深晴と俊輔
出会い頭でぶつかってしまった。廊下の曲がり角、目の前で転んだ篠崎を引き起こして謝る。
「ごめん、怪我とか大丈夫?」
慌てて言うと、篠崎も謝りながら笑った。
「ううん、こっちこそごめんね」
おっとりとした笑顔にほっとしつつ埃を払って行こうとする。それを篠崎が引き止めた。俊輔が足を止めて振り返ると、駆け寄ってきた篠崎とガツンとぶつかる。
「い、たい……」
「ごめん……」
篠原は謝ると手を差し出した。
「これ、遠野くんが落としたやつ?」
定期入れだった。無難な柄だったが、ポケットを探ってみるとまさに定期入れだけがない。
「あ、俺の定期みたい。ありがとう」
受け取ってポケットに突っ込む。篠崎はまだスカーフをいじっていた。
「……まだ何か?」
俊輔が訊くと、篠崎ははっとしたように俊輔を見上げた。
「えっと、その……」
狼狽えながら篠崎は思い切ったように言った。
「今度、どこか遊びに行かない?」
「……え?」
俊輔はぽかんとしながら聞き返した。隣にいた友達がぴたりと固まっている。
「いや、別にいいけど……なんでまた急に」
訊くと、篠崎ははっとしたように飛び上がりしどろもどろになった。
「その、えと、この間勉強教えてもらって赤点回避して、それで進級も大丈夫そうだからお礼をしようと思ったんだけど、なんにも思いつかなかったから、その」
顔を赤くして黙り込んだ篠崎を見て、隣の友達が俊輔を小突いた。にやにやと笑うその友達を押し返しながら首を傾げる。
「分かった、いいよ。今週の土曜日は暇?――あ」
予鈴が鳴った。俊輔は選択の移動教室に向かいながら手を振った。
「あとでまた連絡する」
「うんっ」
慌てて移動教室に向かう篠崎を見やってから友達に目を戻す。いまだにやにやと笑ったままだった。俊輔にはその理由が分からない。
その後メールでいくつかやりとりをして、篠崎さんが行きたいと言ったケーキ屋に行くことになった。男同士では絶対に行かないタイプの店だったから少し緊張したが、意外にも中には男性客も多く、篠崎の勢いもあって躊躇なく入ることができた。ケーキを食べながら、篠崎と会話する。
「でもさ、生まれ変わりっていうのは、私あると思う」
篠崎が生真面目な顔で言って、俊輔はちらっと笑う。
「運命の人が生まれ変わって?出た、お花畑発言」
篠原は苦笑した。
「ねえっ、お花畑お花畑って――」
言いかけてふとやめる。それから顎に手を当てて考え込んだ。
「言われたのは初めてだったっけ……?あれ、遠野くんに散々からかわれた記憶あるんだけど……」
俊輔も何か引っかかる感じがあって考える。記憶をたどっても、篠崎と関わったのはこの間の一回きりで、その時には頼まれて教えただけ、特にふざけるような会話はしてないはずだった。
「でも俺も、散々からかった覚えがある、んだよね」
篠崎が俊輔を見る。
「なんだろね……?」
それからたびたび、この会話は繰り返されたが、俊輔も篠崎も具体的なことは何一つ思い出せなかった。不思議な感覚はどうしても拭いきれず、その違和感が少しずつ二人の中で共有されていった。




