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旅立ちの日

 冒険者の宿を後にし町の正門を目指す。

 一週間この正門と冒険者の宿を行き来する生活を行っていたので現在の生活路線と言っても過言ではない風景を見ながら歩く。

 メインストリートの両端には食料品や雑貨、武器防具にこの世界にやってきた神殿もある。

 神殿前には大きな広間がありあの時は沢山の冒険者がいたが、今では早朝ともあり例の事件もあり誰の姿も見れない。

 (できれば食料品を買いたかったけれど)

 今ブラックポケットの中には干し肉と手のひらほどの楕円形で黄色い果物が2個入っているのみ、朝食も冒険者の宿では食べなかったので道中干し肉をかじっていくしかない。

 今日準備して明日この町を離れることもできるけど、今は気持ちが突き進む。

 白い壁と赤い屋根できた建物に挟まれたメインストリートも終わり正門にたどり着く、もし話をする相手がいるなら正門の管理をしている兵士だけだろう。

 正門に向かって近づくと右側の家の陰から誰かが来るのを感じた、顔を向けると冒険者同志としては一番顔を合わしている人物だった。

 「おはようございます、アリサさん」

 会釈しながら挨拶すると彼女も返事を返してくれる。

 「おはようございます、カナタさん」

 彼女は正直言えばタイプだ、年齢はたぶん同じくらいか。凛とした顔つきで腰辺りまで伸びた茶色の髪を後ろにまとめている。

 彼女と会うのは4、5回目だがこれでも冒険者同志としてはもっとも多い。彼女とはよく朝出会うが今日も会えるとは思ってもいなかった。

 やっと別れの挨拶ができると思うと少しうれしい、もし僕がいなくなっても彼女は覚えてくれていると思えばこの町を出る覚悟も十分だろう。

 「突然ですがこの町を出ることにしました、短い間だったけどありがとう」、そう言って礼をする。

 顔を上げると彼女はびっくりしたような顔をしていたが次第に俯き始める、もしかして寂しいとか思ってくれているのだろうか。

 「それじゃまたどこかで」、そう言って正門の方へ体を向け歩き始める。恐らくもう出会うこもないか。

 正門横の詰所のドアをノックする、出てきた兵士に別れの挨拶と正門横の勝手口を開けて貰うようにお願いする。兵士はご武運を願っております、と敬礼をしてくれた。

 (敬礼されることもしてないけれど)そう思いながら僕も敬礼をした。

 (これでこの町ともさよなら、帰ってくることは、ないかな)兵士が専用の鍵で勝手口を開けてくれるのを見ながらそんなことを考えていると右手を後ろから掴まれた。疑問に思い振り向くとアリサがそこにいて目を見ながらはっきりとこう言った。

 「私も一緒に連れて行って下さい!」


 勝手口外まで付いてきてくれた門番の兵士にアリサさんと二人で礼をする、ゆっくり閉まっていくドアを見守り勝手口の閉まる音を聞き届けてからこの町ナフトを背に僕たちは歩きだした。

 目的地はかなり遠く白い建物が見えるあの町オリウスだ。途中二つの森と川があるが昨日予習として歩いた感じでは今朝と同じくらい早起きして太陽が真上に昇るくらいで中間辺りまで行くことができた。ただしここまで予習しておいて食料品を買い込むことを忘れたのはあまりにも初歩的なミスだとしか言いようがない。

 「急にごめんなさい」彼女、アリサさんは言った。まだ俯き加減で迷惑をかけたと思っているようだ。

 「一人で行くのも心細かったでの僕としてはうれしいですよ」内心確かに嬉しかった、特に彼女は僕同様ナフトで買える最大の装備をしてくれている。獣の皮を利用した防具と木製の盾、武器はまだビギナーナイフだが十分に戦力として期待できる。これまで一対多数の戦いでは被弾覚悟であったが二人ならかなり楽になるだろう。

 何より一人じゃないってのは心がこんなに穏やかになるとは、素直に有難いと思った。

 「私もナフトを出るつもりだったのですが、一人では勇気もでなくて」

 僕だってそうさ、かなり考え込んで今日出発する決意を固めたし何より先にナフトを発った他の冒険者に追いつこうと気持ちが焦っていた。

 「3日目に集団でナフトを出てあのオリウスという町に行くって知っていたら私も一緒に行ったのですが」彼女は俯きながら言った。

 

 この世界に来て3日目、その事件は起こった。

 広場でまだこの世界に馴染めないでいた冒険者、プレイヤーの一人がこのナフトを出て次の町に向かおうと提案した。この町には元の世界に帰る方法がない、ただし次の町ならその方法があるかも、冒険者達はその希望にすがったのだと思う。僕がモンスター討伐から帰ってきた時にはほとんどの冒険者がこの町を経った後だった。

 「僕もショックでしたよ、まさかほとんどの冒険者がオリウスに向かって出発しているなんて思いもしなかったんで」

 どちらが悪いかとそういうこじゃない、でも置いていかれたこととモンスター討伐に少し心の余裕ができ始めていた自分に理不尽というか運の悪さを感じた。

 「オリウスの町まで行けばきっと沢山の冒険者がいますよ、頑張りましょう」

 笑顔で言ったみたけれどどうだろうか、あまり盛り上げれないかな。

 少し間をおいて僕を見ながら彼女は「はい!」と返事をしてくれた。

 草原の中に僅かに草が生えていない道のようなものがあった、どれほどの時間をかけてこの道ができたかはわからないが僕たちはその白い線の上を辿るように歩く。道中お互いの持ち物や武器、レベル、スキルについて話をした。

 レベルはステータス画面で名前の横に表示されているもので、モンスターを討伐すると得られる経験値がある一定を溜めるとレベルアップを行いHPやMP、攻撃や防御といったステータスが底上げされる。

 「カナタさんレベル6ってすごくないですか?私まだレベル3ですよ?」彼女は驚いていた。

 「朝から晩までずっと戦っていると勝手に上がったよ」というと「この世界に馴染んでますね」と答えが帰ってきた、やっぱり僕は少しおかしいのかもしれない。

 スキルは武器ごとに設定されているようでMPを消費する代わりに普段の攻撃よりも高いダメージを与えることができる必殺技のようなもの、スキル名を言葉にすることで発動するが連続して使用はできない。

 現在僕はショートソードを装備しており覚えているスキルは【パワースラッシュ】、剣自体に力を溜め通常攻撃よりも高いダメージを与えることができる。ただしMPを3割近く消費してしまう。

 彼女はビギナーナイフを装備しており【フレアブースト】と【クイック】使えるそうだ。【フレアブースト】は剣自体に炎を纏わせ切った対象に熱によるダメージを追加で与えることができる、僕もビギナーナイフを使っている時にすぐ覚えたがショートソードへ武器を切り替えた為今は利用できない。【クイック】はMPが徐々に減少する代わりに瞬発力が上がるスキルらしい。

 「【クイック】の効果見てみます?」、是非見たいというと彼女は道の先にある小さな岩を指さした。

 

 「よーい」、僕は駆け足のポーズをとり彼女はビギナーナイフを取り出す。

 「どん!」、僕は一気に駆け出す、負けてたまるかと思いながら全力で腕を振って脚を動かす。その隣を倍近くの速度で何かが駆け抜けていく。まるで流れ星のように遠くの岩に向け突き抜けて行った。

 遠くから見れば小さかった岩も近くでみれば案外大きい、その岩に僕がたどり着いた時にアリサさんは岩にもたれ掛って口元に笑みを浮かべていた。

 「【クイック】ってすごいでしょ?」肩で息をする僕に彼女は自慢してくれる、その顔にはナフトを出た時の暗い表情はなく恐らく本来の彼女のあるべき表情なのだろう。

 「びっくりしたよ、すごいね」そう告げると彼女は嬉しそうに先を歩き始めた。

やっと過去話なくなった

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