9話
投稿遅刻してすみません!
なんとか書きあがりました。
あ、それとPV数1000越えしました! ありがとうございます!
これからもどうか、どうかよろしくお願いします!!
そして今回甘みゼロです。前回のは一体、というほどに。
ではでは、どうぞ!
「ちっかとーおっでかっけ♪ ちっかとーおでかけ♪」
「ひなた、うるさいわ」
小声でも歌うなんてなに考えてるのよ。
「ここは図書館なのよ。静かにしなさい。しないなら帰ればいいわ」
「わ、ゴメンゴメン。これからは気をつけるから」
ジト目でかつ小声で咎めると、焦って手を振ってから中断した。気持ちの悪くてわけのわからない歌がなくなってなによりよ。
最初はションボリと肩を落としたのに、すぐさま頬杖をついて体勢をだらしなくさせた。
これぐらいは、許容範囲内だから無言で放っておく。
ただ、ごきげんだった様子は変わらないで、ニコニコと笑ってる。顔がうるさいのよ。ひなた。
向かい側に座っているから、表情とか動作が意識しなくても入ってくる。
教科書をめくる指に力がこもった。……ああ、ウザい。
***
昨日と同様に、私とひなたは図書館に来ている。
今日もついてくると言ったひなたの図々しさには、驚いたけれど。一度許した手前、私はひなたに言いにくくなってしまった。
睨むだけでは当然だけれど彼には通用しない。結局私の異議は伝わることなく溜息となった。
昨日もそうだったけれど、ここにいる間は、ひなたは私のことを眺めていることが多かった。最初は本を2冊ほどやる気なしにパラパラとめくっていたけれど。
退屈そうにしていたから、てっきり今日もなんて言い出さないと思っていたのに。暇を持て余しているのかしら。
まぁ、いいわ。私は私のしたいことをするだけよ。
「なぁ、なんでわざわざここに通ってんだよ?」
……この子、さっきの聞いてなかったのかしら。話すなと言ったでしょう。いくら飽きたからと言って、私を巻き込まないでほしわ。
でも、ひなたの疑問はもっともかもしれない。
行きつけのこの図書館は、私達が住んでいる市の隣にある。ここまでは電車を利用するほどには遠い。
ここの図書館は蔵書数が多いから、本好きにはたまらないけれど。この場所では勉強ばかりする私には、関係のないことだと判断したみたい。
「なぁなぁ」
小声でうながすひなたに、溜息をつく。勉強の邪魔をしないで、読書でもしていればいいんだわ。
返事をしなければいつまでも聞いてきそうね。
少しの音でも思いのほか響く空間だから、他の人に迷惑がかかってるかもしれないのに。
そっと周りを見渡してみる。イヤホンをして音楽を聴きながら本を読む男性、分厚い専門書から書き写す作業に夢中の女性しか見当たらない。
……これなら、大丈夫かしら。
念のために、できるだけ小声で返す。
「場所が広いからよ」
ここは県でも有名な図書館で多くの本を所有するだけじゃなく、それを読むための場所も十分にとってある。
証拠に、私とひなたの周りにも人があまりいないわ。
と言ってもそれは、単にこの場所が穴場だからなのだけれど。
ここは図書館の中でも奥のほうで、しかも入り組んでいる場所な上、周りが小難しい専門知識の本棚だから中々人が来ないの。
「それだけか?」
訝しそうに尋ねてくるひなたに、首を振ることで否定する。まだ、付け加えることがあるわ。
「ここだと、知り合いに会わないの」
「……」
広大な敷地では、中々同年代に遭遇なんてしにくい。ましてや隣の市だもの。
そもそも、休日にわざわざ図書館に来る子供なんて、あまりいないでしょうけれど。
困惑した表情で黙ったひなたに、私は細かくは言わなかった。
その『知り合い』が誰なのか、とか。
それにひなたを含んでいるのか、とか。
どうして『知り合い』に会いたくないのか、とか。
告げるつもりはないわ。
ひなたには、知る必要のないこと。
問い詰めようとしないとも限らないから、もうひとつ理由を教える。
「あとは、慣れるためかしら」
「慣れるため?」
「そう」
不思議そうに首を傾げる彼に、頷いた。
「私、高校はこっちのところを受けるつもりなの」
「こっちって……は?」
「今のうちに通学状況に慣れておいて損はないでしょう?」
目を見開いて固まったひなたに、淡々と説明を行う。
そのままなにも言わなくなったので、ちょうどいいから勉強に戻ることにした。
すぐに、ページをめくる音や、紙に文字を書く音しかない空間になる。
この静寂が、私は好きだわ。
誰も私に関わらなくて、私自身も気を配る必要がなくて放置しておいても問題のない状況。ここにいていいのね、って思えるわ。
だから、図書館で勉強をしたいのよ。
「……」
「……」
でも、この沈黙は嫌よ。
……石化から復活したと思えば、視線が痛いのよ。無言で訴えてくるの、やめてくれないかしら。
真正面から送られるひなたの無言の妨害に、イライラするわ。
文句を言ってやろうと、顔を教科書からあげた。
「なにかしら」
「……千佳は」
沈黙を破って問いかけてきたひなたの眼は、ジッと私を見据えていた。
どうしてそこで黙るのよ。
口を何度も開け閉めをする。一体、なにを言おうというのかしら。
ひなた自身、それはわかっていないみたいに見えた。
「……いや、なんでもない」
「……そう」
彼が口にしかけた言葉を、私はなんとなくわかってしまった。こういうところって、幼馴染みって面倒だって改めて感じるわ。
でも、私はなにもわからなかった、という顔で相槌を打った。
自分に都合の悪いことをつつくことはないもの。
唇をギュッと悔しそうに噛みしめるひなたに呆れる。そのままじゃ、紅くなってしまうわよ。ただでさえ淡いピンク色で、男の子らしくないのに。
「千佳」
「……なにかしら」
目を潤ませて、ひなたは唇を震わせた。
――そんな風に見ないで。
私はそれを冷たい目で映した。
「好きだよ」
「……そう」
無気力に首を縦に動かして、受け取った。
泣きそうなひなたを見ても、私の決意は変わらないし変えられないもの。
ただ、なんとなく眺め続けていてもますます泣きそうだから、視線を横へ移した。
私の横の座席には、朝の出会いがしらにもらった花が無造作に置いてある。
橙のマリーゴールドは、何度見ても目に痛々しいわ。少なくても朝に見るべき色ではないことはたしかね。
唐突にひなたから花の受け渡しが始まって、ここ一年間に比べると会話は格段に増えたわ。
けれど、私はこれ以上ひなたとの距離を変えるつもりはないの。
だから、発言の裏に隠した言葉にも気付かないふりをしてみせる。
――胸がざわつくけれど、きっと、焦りなんて感情じゃないわ。
そう、きっと。
ちょっと暗いですね。千佳にかかればこうなってしまいます。
「もっと熱くなれよ!」と某元テニスプレイヤーのように声がけしたいですね。
ではでは、今日も読んでくださりありがとうございました!