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傍観者ではいられない!  作者: ぽぽりんご
第一章 リー・リノ編(わいわいがやがや風味)
13/51

第12話 私は、彼女の名前を口にした

 

 

「さぁ、ここがエウロパ最下層だっ! ついに来た!」

 

 椿がやけくそ気味に叫ぶ。

 強力なライトの魔法を使っても奥が見通せないほど広い空間。まるでどこまでも続いているような。地獄の底まで続いていてもおかしくないような、そんな空間だ。所々には石柱がそびえ立ち、意外と死角が多い。それがまた恐怖心をかきたてる。

 数歩も進むと石柱の影からスライムやら色んな動物を組み合わせたようなキメラやらが襲いかかってくるが、冒険者達の反撃を受けてあっさり消滅した。弱っ!

 

「この辺の敵は、意外と弱いんだな」

「そうだね。いろんな名前がついてるのが気になるけど」

 

 先頭を進む二人が、周囲を警戒しながらゆっくりと進みながら言う。

 ここに出てくる魔物はキメラとスライムだけのようだ。なにか特殊な性質を持っているわけでもなく、近づいてきて普通に殴りかかってくるだけのように見受けられる。数々の魔物図鑑を読破した私ですら知らない魔物なので、油断は禁物だろうけど。

 妙な点としては、名前だろうか。大抵の魔物は種族名しか表示されないが、ここの魔物はそれぞれに名前がついている。意味がわからない。

 

「ここの敵はほとんど経験値をくれないんだ。ドロップアイテムもないし、一回倒したら当分の間リポップもしないし。だから、普段はだーれもここに来ないよ」

「なんだそれ。このフィールド作った意味あるのか?」

「未実装なんじゃないの? 今後のアップデートで何かあるとか……」

 

 椿の説明に、私の傍に居たスパークとユーレカが反応した。

 未実装とは何だと私が質問すると、まだイベントが作られていない場所の事を指すらしい。うん、わからない。まぁいいけど。

 椿やクーに聞けば私の事情を踏まえた上での解答をくれるかとも思ったが、二人はその質問に答えたくなさそうな気配を見せたので(私に見抜けぬと思ってか!)、私は二人に質問するのをやめた。

 

「特筆すべき事といえば、ここの一番奥に封印の祭壇がある事かな」

「封印の祭壇?」

「魔物を祭壇に押し込むと封印できるんだよ。封印解除もできるらしいけど、そっちの条件はいまいち解明されてないんだ。ふとした拍子に雑魚敵が山のように封印解除される事があるんだけど……たぶん失敗イベントだろうね。封印されているとしたら、きっとボスクラスの敵だろうし」

 

 ボスと聞いてずいっと前に出てきたのはホモ太郎様ご一行だ。ボスには並々ならぬ執着があるらしい。

 

「ボスと聞くと血がたぎるね。一体どんなマッチョが封印されているのか、一体どんな苛烈な攻めをしてくるのか」

「マッチョと一緒にあなたも封印したいです」

「な、何!? マッチョと二人っきりで閉じ込められ、逃げ道がないなんて……素晴らしいじゃないか!」

 

 ホモ太郎ことダグラスは私の口撃にもへこたれない。手ごわい難敵だ。

 なぜ私がホモ太郎と一緒にいるかというと、「イベントフラグが僕を呼んでいる!」だとか言って着いてきたからだ。なんだイベントフラグって。ちなみに、ホモ太郎の仲間達も一緒だ。

 ……あ、また何か抗議の視線が飛んできた気がする。もしかして、ホモ太郎の仲間扱いされるのが嫌なんだろうか。いやまさか、そんな。大切な仲間と一緒にされるのが嫌だなんてあるはずがない。私はこれからも、彼らの事を『ホモ太郎と愉快な仲間達』と呼ぶ事に決めた。

 

「ホモ太郎と愉快な仲間達さん。喉は渇いていませんか? 渇きを潤す物をご用意しましょうか?」

「その呼び方はやめろ。あと嫌な予感がするからその鞄を片付けろ」

 

 いろんなアイテムを収納した鞄に手を突っ込みつつ実際に呼んでみたら、割と良い反応を返してくれた。彼らのことは、これからもホモ達(長いので省略した)と呼ぼう。

 

 

 

 おっと、いけないいけない。

 とっとこホモ太郎ズなんかに関わっている場合じゃない。最終目的地が近いのだ。気を引き締めねば。

 

 私は頬を両手でパンと叩くと、気合を入れた。

 すると私の可愛らしい鉄壁のお腹がクゥと抗議の声を上げた。お腹が減りました。とりあえずパンでも食べるか。

 

 皆が謎キメラに謎スライムを殲滅しているのを眺めつつパンをもしゃもしゃ食べる。食事をしながら奥へ奥へとゆっくり進んでいくと、やがて周りの風景が徐々に様変わりしてきた。

 まず、水晶体が増えてくる。心なしか地面もうっすら発光しているような。最初に私がここに来た時の風景に近づいていっている。

 

 

 そのまま二十分ほども歩いただろうか。

 周囲の風景は、完全に私の記憶と一致していた。

 

 視線の先に見えるは、水晶の柱。

 ゆらゆらと水面のような光を放つ地面。

 視界に広がるのは、大きな地底湖。

 湖の中に浮かぶ祭壇。

 祭壇には水晶が乱反射した光に照らされ、幻想的な雰囲気をかもし出している。

 祭壇へと続く通路。

 祭壇の近くには魔道具っぽい輪っかが転がっている。

 おそらく転移ゲートの関連部品だろう。ゲートは閉じてしまったようだが、あれがあれば元の世界に帰ることはできそうだ。

 

 

 そして、祭壇へと続く通路の前に立ちふさがるは黒い騎士。

 全身甲冑に覆われているため、中の人の性別すら判断がつかない。

 その手には大振りのフランベルジュが握られていた。

 

 

 ええー。

 いや、このまま終わる事は無いとは思ってたけどさー。

 こうも当然のように堂々と居座られるとなぁ。

 

 

 

「あれって敵か? プレイヤー?」

「アイコンの表示がおかしい……よな」

「見たこと無い装備だし、敵なんじゃ?」

 

 疑問の声を上げるスパーク達。

 と、急に黒騎士が動く。わずかに姿勢を低くしたかと思ったら、一息で私達の目の前まで迫っていた。速い。

 

 ガキンと音を立てて黒騎士の攻撃を弾いたのは、クー。黒騎士が動く気配を見せたと同時に前に出てスパーク達を庇った。

 この人、こんな役回りばっかりだな。

 

 弾かれた剣の軌道を曲げて再びクーに剣を振りかざす黒騎士だが、クーは危なげなくその攻撃を捌く。間合いが近すぎて槍で相手をするのは難しいだろうに、クーは槍をくるくる回しつつ柄や石突きの部分を使って器用に立ち回っていた。攻撃を捌く合間に黒騎士に一撃、二撃と攻撃を叩き込む余裕まであるようだ。クーの方が、黒騎士より一枚上手だった。

 

 ガガガガという連続音を鳴り響かせつつ舞い踊る二人に周囲の者は手が出せない。目まぐるしく位置を入れ替えるので、援護できない。

 クーは皆の様子が落ち着いたのを見計らって声を荒げる。

 

「距離を取るから、攻撃をたのむ! ダグラス、おそらく後でお前の力が必要になるから、準備しといてくれ」

「うん? わかったが……こんな高速で動き回る相手を僕が押さえ込めるとは思えないぞ」

「安心しろ。後ででっかくなるから」

「そうか。了解した」

 

 ダグラスの了解の声と共に、クーは黒騎士を蹴り飛ばした。

 直後、矢や魔法が雨あられと黒騎士に襲い掛かり黒騎士の体に大きな傷を残す。あまりに攻撃が集中したせいもあり、爆炎で黒騎士の姿が完全に見えなくなった。

 

「やったか!?」

「……スパーク。フラグを立てるな」

「だから何だよフラグって!」

 

 反響した爆音がわずかにこだまする中、スパークとアチャ彦の声が辺りに響く。

 

 爆炎が晴れると、そこには無傷で佇む黒騎士の姿。先ほどできた傷は、もう無い。

 更には黒騎士の周囲を闇の塊が覆い始める。まるで闇でできた衣のようだった。

 

 

「……ああ、やっぱりお前は。何か関係があるんだな」

 

 クーの小さな呟きが私の耳に入る。私の超人的な耳でなければ聞き取れないであろう程の、小さな声。

 クーの方を見ると、黒騎士を睨むクーの瞳には暗い影が差し込んでいた。

 いつもクールなその表情は壊れ、いろんな感情が混ぜこぜになったような色を浮かべている。クーらしくない態度だ。

 これは、怒り? 悲しみ? それとも、喜びだろうか。なんにせよ、クーの態度は尋常じゃない。

 

 

 クーの異常な態度は気になったが、周囲の冒険者はそれに気付かず次の行動に移っている。

 黒騎士が健在なのを見て取った冒険者達は、再び黒騎士に魔法を浴びせかけた。

 しかし今度は黒騎士にダメージを与える事は敵わない。全ての攻撃が、黒騎士の纏う闇の衣に触れた瞬間はじけ飛んでしまう。

 

「フェイタル・ストライク!」

 

 ホモメンの弓使いが弓を構え、おそらく強力なのであろう攻撃を放つ。

 しかしそれも闇の衣の前では無意味だった。

 一条の光が黒騎士まで伸びはしたが、闇の衣に触れたとたん光を失い、勢いを失い、矢は力なく地面へと落下した。

 ならばと接近戦主体の面子が黒騎士の方に向かっていくが、そもそも接近ができない。闇の衣は、全てを拒絶する強力な障壁なのだろう。

 

 次いで黒騎士の背中が爆発したかのように増殖し、そこから黒い触手が山のように沸いてくる。

 黒騎士に接近していた連中はそれに飲み込まれ、手足を絡め取られ拘束された。中には触手に押しつぶされHPが全損した人も居るようだ。

 

「タワーディフェンス!!」

 

 触手の奔流を食い止めるはダグラス。さすがのダグラスも真正面から全ての触手を受け止める事はできないのか、上方に受け流すように盾を構えている。そのため、後方の仲間を完全に守ることまではできていない。

 だが、闇の衣を纏っていないからであろう。触手の方には攻撃が通じるようだ。ダグラスに弾かれて勢いを失った触手は次から次へと飛んでくる魔法を受け、その殆どを消失させていた。

 

「リノちゃん、下がって!」

 

 椿が焦ったように叫ぶ。

 なんだと思って周囲を見回すと、目の前に黒騎士が立っていた。

 

「……へ?」

 

 あ、そういえば闇の衣のせいで接近できないんだっけ。

 なら、クーは黒騎士の相手をできない。クーが相手をできないということは、黒騎士は自由に動き回れるという事だ。

 

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

 黒騎士の触手に手足を絡め撮られ、私は空中にその身を持ち上げられた。黒い触手が、私の体を締め付ける。

 や、やめろっ! こういうのはもっとグラマラスな女性が担当するものだろう。私の役割ではない!

 抗議の声を上げるが、触手は私の祈りをスルーした。当たり前か。

 誰か助けてくれないかなーと冒険者達の方をチラッと見るが、彼らは闇の衣の攻略に手間取っているようだ。こちらに接近する事もできていない。

 ……あれ、これってまずいんじゃ。

 

 

 そんな事を思い冷や汗をかいていると、突如私を縛り上げていた触手が次々と両断された。

 そして私は何者かに抱きかかえられ、そっと地面へと降ろされる。

 

 私を助けてくれたのは、キラリと光る眼鏡を掛けた黒ずくめの男だった。

 

「ああっ、マスターストーカーだ! マスターストーカーが来てくれたぞ!」

「ストーカーがリノを助けた!」

「さすがはストーカーだ。存在に全く気がつかなかったぜ!」

「僕をその名で呼ぶんじゃない。まるで僕が闇に潜む犯罪者のようじゃないか」

「いや、そう言っているつもりなんだが……」

 

 指で眼鏡をくいっと押し上げ、再びその眼鏡をキラリと光らせるストーカー呼ばわりされている男。

 なんだかよくわからないが、私にとって救いの神のようだ。私はお礼を言うために口を開こうとした。

 

「ひでぶっ」

 

 ストーカーは、黒い騎士にぶん殴られて吹っ飛んでいった。

 そして再び私の体に触手が纏わりつく。

 

 

 ええー!

 なんだよこれ。助けてくれた意味ないじゃん。

 てか、そもそも黒騎士の進撃を止められないのが問題なんだよ。黒騎士をぶっ飛ばせない限り、逃げ出したって何の意味も無いよ。

 

 周囲を見渡すが、状況は先ほどと全く変わっていない。誰も闇の衣を越えてこちら側に来る事ができないため、助けは望めない。触手を斬る事はできるかもしれないが、落ちた先にいるのは黒騎士だ。また拘束されるだけだろう。

 

 もしかしてこれ、自力でなんとかしないといけない?

 いやしかし、私は助けを待つ事しかできないか弱いレベル1の美少女ちゃんだ。私に出来る事があろうはずもない。

 

 

 ……うん? そういえば。さっきルベルを倒したときに、制限が解除されたとかなんとか出てたような。

 もしかして、スキルでも得たのだろうか?

 

 そう思った私はステータスウィンドウを開く。

 すると、確かにそこには見覚えの無いものが存在していた。

 てっきりスキルが増えたのかと思ったが、スキルウィンドウは真っ白なままだ。なぜか種族特性の所に追加されている。

 追加された内容はこうだ。

 

 

 調律の祝福:祝福の効果範囲内から、異物を除外する事ができる。効果範囲と除去できる異物は、レベルに応じて変化する。

 

 

 いや、わかんねぇよ。異物って何だよ。どうやって除外するんだよ。そもそも発動方法がわかんねぇよ。

 私はレベル1だ。スキルも魔法も使ったことがないから、そういった物を使用する感覚が……あれ?

 

 私が自分のレベル欄に目を移すと、そこには12という数字が記載されていた。

 生まれてからの19年間、ずっと1が表示されていたはずなのに。こいつは一体全体どういう事だ。

 

 

 ……そういえば、スパーク達がときおり口にしていた「レベルキャップ」という単語。これって、レベルの制限を表す言葉ではないだろうか。たしか、レベル70からはレベルキャップ解放がきつくなるんだとか。

 先ほどのルベル戦の後、確かに私は「レベルキャップ解放ポイント」とやらを取得した。

 そして今、何をやっても上がらなかった私のレベルが上昇している。

 何がなんだかよくわからないが……レベルキャップ解放ポイントとやらを取得した事で、私を長年苦しめてきた謎のレベル制限が解除された……のか?

 

 

 心がざわつく。私の生き方を縛ってきた鎖が、音を立てて砕け散るのを感じた。

 これってもしかして、今の状況を打破する事ができるのではないだろうか。触手の魔の手から逃れ、闇の衣の内側で踏ん反り返っている黒騎士をぶん殴る事ができるのではないだろうか。

 

 

 今、私に必要なもの。それは何か。

 

 

 それは、パワーだ。単純かつ圧倒的なパワーだ。間違いない。

 

 

 私はステータスウィンドウの操作に意識を集中し、迷うことなくゲインストレングスのレベルをMAXの10まで振った。

 これで、私の力は人類最高峰にまで達した事になる。

 そしてモンクの職業レベルを1レベルまでアップさせる。これで、レベル上昇により得たポイントは全て使い切った。

 

 お次はスキルレベルだ。今まで職業レベルがゼロだったために使い道の無かったスキルポイントを、モンクスキルの一つ『フィジカルバースト』に割り振る。このスキルは、使用中に他のスキルが使えなくなる代わりにパワーを大きく増大させるスキルだ。

 これで私にパワーで勝てるものなどほとんどいない! 私は今、無敵のパワーを手に入れたのだーッ!!

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!」

 

 私は両の腕に力を込め、私を拘束していた触手を引きちぎる。

 地面に落下しつつ触手の一本を掴んだ私は、地面を踏みしめると同時にその触手を背に担いで思い切り投げ飛ばした。

 触手と一緒に、黒騎士も空中に放り出される。

 

 ぬふふ。見たか我が力を。この力があれば、誰にも負けるはずがなーい!

 

 飛んでいく黒騎士が私の方に闇の衣を伸ばしてきて包み込もうとしてきたが、私がパンチを繰り出すと闇っぽい塊はあっさり霧散した。ふははは、脆い脆い。私を拘束したければ、この三倍は持って来い!

 そんな事を思っていたら、先ほど私を拘束した時の十倍ぐらいの触手が私に向かってきた。素直でピュアでラブリーな私は、黒騎士をぶん殴るのを中止して脱兎のごとく逃げ出した。

 

 って、逃げ切れない! 速いぞ触手。というか私が遅いのか。私のアジリティは初期値のままだった。しまった、パワーだけで全てが解決できるとは限らない! やはり時代は速さだったか。力での解決は、悲しみしか残さない。

 

 一瞬で再び絶体絶命のピンチに逆戻りかと思ったが、私の周辺を覆う触手に幾条もの煌きが走ったかと思うと触手はバラバラに切り刻まれていた。

 そして私の首根っこを誰かが掴み取る。私を抱きかかえた誰かは私が走るのとは比べものにならない速度で走り、仲間の元へと私を連れて行ってくれた。横目でチラリと覗くと、私を抱えているのはクーだった。

 やった、無敵のクー様に保護してもらった。これで安心だ。

 

「リノ、さっきの攻撃は何だ。闇を払ったよな?」

「……え、そんな事しましたっけ?」

 

 クーの唐突な質問に、私は素っ頓狂な声で答える。

 あ、確かに闇の塊を蹴散らしたな。勢いでやったらなんとなくできたんだけど。

 

「もう一度できるか? 出来るなら本体にアレを食らわせてくれ。本体の闇を全て取り払ったなら、おそらくアイツを拘束できる」

「……ぱーどぅん? 私に、敵の本体の所まで突撃しろというのですか?」

 

 こ、この野郎。クールぶっているが、こいつはとんだドSだ。か弱い私に特攻をかませとおっしゃる。

 

「敵の攻撃は全て私が防ぐ。お前には傷一つ付けさせない。頼む、お前だけが頼りなんだ」

「……ふふーん? そこまで言われちゃあ、仕方ないですね? 私を頼りにされたら、答えないわけにはいかないですね。クー、私をしっかり守ってくださいね」

 

 クールビューティな、私の理想に近い冒険者様から頼まれては仕方が無い。やってやろうではないか。

 思えば、こんな形で頼られるなんて久しぶりだ。子供の頃、ガキ大将に苛められていた親友を助けた時以来だろうか。なつかしい。ちょとぐらい調子に乗ってもいいよね?

 

「わたくしもリノ殿を守りますぞ!」

「ありがとうございます。では、敵の前をうろちょろして敵に叩き潰されてきてください。捨て駒と言う奴ですね」

「クー殿との扱いの差がひどい!?」

 

 久しぶりに出てきた豚野郎に、私はそっけない言葉を返す。

 見てたぞ、豚よ。真っ先に黒騎士に突撃して行っていの一番に触手に捕らえられ、恍惚の表情で触手に弄ばれるお前の姿を私は見ていたっ。この卑しい豚め。

 

 

 

「皆、攻撃を私に向かってくる触手に集中してくれ! リノなら、あの闇の衣を何とかできるかもしれない!」

 

 クーの言葉に従い、ばらばらだった攻撃意識が集中する。こうなった冒険者は手ごわい。さすがの黒騎士も受けに回らざるをえないようだ。攻撃に回してた触手を防御に戻し、そして攻撃を喰らって蹴散らされる。悪循環だった。

 私は鬼神のごとき活躍を見せるクーの後ろに守られながら、黒騎士に接近する。やがてクーが闇の衣にぶちあたると、私はクーの脇から闇の衣に強烈なパンチをお見舞いした。

 闇に触れた瞬間、私の頭の中に膨大な情報が入ってくる。

 先ほどは無意識のうちに全部まとめて振り払ったが、どうやら除去する対象を選択できるようだ。これが調律の祝福とやらの効果なのだろうか?

 

 私は情報の海の中に意識を漂わせる。この闇は、この世界のものではない。故にこの世界のシステムによる攻撃は効果が無い。異物だ。除去の対象だ。

 闇の発生源は、黒騎士の中に存在する黒い宝玉。異物を発生させる元凶が異物でないはずがない。闇の衣を発生させるのとは別に、人の意識を宝玉の中に閉じ込め傀儡にする効果も持っているようだ。これも、除去の対象。

 そして、黒騎士自身。除去は可能。彼女は、この世界の人間ではない。

 

 

 ……彼女? 人間?

 

 

 私は、黒騎士と目を合わせた。闇に覆われ、その目を見通すことはできない。


 だが、なぜだか。

 私は、この騎士を良く知っているような気がした。

 そんなはず、ないのに。私が親しくしている人間なんて十人にも満たない。おまけにこれだけの剣技を持つ者となると、一人しか思い浮かばなかった。

 

 

 ――ああ、嘘だ。

 あなたは、とても強くて。誰にも負けなくて。なのに、どうして?

 

 

「……レベッカ?」

 

 

 私は、彼女の名前を口にした。

 

 

 

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