8話
活動報告に書かせていただきましたが、ツイッター始めました。興味のある方はちょろっと見に来てくださいな。
さて、今回からやっと甘みが出てきますよー。
ではでは、どうぞ!
「ひなた」
「おはよう、千佳!」
家の門を出たら待ち構えていた人物に、しかめっ面になる。
「なんで、朝からここにいるのよ」
土曜日の、朝からひなたの顔を見るなんて。
清々しい気分でいたのに、最悪よ。
「え? だって千佳、今日は出かけるんだろ?」
「……何故、そのことを知っているのかしら」
当然のように答えられたけれど、私、あなたに教えた記憶はないわよ。
「やっぱりひなた、あなたストーカー――」
「違うって! なんでことあるごとにストーカーにしたがるんだよ!?」
「違うのかしら?」
「違う!」
あらそうなの。じゃあ何故よ。
顔を真っ赤にしていたら、さもやましいことがあるようにしか見えないわよ?
「母さんが千佳のおばさんと話してるのを聞いただけだって」
「それって盗み聞きよね」
母も勝手に人の行動を話さないでほしいわ。
まぁ、無理よね。なんでもかんでも話したがるもの、ひなたの母親相手だと。
こういうとき、家族ぐるみの付き合いって厄介だわ。
「それで。貴重な朝を台無しにした理由は」
「台無しって!」
「なにかしら、盗聴主さん」
「……なんでもない。だから、その蔑んだ目をやめてください」
ならいいのよ。
ひなたもわざわざ言い返さないでほしいわ。
「これ」
昨日と同じ見た目の花を渡してきた。花の色は赤みがかった青。紫、といってもいいわね。
「今日はちゃんとアサガオをつんできたからな!」
「……そう」
でしょうね。今まで同じ種類の花は用意してこなかったもの。
だからそんなに得意げになる必要はないと思うわよ、ひなた。
「じゃ、渡したからな」
「……え?」
背を向けて自宅に引き返そうとするひなたに、素で目を丸くしてしまったわ。
まさか、このまま帰る気なのかしら。
「ついてこないの?」
「え? だって千佳、俺と一緒にいたくないだろ?」
不思議そうに首を傾げて問い返された。
……そうね。なにを聞いているのかしら。これ幸いと流してしまえばよかったのに。
内心の戸惑いを隠していると、ひなたが笑いかけてきた。
「それとも、ついていっていいのかよ?」
断るだろうと見え見えで、彼は質問しているようで。
笑っているのに、悲しそうに見えてしまった。
――なによ、その表情。似合わないわ。
「べつに、」
口が、勝手に動く。
「どっちでもいいわよ。ひなたなんて、いてもいなくても興味なんてないんだから」
っ!? ……なにを、言っているのかしら、私。
自らの首を絞めるようなことをわざわざ告げるなんて。
暑さで頭が沸くには早すぎるわ。
困惑する私をよそに、ひなたは先程とは比べ物にならないほどの眩しい笑顔を浮かべた。
「マジで!?」
一端離れた距離が、また短くなる。
食い気味に尋ねるひなたに苛立つ。
なんで、そんなに喜ぶのよ。
平静をたやすく崩してくる、ひなたが恨めしい。
どうしてこうも、私のペースを乱してくるのかしら。
気にくわないわ。
なんで、私ばかり。
視線を彼から外して、そっぽを向いた。
「やっぱり、なしだわ」
「えー!? いや、でもいいって言ったじゃん!」
「……」
「な、いいって言ったよな!」
「…………幻聴じゃないかしら」
なくしたはずのひなたの顔が、横から入ってくる。
そのニヤニヤした表情、ムカつくわ。
どうしてそんな嬉しそうなのよ。
「いいって言ったよな!」
「………………そうね」
意地を張っているほうが恥ずかしいような気もしたので、諦めて肯定してみせた。
すると全開の笑顔を向けてきたひなたに、心底嫌気がさすわ。
ああ、嫌ね。
また、気まぐれにひなたに振りまわされてる。
いい加減、私に付きまとわないでほしいわ。
そんなことを願っても、叶わないでしょうけれど。
苦い感情を、吐き出した。
「ひなた、あなたのことが嫌いだわ」
「うん、そうだな!」
告げても、ひなたはニコニコと笑う。
「なんでそんな嬉しそうなのよ。まさか、あなた……」
「? なに千佳」
そう、そうだったのね。
「マゾだったなんて」
「違うし! なに千佳、俺を変態にしたいの!?」
必死に首を振って大声で叫ぶ姿が無様ね。
否定したって事実は変わらないわよ。
「べつに構わないわよ、ひなた。あなたが変態であろうと、マゾであろうと、はたまたストーカーであろうと、関係ないわ。嫌いなのは変わらないことだし」
「うん、なんだろ。俺、喜んでいいのか? あと違うから。全部当てはまんないからな」
遠い目で話すひなた。
なにが違うのよ。
「だってそうでしょう? ならどうして罵られても嬉しそうな顔をしてるのよ」
「え、いやそれは」
言葉を詰まらせて、口をモゴモゴと動かす。そしてあっという間に、さっきと同様のニヤケ顔になってみせた。
だから、なんなのよ。
「千佳の冷たい反応が、照れ隠しにしか見えないんだって」
「……なによ、それ」
本当に、なによ。
ありえないでしょう。そんなはず、ないじゃない。
「目、腐ってるんじゃないかしら? もしくは幸せな頭をしているのね」
「え? そんなことないと思うけどな」
明るく笑うひなたを、冷めた目で睨んだ。けれど彼は楽しそうにしている。
「やってられないわ」
背を向けて歩き出す。日本語が全く通じない輩は、放置に限るわ。
「あ、なぁ待てって!」
慌てて駆け足で追いかけてくるひなたを突き放すために、早足にならないと。
隣に並ぼうとする彼に、目で文句を訴える。けれど知らぬそぶりで、満面の笑みで返してきた。
諦めて特大の溜息を吐いてみせる。
――うっかり、ひなたの行為を容認してしまう発言をしてしまうなんて。
私は、ひなたから離れたかったんじゃないの?
なのに、何故、それとは真逆の行動をとってしまったのかしら。
混乱させてくるひなたは、やっぱり大嫌いよ。
口に出すとまた彼が嬉しそうにしてしまいそうだから、心の中で悪態をついた。
甘み(控え目)でしたが、どうでしたか?
まだまだカカオ成分多量でジャリジャリのチョコみたいですが、甘くしていきたいと思います!
今回も読んでいただき、ありがとうございました!