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ユリカとミサンガ

 蓮太郎は公園のベンチで本を読みながらユリカと話していた。さして大きくもない公園だったが、昼間は日当たりがよく居心地がいい。木に囲まれた公園を見ながらユリカは小さく息をついた。蓮太郎は暇さえあればユリカのところに来て話をする。ユリカも別に邪魔ではないから追い返しもしないし、ユリカだけが持っている不思議な術のことを言いふらされてはたまらないので、他愛のない話に付き合っていた。公園のベンチに蓮太郎が来るのは本当に毎日のことで、真冬だというのに今日も蓮太郎はやってきた。

「またあんたか、蓮太郎」

ユリカが前髪を掻くと、蓮太郎は肩を竦めて先にベンチに腰を下ろす。

「なら、毎日俺が来るって分かってる公園に来なくてもいいんじゃない?」

蓮太郎はそう言って持って来た紙袋を持ち上げてみせる。

「たい焼き買ってきたんだ。お前も食べるだろう?」

仕方なくユリカは蓮太郎の隣に腰を下ろす。蓮太郎はまだ熱いたい焼きを一つユリカに渡し、自分の分を出しながら本を開いた。

「本なんか読んで、楽しいの?」

ユリカが訊く。蓮太郎はたい焼きをくわえたままちょっと笑った。

「楽しいと思うから楽しいんだよ。ユリカも読めばいいのに」

ふうん、と相槌を打ってユリカはたい焼きをかじる。中の小豆が湯気を立て、ユリカのセーラー服の白に紛れては空気に溶ける。ユリカは葉を落として枯れた木立を眺め、落ち葉が立てる音を聞きながらもう一口たい焼きをかじった。ほう、と息を吐くと、隣で蓮太郎が震えた。

「寒いなぁ」

言いながら襟巻を強く巻きつける。ユリカはちょっと呆れた。

「最近そればっかだね。寒いなら来なければいいのに」

ユリカが言うと、蓮太郎は本の頁を繰りながら渋い顔をした。

「ユリカはもう少し厚着をした方がいいよ。感じていないのか、それとも寒さに特別強いのかは知らないけど、この真冬にその薄着は目立つ」

ユリカは肩を竦めた。蓮太郎はすでに普通の人とは異質なユリカのことを知っていた。

「それはどうも。それを差し引いても、蓮太郎は寒がりだと思うけど」

そう、と蓮太郎は言って外套を脱ぐ。それをユリカにかぶせた。

「うわ、なに」

ユリカが戻そうとすると、蓮太郎はそれを押しとどめて本に目線を戻した。

「頼むからそれ着てて。見てるこっちが寒い」

言った時、風が強く吹いた。ユリカは風の吹いてきた方向を見たが、蓮太郎は小さく身を縮める。

「あー……寒いなぁ」

呟いて本を閉じる。冷めてしまったたい焼きの残りを口に放り込んで、下に着ていたカーディガンを体に巻き付けた。

「本当に寒い」

ユリカは失笑して外套を持ち上げる。

「頼むからこれ着てて。見てるこっちが寒い」

にやりと笑って外套を返すと、蓮太郎はじっとりとユリカを見て袖を通した。

「相変わらずひねくれてるな」

「あんたも小さい頃から比べたら随分ひねたよね」

すかさずユリカが言い返す。蓮太郎はボタンを留めた。

「三年も経てば変わる」

ユリカは笑った。

「本当にコロコロ変わる。もう一応同級生になったんだっけ」

ボタンを留め終わった蓮太郎はふいに声を上げた。それから鞄の中を探り、小さなミサンガを取り出した。

「姉さんが最近よく作ってるんだ。輪に入れないとか近づけないとか言ってただろう。これを腕にはめて……」

ユリカの腕を取って赤く細いミサンガを巻き付ける。何度かいじって妙な結び方をする。ユリカが首を傾げてそれを腕から外し、冬の日差しに透かして見た。

「付けてろよ。形からでも輪に入ったことになるだろう」

へー、と無感動に声を上げて腕に戻すと、満足そうに蓮太郎は笑って付け加える。

「姉さんに聞いたんだけど、それは願いが叶うと切れるらしい。お前が本当に輪に入れたら切れるかもしれないってこと。俺がそう願って結んだから」

にっと笑った顔がまぶしい。ユリカは何度か目を瞬いて、それからふと首をうつむけた。その顔を横から蓮太郎が覗き込む。

「気に入らなかったかな」

ユリカはその顔をぐいと押しやった。

「どうもありがとう」

押し付けるように言って顔を背ける。蓮太郎から返ってくる言葉はない。ユリカがちらりと横目で盗み見ると、蓮太郎はぽかんと口を開けたまま固まっていた。瞬きながら前に戻した視線の先で、白い空に月が昇り始めていた。ユリカはじっと月が昇って行くのを見つめて、蓮太郎が次の言葉を発するのを待っていた。

「ひねくれ者」

ふいに蓮太郎が言う。隣を振り返ると、蓮太郎は首を傾げるようにしてユリカの顔を覗き込み、にっと笑顔を見せた。ユリカが顔を歪める。蓮太郎はちょっと笑い声を立てて肘でユリカを小突いた。ユリカが顔を背ける。だんだんと暗さを増していく夜の空に向けて、月が和紙のような影を結んでいた。


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