言われたら、どうしようかと思っていました。」
「わたしはそのあたりは心配していませんでした。
話の端々で我々の知らないもの、空の上のタイキケンという未知の単語が出ていたし、10進法という考え方。あと、言語の通じない文明人の話は領主の耳にも届いてますから、いざとなればあなたの母国語をしゃべってもらえば済むと考えてましたので。
異世界とは言わなくとも、異国から来たことは証明できます。」
なるほど。そういうことか。
言語の通じない俺の存在は領主に知られていたわけか。
「あの、これからどうすればいいんですか?先生。」
「とりあえず、そのお金でオキナへの恩を返すといいでしょう。
そして、当面の生活費を確保して、残りを研究資金とすればいいでしょう。」
「はい。」
「それと、これでオキナへの借りは返せるかもしれませんが、代わりに領主に借りを作ったことになります。
領主は街の役に立つものを作って持ってこいと言っていました。自分に投資してくれた領主に対して、何をすればいいかわかりますね?」
先生はやはり”先生”だった。




