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傍観者ではいられない!  作者: ぽぽりんご
第一章 リー・リノ編(わいわいがやがや風味)
15/51

幕間劇 ある若者達の日常

このまま第二章に進むのもどうかなーと思ったので思いつきの話を入れてみました。

ただの思いつきでささっと書いたので誤字脱字や矛盾点があるかもしれませんが、頭を空っぽにしてお読みください。


 

 

■誕生、脳筋王リノ

 

 

 今日の私は、とあるPvP大会に参加することになっている。

 これもレベルキャップ解放ポイントを取得するため。この大会で優勝したら10ポイントをゲットできる。私のレベルキャップももうすぐ70に到達だ。実際のレベルはまだ50だけど……

 

 現在私達がいるのは、PvP大会の控え室。そこには大会の参加パーティ全員が待機している。

 

「思ったよりゆるい雰囲気ですねー?」

「そうだね。開催回数も多いし、商品も消耗品だけだし……一度優勝してレベルキャップ解放ポイントをゲットしたら、もう参加する理由がないよ。平日だと、下手すると参加パーティがゼロの場合もあったりするぐらいさ」

 

 椿が周囲の参加者達を吟味し、戦力分析をしながら私の問いに答える。

 私も周りを見回してみるが、レベル30付近であろうパーティまで参加しているようだ。

 おまけに、参加上限人数の10名に達しているパーティの方が少ない。人数が少ないので大丈夫なのかと心配したが、クーを要する私達はむしろ優勝候補筆頭なのではないだろうか?

 メンバーは、私、クー、椿。そして私と同様レベルキャップ解放ポイント目当てのスパーク達4名を加えたパーティだ。見たところレベル70を超えていそうな上級者は数える程度しかいないし、これはいけそうだ。10名上限の大会に5人で参加とか戦い舐めてるんですかと凄んで無理やりクーと椿を巻き込んだが、確かに5人でもそこそこいい所までは行けたかもしれない。

 

 

 そう思いながらもう一度周囲を見回してみると、どうも私達に向かう視線の数が多い。私達の方を見ながら、なにやらこそこそと話をしている奴らまでいる。ふふ、私達を恐れているのか。それも仕方があるまいよ。何しろクーがいるし、それに私もレベルはまだ低くとも動きで軟弱ボーイ達に負けるつもりは無い。私はクーのスパルタ教育にも耐えてきたっ!

 

 私は耳を澄ませて、彼らの会話内容を聞いてみる。私の耳の良さを舐めるなよ。

 

「おい、あいつだぜ」

「え、あれが噂の……」

「脳筋……」

「脳筋だ」

「脳筋王のリノ……」

 

「一体誰の事を言っているんですかねぇ?」

「うわぁぁぁぁッッ!?」

 

 私は陰口を叩いている連中の前まで瞬歩で移動し、その中の一人の首根っこを掴む。

 私の顔は笑顔だが、心の中には阿修羅が巣食っている。

 

「あ、ごめん。その名前広めたの私かも」

「椿さん……あなたとは一度、深く話し合う必要がありそうです」

「いやだって、リノちゃんのステ振りってさぁ……」

「パワーこそ正義。これは揺ぎ無い事実です」

 

 椿も会話の内容を把握していたようだ。獣人だし耳が良いのだろう。

 ともかく、これは由々しき事態だ。誤解を解いておかねばなるまい。

 私は、首根っこを掴まれてうろたえている真っ黒ローブの魔法使いに優しく語り掛ける。

 

「あの、私は結構知的派なんですよ? こう見えて動植物の知識には自信があるんです。噂に惑わされてはいけません」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべ、物腰も柔らかく……フ、私も丸くなったものだ。こんなフニャチン野郎共に優しくするなんて。

 

「ひぃぃぃ……顔が怖い」

「ちょっと待てコラ。顔は可愛いだろ、顔は」

 

 私の笑顔は一瞬にして般若へと変貌を遂げた。私の憤怒に恐れをなした阿修羅が私の心の中から裸足で逃げていく。

 真っ黒ローブの魔法使いは、私の怒りの波動を受けて泡を吹き気絶した。

 

「うわ、ウッドゲートがやられたぞ!」

「やべぇ、逃げろ!」

「た、助けてくれーッッ」

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 情けない声を上げながら逃げていく男たち。おい待て。その対応はさすがの私も傷つくぞ。私の鋼のメンタルも、そんな強靭な攻撃を受ければ砕け散ってしまうぞ。

 

 私はやや涙目になりながら手にしたゴミをポイ捨てし、後方にいるスパーク達に声をかけた。

 

「ちょ、ねぇ。私って可愛いですよね?」

「ハハッ、ご冗談を」

 

 私はスパークの顎に強烈なアッパーカットをお見舞いし、スパークをお星様に変えた。

 

「スパークの戯言は置いといて……リノさんは可愛らしいと思いますよ。(荒んだ表情で暴言さえ吐かなければ)」

「そうだね。親しみやすい雰囲気だし、結構男の人にモテるんじゃないかなー?(暴力さえ振るわなければ)」

 

 ユーレカと猫にゃんの女性陣が私にフォローを入れてくれる。無神経な男の言葉などに耳を傾ける必要はない。私は耳障りの良い言葉だけを聞いて生きていきたいのだ。

 

「そうですよね、私は可愛いですよね。なんか変な心の声とか聞こえてきたような気もするけど気のせいですよね」

「何を言っているんですか、心の声なんて聞こえるわけ無いじゃないですか」

「リノちゃんって時々変な事を言うよねー」

 

 そう言って笑いあう私達。

 ああ良かった。私の感性がおかしいわけではないらしい。安心した。

 

 

 と、ポーンという効果音が辺りに響き渡る。

 新たな参加者が加わった合図だ。入り口の方に目を向けると、似たような装備をつけた連中がぞろぞろと無秩序に広がりながら歩いてくるのが見えた。人数多いな、10人か。

 

「お、それなりに強そうなのもいるじゃん」

「ま、俺達に対抗できるレベルとも思えんが……歯ごたえが全く無いのもつまらないし、良かったな」

「女の子キャラ多いなー、いいなー大会が終わったら俺達と一緒に遊ばない? 一流プレイヤーの俺達が体の動かし方をじっくり見てあげるよ」

 

 控え室に入ってきた生ゴミ達が、私達を見て嘲笑交じりの下卑た声をあげながら近寄ってくる。

 なんだお前ら、揃いも揃って牛の角みたいなのがついた変な兜をかぶりやがって。

 私が兜に目をやっていると、「ああ、これ? これは一流の対人戦プレイヤーの証みたいなもんさ。一定人数以上のプレイヤーを倒して魂の欠片を集めたら貰えるんだ」とか抜かしてきた。

 うーん、こいつらが強いとはとても思えないんだけど。なんか歩き方からして弱そうなのだ。それに本物の対人戦一流プレイヤー集団であるマスターストーカー達がそんな装備しているのなんて見たこと無いぞ。

 

 連中を見た周囲の人間が、苛立ちを隠さず舌打ちをする。中にはそのまま外に出て行くパーティまでいた。

 彼らの会話を盗み聞き(いや、勝手に聞こえちゃっただけだからね?)してみると、どうやらこの生ゴミ共は初心者向けPvP大会に入り浸っている連中らしい。レベルキャップ解放ポイントをゲットしたくてこの大会に参加している連中からは蛇蝎のごとく嫌われているようだ。そりゃそうだ、初心者ばかり狙って狩るような連中が好まれるはずがない。

 

 近寄ってくる連中に対し一歩前に出たクーが、一流の初心者キラー(笑)連中に相対する。

 

「あいにく私達は忙しい。すまないが、遊ぶのはこの大会の中でだけにしてくれ……ああでも、本当に私達に勝てたのなら少しぐらいは話を聞くのもいいかもしれないな」

 

 クーが私の方をチラリと見やりながら生ゴミ共に答える。

 え、なにその視線。もしかして私にこいつらを蹴散らせとおっしゃってる?

 

「ひょう! いいね、面白くなってきた。その言葉忘れるなよっ」

 

 指をパチンと鳴らして変な奇声を上げる生ゴミ。

 ひょうって何だよ、変な奇声に豹の名を使うなんて失礼だ。お前らの鳴き声はせいぜいチワワぐらいがお似合いだよ。ほら言ってみろよ、「チワワ!」って。あ、これもやっぱ可愛いチワワの名を汚す事になるな。やっぱり却下だ。

 

 

 

 そうこうしている内に、大会の開始時間になった。

 空中に表示されているカウントが0になった瞬間私達はパーティ個別の控え室に移動し、装備を戦闘用のものに付け替えつつ作戦の最終確認を行う。最大のライバルはやはりあの生ゴミ連中だろう。汚物にも劣る悪臭を感じる連中に近寄りたくなど無いが、やむおえまい。

 クーは基本的に幻影スキルを使っての援護だけを行う予定だったが、あの生ゴミ連中に負けそうになった時だけは参戦してもらえる事になった。これは、ユーレカからのお願いだ。ユーレカも彼らの噂は聞いていたらしく、「彼らを懲らしめてあげてください!」と嘆願していた。一度負けたぐらいで懲りる連中ではないと私は思ったが、少なくとも私の心はスカッとするので私もその意見に賛同した。

 

 

 

 結論から言うと、大会には優勝した。

 残念ながら、私は生ゴミ連中を蹴散らす事が出来なかったが……うごご、クー様のお手を煩わせてしまった。つまり、ある意味試験には不合格である。また特訓メニューをこなさなくてはならない。

 

 おのれ、あの生ゴミ達さえ参加してこなければこんな事にならなかったのに。

 人数が同じだったら押される事なんて無かっただろう。1対1なら、圧倒的にレベルが下の私にすら競り負けていたのだ。

 あああ、あの変な兜の角をあいつらの鼻の穴にねじ込んでやりたい。ほげぇぇぇぇって言わせてやりたい。

 一流の対人戦プレイヤー(笑)

 

 

 まぁいい。クーに蹴散らされて「ほげぇぇぇぇっ!」って言ってる連中を見るのは楽しかったからな。

 連中は、クーが出張ってきたらあっさり儚い命を散らした。

 クーの間合いに入った奴は、前衛だろうが後衛だろうが3対1だろうがお構いなしに蜂の巣にされるのである。

 なにそれ怖い。

 

「まぁ、クーちゃんを知らない時点でPvP暦が短いのは明らかだったけどね。とはいえ向こうの方が人数多かったし、押されるのもしょうがなかったんじゃないかな?」

「……まぁ、そうかもしれないな」

 

 おお、椿からの援護射撃だ。椿の言葉にクーの心もグラグラと揺れている。いいぞ、もっとだ。もっと援護を! もう少しでノックアウトできるぞ!

 辛い特訓をしなくとも、目先のレベルUPを優先すればもっと簡単にレベルは上がるのだ。

 

「でも、どっちにしろあんな連中ぐらいは蹴散らせるようにならないと次に繋がらない。レベル80以降のレベルキャップ解放は難度が高いからな」

 

 あ、説得無理だこれ。レベルを上げるために必要な事に対してクーが妥協するはずがない。レベル80は最低ラインなので、もう少し先まで見据えて私は特訓しているのだ。

 

 

 以後、私は定期的にいろんな種類のPvP大会に参加する事になった。大規模戦闘の動きを学ぶため、マスターストーカーにお願いしてGvGに加えてもらったこともある。

 何度も参加するうちにすっかり対人戦に慣れた私は、自分流の戦い方を身に付け始めていた。

 

 私のパンチは強力だが、相手が吹っ飛んでしまうため敵を仕留め切れない場面が多い。邪魔な前衛を排除するのには向いているが、後衛を仕留めるためには別の手段が必要だ。

 そう思った私は、相手の攻撃を掻い潜って敵陣に突入。そして圧倒的パワーで相手をじっくり捻り潰す戦術を用い始めた。

 敵陣の中でアイアンクローみたいな攻撃をしていたら周りから攻撃されてしまうため、私は掴んだ相手を盾にする術を学んだ。そして敵のHPがゼロになったらポイッと放り投げ、次なる獲物に再び組み付くのだ。

 

 

 理由は全くわからないが私の戦い方は目立ちに目立ち、脳筋王リノの名がサーバー中に広まる結果となった。

 

 なぜだ、解せぬ。

 

 

 

 

 

■まさかの結末

 

 

「この扉の先がボスの間か」

 

 剣と盾を握る手に力を込め、スパークは息を呑んだ。

 額から汗が吹き出ているような錯覚を覚え、剣を握ったまま袖で額を拭う。ゲームなのだから汗をかく事なんて無いというのに。 ここに来るまでに長い螺旋階段を登ってきたのも影響しているかもしれない。実際の肉体的疲労はなくとも、階段を登っていると疲れてくるような錯覚を覚えるものだ。

 

「ボスって言っても、ルベルの亡霊みたいなとんでもボスじゃないからな。緊張しすぎるなよ」

 

 スパークの緊張を見て取ったアチャ彦が、落ち着けと声を掛ける。

 だがそういうアチャ彦自身も若干緊張しているようだった。

 自身の緊張を感じたアチャ彦は、少しでも落ち着くために会話を続ける。

 

「ここのボスは、確か……お坊さんのアンデッドだっけか?」

「即身仏みたいなもんか。お坊さんだから、ビームとか式神で攻撃してくるのかな」

「スパークの抱いているお坊さん像はたぶん間違ってると思う」

 

 スパークのお馬鹿な発言にすかさず突っ込みを入れるユーレカ。

 いつもの会話のテンポに、アチャ彦は緊張が若干ほぐれていくのを感じた。

 続いて猫にゃんがスパークに突っ込みを入れ始める。

 

「スパーク、どこでそんな間違った知識を仕入れてきたの?」

「いや、他のゲームとかで……あれ、お坊さんってビーム撃たなかったっけ?」

「スパークが何を言っているのか判らない。式神のほうは何と取り違えているのかわかるけど」

「ええー、絶対お坊さんビーム撃つって」

 

 猫にゃんの言葉にもスパークは持論を曲げなかった。お坊さんはビームを撃つ。間違いない。

 

「ま、それは蓋を開けてみてのお楽しみだ……よし、扉を開けるぞ!」

 

 アチャ彦が思い切って扉を開ける。

 扉の向こうは光で溢れているようで、扉の隙間からは光が差し込んできた。

 扉の先は広間になっており、その中央にはお坊さんの格好をした青白いアンデッドが座禅を組んでいた。なんだか間抜けだ。

 

「来たか、欲に目がくらんだ亡者どもめ。私の宝を奪う気だな!」

 

 座ったまま、お坊さんがスパーク達に憤怒の叫びをぶつける。

 その目は見開かれ充血し、アンデッドらしからぬ生気を放っている。激おこぷんぷん丸であった。

 

「いや、俺達は物見の塔を不法占拠してるアンデッドを倒してくれって言われただけだけど」

「亡者に亡者といわれたでござる」

「私の宝って……ものすごく世俗的なお坊さんだね」

「……お坊さんかな、これ」

「問答無用! きええええええええッッ!」

 

 お坊さんが両の手で三角形を形作ると、そこから光の奔流がほとばしる。

 あまりに唐突だったため、スパークはその攻撃を防ぐ事ができなかった。光はアチャ彦と猫にゃんに直撃。

 後衛であるアチャ彦と猫にゃんのHPはあっという間に削られ、危険域まで低下する。あと一撃でも喰らえば死んでしまうだろう。

 

「痛ぇ!? おい、一撃で瀕死だぞ!」

「なによ、小物っぽかったのに滅茶苦茶強いじゃない!」

「ふ、二人とも下がって。すぐ回復するからっ」

「ほら、やっぱビーム撃つじゃん。今のビームだろ絶対」

「んな事言ってる場合かっ」

「待ぁぁぁてぇぇぇ、逃がさんぞぉぉぉッッ!!」

「「ぎゃあああああああああッッ!!」」

 

 突然のピンチ、あとお坊さんの怖い顔に恐れをなしたスパーク達は逃走を開始する。

 扉を超えた所で一息つこうとしたが、お坊さんは扉を超えてもなお追いかけてきた。

 

「ちょ、ボスがボス部屋の外まで追いかけてくるのかよっ!?」

 

 スパーク達は螺旋階段を駆け下りる。逃走しつつもアチャ彦と猫にゃんに回復魔法をかけるユーレカだが、回復にはまだまだ時間が掛かりそうだ。そもそもユーレカは回復が専門ではない。人形にダメージを移し変える事で被害を防ぐタイプのヒーラーなのだ。

 

「ちょ、押すなって!」

「そんな事いわれても、すぐ後ろまでキモイアンデッドが来てるからぁっ」

「落ち着け、脚を踏み外したら即死だぞっ」

「きゃー! きゃー!」

 

 狭い螺旋階段を四人で固まって駆け下りているため四人は寿司詰め状態だ。一列になって逃げたほうが効率はいいのだが、焦った四人はそれができていない。隊列は一列にならず、お互いの体が邪魔で走り辛い状態となっていた。

 更に、いつもの癖でスパークを先頭にしたのもまずかった。重い鎧を身に着けたスパークの移動速度は鈍い。撤退戦では、耐久力の高いスパークか移動速度の速いアチャ彦を最後方に配置すべきだった。

 追いついてきたボスが、最後方のユーレカに手を伸ばしてくる。

 

「ひ……えいっ!」

 

 それを見たユーレカは懐からアンデッド人形を取り出し、その足をボキリと折る。

 するとお坊さんの足もグキリと折れ曲がり、お坊さんは体勢を崩した。

 全力疾走している最中に体勢を崩したため、お坊さんはそのまま転倒を余儀なくされる。

 

「え」

 

 お坊さんは万歳の姿勢のまま高速で階段を滑り落ちていき、スパーク達の足元をすり抜けてあっという間に四人を追い越していく。そしてそのまま壁に激突し、駒のようにクルクル回りながら空中にその身を投げ出した。

 ここは物見の塔。塔の中には内壁に設置された螺旋階段と窓しか存在しない。塔の中央部分には当然、何も存在していなかった。

 ここから落下したら地面まで一直線だ。

 

 

 クルクル回りながら落下していくお坊さんを呆然と見送ったスパーク達は、恐る恐る階段の下を覗き込んだ。

 遥か彼方の地面に倒れているお坊さんは、ピクリとも動かない。

 間違いなく、死んでいた。

 

「ええー……まさかの飛び降り解脱。さすがはお坊さんだぜ」

「スパークが抱いてるお坊さんのイメージは絶対間違ってると思う」

「いや合ってただろ! ビーム撃ってきただろ!」

「これで、クエストクリア……なの?」

「この倒し方は、さすがに予想外だった……」

 

 彼らの二度目のボス戦。

 初めて彼らだけの力で戦うボス戦は、こうして終結した。

 

 

 

 

 

■そっちかよ!

 

 

「あ、佐藤さーん!」

 

 佐藤と呼ばれた男が首都の正門から街に入ろうとすると、すれ違いざまに声を掛けてくる人がいた。

 見ると、サブキャラで何度かパーティを組んだ事のある女性だった。他にも数名の武装した人達と一緒である所を見るに、これから狩りに出かけるようだ。

 

「私達、今から南の洞窟の攻略に向かうんです。よかったら一緒に行きませんか?」

「いいですよー。サブキャラならちょうどレベルも合うし」

 

 ちょうど暇をしていた佐藤は、女性の言葉に頷く。

 どうせメインキャラのレベルは現在頭打ちしているのだ。サブキャラ育成に勤しんでも良いだろう。

 

「よかった、正直私達だけじゃクリアできるかどうか不安だったんですよね」

「うんうん。レベル的な意味じゃなくて、道に迷う的な意味で不安だった」

「私ら、あそこ行くの初めてだからな」

 

 仲の良さそうなパーティだった。最初に声をかけてきた女性以外は初めて見る面子だったが、これなら連携に支障をきたす事も無いだろう。支援職は不慣れであるため、こういった声を掛け合える面子はありがたいと佐藤は思った。リアル女の子っぽい人達ばかりの中に混じるのは若干気後れするものはあるが……もしかして、リアルの友人達なのだろうか。

 

「では、サブキャラにチェンジしますね。しばしお待ちを」

 

 そう言い残して佐藤の姿が掻き消える。

 ギルドD.O.A内でも指折りの凄腕アサシンである「週末の佐藤」から、サブキャラの詩人「月末の佐藤」にキャラチェンジをしたのだ。

 二分ほどして佐藤は彼女達に合流し、南の洞窟へと出発した。

 

 

 

 

 

「いやー、結構沢山稼げたね」

「こんなに何個もレアアイテムが出るなんて初めてじゃない?」

「そうだね、私達超ラッキーだよー」

 

 狩りが終って首都に戻ってきた皆が、今日の稼ぎについて話し合う。

 レアアイテムなんて、数日に一つも出ればいい方だ。今日の狩りではそのレアアイテムを何個もゲットできた。ほくほく顔になるのも仕方の無い事だった。

 

「あーでも、私は魔法系のキャラ持ってないからこのアイテムは使わないかなぁ」

 

 ただ、レアアイテムをゲットできても自身の持つキャラに合ったものが出るとは限らない。

 レアではあるが、使い道の無いアイテムをゲットする事なんて良くある事だ。

 

「誰かこれ使える人いる?」

「私も使えないなぁ」

「うーん、私は使えなくはないけど……ステータスタイプが合わないかな」

 

 しかもどうやら、この場にいる全員が使えないアイテムのようだ。

 仲間内で装備を貸し借りするほど仲のいいパーティのようだが、それでも使える人はいないらしい。

 それを見かねた佐藤が提案をする。

 

「なら、相場相当の金額でよければ私が買い取りますよ~。どうします?」

「え、マジで? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな」

 

 マーケットでアイテムの売り買いはできるが、売れるまでには時間が掛かる。今回のように使用キャラが限定されるアイテムであれば、下手をすれば捌くのに一週間以上かかってもおかしくない。

 低レベルの彼女達は正直できるだけ早くお金が欲しいだろう。なんせ、揃えなければならない装備が山ほどある。

 ベテランであり所持金に余裕のある佐藤は、不要なアイテムを買い取ってあげる事にした。

 自分も初心者だった頃はベテラン達に同様の事をしてもらった事がある。ある意味、恩返しのようなものだ。

 

「お金は商人キャラが集中して持ってるので、今から商人持ってきますね」

「よろしくお願いします!」

「あ、商人キャラの名前って、やっぱり年末の佐藤ですか~?」

「おしい! ちょっと違いますね。じゃ、キャラチェンジしてきます」

 

 そう言い残して、佐藤の姿は消え去った。

 

 

「おしい、か。じゃあ年度末の佐藤とかかな?」

「いや、世紀末の佐藤かも。それならモンクにしそうだけど」

「意表をついて、毎日が佐藤という線もある」

「なんか、やな名前だねそれ」

 

 佐藤が戻ってくるまでの間、彼女達は佐藤のキャラネームについてあーだこーだと予想した。

 正解した人に商品まで出そうと言う話になり、彼女達は真剣に佐藤がつけそうな名前に頭を悩ませた。

 

 

 

「おまたせー」

 

 やがて、佐藤が大荷物を抱えた商人の姿になって戻って来る。

 その瞬間彼女達は佐藤の姿をガン見して、そのキャラネームを確認した。

 

 果たしてその名前は。

 

 

 年末の加藤。

 

 

「「名前変わってんじゃねぇか!」」

 

 

 彼女達の心は一つになった。

 

 

 

 

 

■ブリーフの消えた日

 

 

 ウィルヘイムオンラインにおいて、男性が女キャラを使う、あるいは女性が男キャラを使うのは珍しい事ではない。

 だが、無制限にそれが行えるわけでは無い。ゲーム本体とは関係のない所で制限が掛かっているのだ。

 

 電子ドラッグ抑止や18禁的なゲーム規制のため、VRゲームをプレイするには戸籍とアカウントの紐付けが必要となっている。これは国の制度であり、管理も国が行っている。また同様に、ホルモンバランス等に悪影響を与える可能性を排除しきれないとして、リアルなVRゲームでは異性を選択できない制度も作られていた。

 とはいえ、戸籍は世帯単位の登録。家族暮らしであれば、ほとんどの世帯は男性/女性ともに選択可能となる。それに最初の登録さえ乗り越えれば、アカウントの貸し借りもできなくはない。異性を選択できない制度については半ば形骸化しており、実質ほとんど意味の無いものとなっていた。

 

 そう、家族暮らしであれば。

 

 

 

「今日集まってもらったのは他でもない」

 

 ギルドホールの壇上に立った男が、集会に集まった男たちに語りかける。

 男たちはみんな同様の覆面を被っており、無言で壇上のギルドマスターの演説を聞いている。部屋には異様な雰囲気が漂っていた。

 

「我々には下着の着用が義務付けられている。これは理解しているな」

 

 ウィルヘイムオンラインのアバターは、装備を全て外しても下着だけは脱げない仕様となっていた。18禁ゲームではないため、当然の措置だ。

 

「我々は、その常識を打ち砕く」

 

 ギルドマスターの言葉に、沈黙を保っていた周囲の者達がうろたえだす。

 今、この男はなんと言った?

 

「ま、まさか……お前は、この世界に反逆するというのか!?」

「そうだ。私は世界に反逆する。この世界から下着を消滅させてみせる!」

 

 ギルドマスターの堂々とした態度に愕然とする周囲の面々。

 ギルドマスターの後ろには、後光が差していた。ギルドマスターは輝いていた。後ろにこっそり仕掛けられた照明に照らされて、輝いていた。

 

「お前達は見たくないか? ロリ獣耳っ娘の裸を。ばいんばいんのサキュパスの裸を。見てみたいとは、思わないか?」

「し、しかしギルドマスター! それは不可能です。下着の透過は不可能だし、肌と下着の色を近い色に選択する事すらできない仕様なんですよ!」

「ぬるいッッ!!」

 

 ギルドマスターがカッと目を見開くと、その体は赤く染まっていった。

 スキルを発動したのだ。バーサーク。常時HPが減少していく代わりに強力な攻撃力を得られる、狂戦士化スキル。

 

 その瞬間、周囲の者達は雷に打たれたようにその動きを止めた。直感的に、男の意図を理解したのだ。

 

「ま、まさか……スキルによる色の変化を利用して?」

「然り! 私は、最高の配色パターンの適合をすでに終えているッッ」

「で、では……そのキャラの肌の色が変なのは、まさか」

「そう。そうだ。このキャラは、今ここで私の研究成果を見せるために用意したもの」

「おお……!」

「素晴らしいっ」

「マスター、天才の名は貴方にこそふさわしい」

 

 男はその身に着けた衣服を脱ぎ捨て、ブリーフ一丁の姿となった。

 青い肌に、肌色のブリーフ。奇妙な組み合わせの配色だった。

 

「活目して、しかと見よ。これが私の、真の姿だ……」

 

 男が複数のスキルを使用する。

 すると、見る見るうちに男の肌の色が肌色に変わっていく。

 やがて肌の色はブリーフと完全に一致し、男はマッパマンと化した。

 

「すごい! 本当に裸に見えるぞっ」

「ブラボー! ブラーーーボーーーー!」

 

 周囲の者達が喝采を上げる。

 これならば、獣耳っ娘やサキュパスの裸を拝む事も可能……!

 

 

 だが集団の最後方にいた男がぽつりと呟いた言葉により、熱気の篭った周囲の空気は一瞬にして凍りついた。

 

「でも僕達、女性キャラ作れないよね……」

 

 男達は、とあるギルドに所属する面々だ。

 ギルド名は"一人暮らしの童帝達が可愛い女の子達を遠くから愛でる会"。

 つまりはこのギルドに所属する全員が一人暮らしの男性であり、女性キャラを作ることが出来ない事を意味していた。

 

 

「……まだだ。まだ、手は残っている」

「何? ここから起死回生の一手があるというのか、マスター!?」

 

 ギルドマスターは両の手を大きく広げ、天にかざした。その仕草に特に意味はないが、なんだかそんな気分だった。

 

「我らがこの手法を広めればいい。さすれば我らの思想に賛同した者達が、女の子キャラでこの手法を活用してくれるだろう」

「おお、たしかに!」

 

 賛同の声はギルドホール中に広がり、ギルドメンバー全員が一致団結してマッパマン達を作成した。

 そしてマッパ状態で首都界隈を練り歩く。歓声と悲鳴と怒号が飛び交う中、新たな世界の可能性をこの世界の人々に伝道して回った。

 阿鼻叫喚の地獄絵図だ。「へ、へんたいだーっ!」といった罵倒や生ゴミまでもが投げ掛けられるが、男達にとってそれはご褒美だった。恍惚の表情で、男達はその侮蔑を受け入れた。

 

 これは、世界にとっては小さな一歩かもしれない。

 だが、俺達にとっては大きな一歩だ。だれか一人でも俺達に続く者達が現れたのならば、俺達が生きた意味はある。やがてその繋がりは大きな流れとなり、世界を覆いつくすだろう。

 ギルドマスターは、感極まり涙を流しながら次代の若者達の活躍を願った。

 

 

 

 マッパ集団の噂はたちまち話題となり、ネットの海の中を駆け巡った。

 

 マッパ集団達は、変態勇者と称えられた。

 

 後の人々は今日この日を、ブリーフの消えた日と呼んだ。

 

 

 

 その翌日。

 

 ゲームにパッチが当たり、マッパマンになることはできなくなった。

 

 

 

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