7話
8月ももう後半に突入しましたね。
休みがもっとほしいです。切実に。
まだ屋台でイカ焼きを入手していないというのに……!
さて、今回はちょっと思い出を振り返っています。
では、どうぞ!
「千佳! 今日は早いんだな!」
「……」
何故、ここにいるのかしら。
「ひなた、やっぱりあなたストーカーなの?」
「え!? いや、違うし!」
「……じゃあどうして、この時間にいるのかしら?」
普段の時間より、1時間は早いと思うのだけれど。
見計らったみたいに現れるなんて、わかっていないとできないはずよ。
疑念を込めて睨むと、ひなたがキョトンと目を丸くした。
そして、首を傾ける。
「うーん、なんとなく? 公園行った帰りだったし、通り道だったから寄ってみただけだけど?」
……どうやら、本当みたいね。ひなたは嘘をついてもわかりやすいし、すぐにはつかないもの。
となると、ひなたは単なるカンでここにいるということよね。
感知機でも備えたのかしら。
「……ひなた、あなたいつの間に人外になったの」
「は? え、いや! たしかに偶然にしてはできすぎてるけどな、人外はないだろ!?」
動揺するひなたをほっといて、溜息をつく。
「いつか、そうなるとは思っていたわ。だけど早すぎよ。このままだと生命の枠から外れるわよ」
「え。ちょっと、待て。千佳にとって、俺ってなに」
なにって、それはもちろん。
「嫌いな相手よ」
「うん、それはわかってる! そうじゃなくってな!?」
「? なにかしら?」
「すっごく不思議ですって顔でこっち見んな」
あらあらどうしたのかしら?
「……もういいや。はい、今日これ!」
毎度おなじみとなった花。……というかひなた、あなた偶然ここに来たのに、どうして持っているのよ。
「ちょうどこれ手に入れた帰りでもあったんだよ! よかった」
「…………そう」
もうツッコミを入れるのは疲れたわ。とりあえずひなたは人外になったということで構わないわね。
「アサガオなのに、夕方まで咲いてるなんて珍しいだろ!」
「……」
嬉々としてそうドヤ顔で告げるひなたを、呆れた目で見つめた。
「ひなた、これはヨルガオよ」
「へ?」
目をパチパチと瞬かせて、口はポカンと開けた。
間抜け面だからやめなさい、それ。ああでも、ひなたの容姿じゃ、特に問題がないでしょうね。……チッ!
表面上はそんな思いを出さずに、冷静に事実を伝えた。
「一般的にはユウガオの名称が有名かしらね。これは夕方から咲き始めるのよ」
見た目はそっくりでも、全くの別種だったはずだわ。
一枚の花弁としてつながってる白い花を、根元を持ってクルリと回した。
綺麗な色。汚れが一片も見当たらないわ。
「……すごい」
「は?」
何か言ったかしら?
ひなたを思わず確認してみて、顔をしかめた。
……なんでそんな目を輝かせているのよ。
「すごいな千佳! 物知りなんだな!」
「……っ」
やめてちょうだい。こんなことで褒められるなんて、逆に恥ずかしいわ。どれだけ無知だと思われてるのよ。
「俺は全然知らなかったのに!」
「……でしょうね」
じゃないとあんな見事なドヤ顔をさらさないでしょう。
「なんで千佳は知ってたんだ?」
「ただの雑学よ。本を読んで知っただけだわ」
「へー」
そう、それだけ。一般知識として頭の片隅に入れておいたことすら忘れていたわ。
「千佳ってよく読書してたよな」
「そうね」
ひなたは私が読書している際に、横から読んで読んでとせがんで邪魔していたわよね。
駄々をこねるひなたを静かにさせるために、朗読をしていたわ。
調子にのったひなたが「次はこれ!」と言って違う本をさしだしたときは、イラッとさせられた。
泣き出されるのを避けるために、結局は読んだけれど。
あの本は、どこにいったかしら。
「アサガオといえば、昔は花使って色水とか作ったよな」
「……あったかしら、そんなこと」
「あったっつうの。忘れたのか?」
ひなたは、口を風船のように膨らまして拗ねた。
――憶えているわ。
私の家の庭と、ひなたの家の庭で植える植物はほとんどが同じ。理由は、たぶん母親同士が意見を交換しやすいからだと思うけれど。
そして、その中にはアサガオもあった。
私が小学生だった頃、早起きして二人でビニール袋にアサガオを詰め込んだ。
女の私が青で、男のひなたがピンクだったのは、笑ってしまったわ。
水を入れ過ぎたビニール袋を下に落として破裂させた、ひなたが泣き出して。
それに私が慌ててしまったことも。
全部、憶えている。
けれど、それを口には出さない。
今はもう、昔の話だから。
単純なひなたは、私の反応にも「ま、いいや」と流すことにしたみたい。
「これでも色水とか作れんのかな?」
「試せばいいじゃない。はい」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないし! って返すなよ!」
慌てるひなたを見ても、私はどうとも思わない。
あの頃なら、こんな口はきけなかったでしょうね。
「いやそうじゃなくってさ。公園でこの花咲いてたから、今度やってみようかなって思ったんだよ」
「そう」
べつにいいんじゃないかしら。
「それでさ、あの……千佳」
「なにかしら。トイレに行きたいならさっさと帰ればいいじゃない」
「違う!? 俺べつにトイレに行きたいわけじゃないし!」
あら、違うの? ならなんでモジモジしてたのよ。男子がそれをやっても、気持ちが悪い……ひなたなら問題なさそうね。ウザいわ。
「だから、その、な? そのときは千佳としたいんだ」
「……」
できるわけないじゃない。
ひなたこそ、忘れたのかしら。私は、あなたのことが嫌いなのよ?
言いかけた口が重くなる。
「……気が向いたら、いいわ」
「マジ!? やった!」
飛び跳ねて喜ぶひなたを、揺らめかせた瞳で映した。
何故、要求を突っぱねることができなかったのかしら。
とっさに返した言葉に、私自身がビックリしてるわ。
こういうとき、無邪気なひなたが憎らしく思ってしまうのよ。
自分がわからなくて、困るわ。
私は、一体どうしたいのかしら。
千佳が完全なクーデレになりました。
彼女がどうしていくのかは、ひなたにかかっています。
それでは、今回もありがとうございました!