幕間劇 ある勇者達の日常(TSネタ注意報)
思いつき第二弾。
脳みそをぷーにしてお読み下さい。
■クーのお風呂
クーは一人、風呂に入っていた。
熱いお湯が疲労した体に染み渡る。体の芯までお湯にとけてしまったかのようにクーは脱力して浴槽に持たれかかっていた。
「ふ、ふ、ふ、風呂~それは唯一落ち着くことのできる心のオアシス……へきゃっ!?」
と、変な歌を口ずさみながらハルトが風呂場に入ってきた。
変な歌を聴かれた恥ずかしさと、一応は女性体のクーの風呂に乱入してしまった気恥ずかしさでハルトは変な悲鳴を上げる。
「お、お邪魔しましたー……」
摺り足でゆっくり外に出て行こうとするハルトだが、そんなハルトにクーはぽやんとした声を掛ける。
その表情は、だらけきっていた。
「あー、俺はもうすぐ出るから。その間に体でも洗っとけ」
「……へ? 俺に、今、ここで体を洗えとおっしゃる?」
「当たり前だろ。体を洗わずに湯船に浸かるなんて許さないぞ。それに、いくら大きめだからといってもこの浴槽に二人同時に入るのはきついだろう? やだぞ俺は、男と浴槽に二人で浸かるなんて」
「いや、そういう事を言ってるわけじゃないんだが……」
まぁたしかにハルトとクーは幼い頃からの付き合いだ。家族ぐるみで交流があったため、子供が邪魔になるような場面ではまとめて風呂に放り込まれる事も多かった。
だが、今の年齢、今の体で一緒に風呂に入るのは良いのだろうか。男二人で風呂に入るよりは大分マシだが。というかそんなのあり得ないが。
もしかして、クーはのぼせて脳味噌がぷーになっているのではないだろうかとハルトは思った。
「そんなところで突っ立っていられるとリラックスできない。さっさと頭と体を洗ってしまえ」
続けてクーに言われ、ハルトはやむなく風呂椅子に腰掛ける。
なんだか納得がいかない。
いかないが、まぁどうでもいいかと判断したハルトは素直に頭を洗い始めた。
だがしかしハルトも男の子であり、クーは親友ではあるが今の体は超絶美少女、しかもグラマラスな獣耳娘である。
湯気とお湯が邪魔でイケナイ部分が見えてしまうような状況ではなかったがどうしてもチラチラと見てしまい、見えそうで見えない事がハルトの心に過負荷を掛けていた。
ええぃ、なぜだ。なぜ見えん! R18指定にされていないからか!?
目を血走らせながらトチ狂った考えに頭を支配されながらも頭をわしゃわしゃさせていると、風呂場の外でなにやらごそごそと物音がするのをハルトの耳が捉えた。
また誰か入ってこようとしているのだろうか。クーの方に集中していたので気づかなかった。
すでに自分が入ってるから後にしてくれと声を掛けようとしたハルトだったが、機先を制して投げ掛けられた声を聞いてその表情を強張らせる。体に怖気が走った。まるで、死神の鎌をその首筋に押し当てられたような錯覚。それほどの戦慄を感じた。
「は、ハルト! ちょっといいかしら? 今日助けてもらったお礼に背中でも流してあげようとか、思ったりなんかしちゃってるんだけど!」
「!?」
風呂場の外から声を掛けてきたのは、エリザ。旅の仲間の魔法使いである。
昔はツンツンしていたが、どうもハルトに完全に惚れてしまったらしい。最近やけにハルトと一緒にいたがる恋する女の子だ。
結構嫉妬深い所のある子なので、こんな状況を見られたら何をされるかわかったものではない。
「ま、待て! それはマズい!」
必死になってエリザを静止するハルトだったが、エリザはエリザでかなりテンパっていた。
それはそうだろう。男性が入っているお風呂に乱入しようというのだ。心臓はバクバクうるさいほどに高鳴り、過呼吸気味なのか体に若干の痺れすら感じている。
エリザは愛しのハルトの言葉すら耳に入らず、カチコチに固まった体で風呂の扉に手を掛けた。
「あ、期待してたなら悪いんだけど、バスタオル巻いてるからね。私はそんな簡単に素肌を晒したりしないんだから。残念でし……た……」
「あ」
風呂場の扉を開けて、エリザが入ってきてしまった。
ぐるぐるお目々になったエリザの視界に入ったのは、頭を洗っている素っ裸のハルト。
これはいい。
問題は湯船に浸かっている方。クーだ。
「は、は、ハルト。これは一体……」
「いや、これはだな。そんな変な事ではないんだ。俺達は」
「間違いなく変よ! 男女がなんで一緒に風呂に入ってるのよ! いや仮に男同士でも変なシチュエーションよ! や、やはり私の最大のライバルはクー……!?」
頭を抱えてその場にうずくまるエリザ。おろおろするハルト。たっぷり風呂を堪能し、体にタオルを巻いて満足げな表情で外に出て行こうとするクー。
「ってちょっと待てやコラ! この状況どうにかしていけ!」
「すまん、脳みそがとろけていたようだ。これもすべてお風呂が気持ちよすぎるのがいけない。後は任せたぞ勇者よ」
「勇者関係ねーし!」
勇者様御一行の旅は、今日も平和ではなかった。
■クーの戦闘
その日は夜襲があった。
森でキャンプをしている中、夜目の効くハイエナ型の魔物達から襲撃を受けたのだ。
だが、仮にも勇者達と呼ばれる面々がそんな連中に遅れをとるはずがなかった。
いち早く襲撃に気づいたのはクー。
獣人である彼女(?)は、耳が良い。ハイエナ達がキャンプ地を取り囲むためにばらけると逆に打って出て、各個撃破を行った。
それは、良くある日常の風景だった。
しいていつもとの違いを挙げるなら、神官が強力なライトの魔法であたりを照らしていたのと、クーがラフな格好をしていた事だろうか。
その日はとても蒸し暑かったため、クーは上にタンクトップを一枚着ているだけだった。
そんな状態で動き回れば、当然大きく揺れる場所がある。
重戦士ロッドは、それに目を奪われた。視線を釘付けにされてしまった。
揺れるのである。でかいのである。やわらかそうなのである。
まるで、世界の幸せを圧縮して詰め込んでしまったような存在ではないか。
ああ、幸せはここにあった。桃源郷は実在したんだ。理想の世界の縮図が、ここにある。
ロッドは自慢の動体視力をフル活用しつつ、神と始祖様に感謝の祈りを捧げた。
魔物達の殲滅を終えたクーが戻ってくると、ロッドは開口一番こう言った。
「その揺れる胸に惚れた。結婚してくれ」
「……は?」
クーは何を言われたのか一瞬理解できず、呆けた声を上げる。
クーの後ろでそれを聞いていた女性陣達もあまりの展開に頭がついていかない。
「……うわぁ」
「……考えうる中でも最悪の愛の告白だね」
「むさい男に、今は可愛い女の子だけど元男……? ふふふ腐腐腐、この組み合わせは意外と……じゅるり」
女性陣からロッドに向けて駄目出しの嵐が降り注ぐ。一人だけ違う反応を返した女性がいたが、彼女の暴走はいつもの事なのでみんなスルーした。
「さぁ、返答はいかに」
腕を組んだロッドは、堂々と構える。
その表情は至極真面目であり、精悍な顔立ちとも相まってひどく緊張した空気を周囲に作り出していた。
だが発言内容はお馬鹿極まりない。あまりの開き直り具合に、クーは頭痛を感じて頭を押さえた。
「まぁ……なんだ。つい目が行ってしまう気持ちもわからんではないのだが……さすがにその告白までは許容できないな」
「なら、許容してもらうにはいかんとすれば良い?」
「そうだな。まずは可愛い女の子になってもらえばいいんじゃないかな」
「なんと。男は駄目か」
ロッドは上半身をはだけてその逞しい肉体を見せつけながら、ずずぃっとクーの方ににじり寄る。
ロッドが進んだ距離と同じ分だけクーは後ろに下がった。
「待て。なぜ服を脱ぐ」
「それは、この俺の筋肉を見て男の素晴らしさに目覚めてもらうためだ」
「いや、そんなもんで目覚めたりしないから」
「可能性を捨てるべきではない! 人には無限の可能性が秘められているのだっ。新しい事に挑戦してこそ、あらたな希望の世界が切り開かれる。俺は新たな希望の光をこの世界に作り出すぞ、クーッッ!!」
自慢の筋肉をピクピクさせながらクーの方に突撃していくロッド。
クーはもはや後ろに下がるのをやめた。
変わりに、思いっきり右腕を振りかぶる。
そしてロッドの顔面に向けてその右腕を振りぬいた。
ロッドは鼻血を噴出させながら幸せそうな表情でその場にぶっ倒れ、気絶した。
勇者様御一行の旅は、今日も平和ではなかった。
ちなみにこの日から、腐の気がある付与魔術士がことあるごとにクーに女性らしい仕草を身に付けさせようと躍起になる事となる。たまに「擬似BL……うへへ」と呪詛のように呟くのがなんだか怖い。
根負けしたクーは、徐々にではあるが女性らしい振る舞いをさせられるようになった。
■クーの悩み
とある街の宿屋兼酒場にて。
ちょっとした酒盛りのつもりがいつの間にか大宴会にまで発展し、クー達は幾人かが酔いつぶれてしまうまで騒いでいた。
宴会を終えた後、酔っ払ったハルトとクーは酔いつぶれたエリザをベッドの上に放り投げてへたり込む。
エリザはいい夢でも見ているのか「ああハルト様、そんなご無体な……」と顔を赤らめて寝言を呟いていた。
幸せな女の子モード全開のエリザを見て、クーは少しだけ苛立ちを見せハルトに愚痴をこぼす。
普段弱音を吐かない反動からか、クーは酔いつぶれるとよく愚痴をこぼす。泣き上戸なのだ。
「なぁ……私って、もう女の子として生きていくしかないのかな」
「んー、それは」
ハルトは、その問いに答えられない。安易に答えてしまって良いものではない。
そういうのは本人の気持ちと踏ん切りが全てだとハルトは考えるが、そんな簡単に割り切れるのなら悩んだりはしないだろう。
おそらく、本人の希望としては男として生きたい気持ちが残っている。しかし、パーティメンバー以外の人間はクーを完全に女性として扱う。クーが男性として生きようとするのを許さない。
周囲の人間をないがしろにできないクーだからこそ、自分の気持ちを優先すべきかどうか迷ってしまうのだろう。
クーは自分の希望だけを優先して生きられるようなタイプの人間ではない。しかし、自分の希望を捨てて生きても後悔するだけだ。
結局の所、答えは出ない。
「私はどうすればいい? 教えてくれよ、ハルト」
「クー……」
クーは酔って上気した顔をハルトに近づけて問いかける。
相変わらずルーズな胸元からはどうにも視線が引き付けられてしまうものが見え隠れし、ハルトの視線をふらふらと彷徨わせる。
とろんとした目にはうっすらと涙が浮かんでおり、クーの心はひどく不安定になっている事が伺えた。
酔っ払ったハルトは、どうすればいいのか真剣に考えた。
酔っ払ってパーになった頭で、答えの出ない問いの解答を求めて真剣に考えた。
悩むそぶりを見せつつ、おっぱいを凝視しながら考えた。
そして、くるくるぱーな結論を出した。
「クー……不安になるのは、経験がないからだ。人は経験のない領域に踏み込む時に強い不安を感じる。旅をしたことがない奴が旅をしようとすれば、不安になるだろう。芸をした事がないやつが芸をしようとすれば、不安になるだろう」
ハルトは、クーの顔をまっすぐ見つめてこう言った。
「案ずるより生むが易しということわざもある。クーも一度、女というものを経験してみたらその不安は解消されるのではないだろうか」
「……そうなのか? 具体的には、どうすればいいんだ?」
ハルトの体にすがりつきつつ、クーは子供のように続きの言葉をねだった。
酒のせいか、それとも体に感じるやわらかい感触と良い匂いのせいか。ハルトの頭がクラクラする。
ハルトが出した結論はこうだ。くるくるぱーになった頭で出した結論は、こうだ。
「簡単だ。その身に着けた余計なものを全て取っ払って、俺の上に跨って腰を振れば良い。ヘイ、カモン! 不安を全て忘れさせてやるYO!」
ハルトは、酔っ払ってへべれけになった顔で無理やりキメ顔を作った。
クーはその言葉に従い、ハルトの上に跨る。
そして両の拳を構えた。
「……はっ!? いや待て違う。マウントポジションを取れと言ったわけではない!」
「そんな事はわかってる。だがこうすれば逃げられないだろう? 思う存分振るってやる。拳をな」
「あああああああああッッ!!」
暗く冷めた目でハルトを見下ろしたクーは、やや力を込めた拳でハルトの両頬を連打する。
痛みはそれほどでもなかったが、酔っ払った状態で顔を揺られたハルトは気持ち悪さでノックダウンした。
勇者様御一行の旅は、今日も平和ではなかった。
ちなみにベッドの上で潰れていたエリザだが、このやり取りはしっかり耳に入れていた。
翌日、ハルトはエリザにも折檻を受ける結果となった。
勇者様御一行の旅は、いつも平和ではなかった。