6話
千佳がデレます。デレです(大事なことなのでもう一度)!
ただし(微)、なので期待しすぎないでください……。
では、どうぞ!
奇跡が起こったわ。
1週間は来ないようにする、と言いだした次の日から、ひなたは私を待ち構えているのをやめたの。
その日、電柱のそばに姿が見えなかったときは、待つのを別の場所に移したのかしら、と疑っていたのだけれど。家に帰るまでに遭遇することはなく。
翌日は、不審過ぎて辺りを見回して警戒しつつ帰宅したのに、何事もなかったときの安堵感と言ったらないわ。
――そうまさか、ひなたが『1週間は会いに来ない』ということを守ったなんて。
てっきり、その場限りの軽い気持ちで言い出したのだと思ったのだけれど。しっかりと通すなんて、ビックリよ。
***
だから、久々に電柱のそばに立っていたひなたを見たときは、1週間経ったということを実感してしまったわよ。
「ちーかー!!」
「……」
人間ミサイル弾と化した幼馴染みを避ける。ぶつかったら痛いじゃない。触れたいとも思わないものね。
勢い余って転びそうになったひなたを、冷めた視線で眺める。悪い予感がしていたので横にずれると、彼の腕が空を切っていた。しつこいわ。
「あーマジで千佳不足だった! 補給させてくれよ!」
「勝手に枯渇していなさい。邪魔よ」
目を潤ませているのもウザいわ。男がそんな女々しくてどうするのかしら。
「ひどい! でも氷みたいな態度、本当の千佳だな!」
「偽物なんているはずがないじゃない。それとも、ひなたは私の人形でも持っているのかしら?」
「……あ、当たり前だろ! 持ってないからな!?」
「…………さようなら」
「ちょ、誤解だって! 違うからな!?」
だったらさっきの沈黙はなによ。妙な間が怖いわよ。
必死に弁解しようとしているのも、怪しいわ。
近づいてこようとするひなたから、一歩引く。精神的にはこの百倍くらい引いているけれど。
「離れようとするなよ!? ホントに、マジで違うっつうの!」
「キモいわ、ひなた」
ただでさえ嫌いだったけれど、これからはもっと距離を置くべきかしら。
「そもそも、今までのだってスト―カ―よね」
「うぐ! ……そ、そんなことないだろ。帰り道で待ってただけじゃん」
「嫌がる異性につきまとっていた行為でしょう?」
あら、我ながら言葉にしてみると的を得ているわね。ひなただって言い返せないで詰まってるもの。
思わず深く頷いて、納得をした。
「ああ、そうだったの。あなたは幼馴染みじゃなくて、ストーカーだったのね」
「勘弁してくれ、千佳……」
ひなたは弱り切った声で願い出た。
そうね、隣人がストーカーなんてお断りだから、この話題はやめましょうか。これ以上掘り下げて蛇が出ても困るわ。
溜息を吐いた後に、ひなたは苦笑いをした。
「あいかわらず千佳は容赦ないよな」
「ひなた相手だもの、必要ないわ」
「それって……!」
パァッとまるで暗闇の中で光を見出したような表情になるひなた。
そんな彼に、頷いてみせる。
そして、私とひなたは同時に口を開いた。
「嫌いだもの、気にするわけないわ」「俺に甘えてるってことか!?」
途中まで聞いた後に、ひなたはガックリと落ち込んだ。
「うん、そうだなー。嫌いだからだろ、知ってる俺」
なにを今更言ってるのかしら?
「いや、でもな、あんな言い方されたら期待するじゃん。なのに、なのに……ハァ」
何故電柱に語っているの? 片手ついてブツブツ言っているなんて、変質者にしか見えないわ。
やっぱり、離れようかしら。それとも、このうちに帰ろうかしら。
物音をたてないよう移動しようとした瞬間に、ひなたが振り向いた。
急に動くのやめなさいよ。ホラー映画みたいじゃない。
「うん、とりあえずいいや。ほら、これ!」
ハッとするほどに鮮やかな青紫色。星の形にも似ている花。
……キキョウね。
私とひなたの自宅は一軒家だけれど、どちらの庭にもキキョウなんて咲いてないわ。育ててすらいないもの。
今までの花も怪しかったけれど、今回の件で明らかになってしまったわ。
――この子は。
「うん? え、まさか受け取らないとか?」
「……」
ニッコリ笑った後に、慌てて困り始めるひなたは私の動向を気にしているけれど。
「買わなくていいわ」
そう言いかけた口を、途中でやめる。
私が気にして、どうするのかしら。
彼が決めたことだもの。とやかく言うことではないし、止めたって聞き入れるはずがないわ。ひなたは都合が悪いことは流してしまうんだもの。
戸惑う心をねじ伏せて、なかったことにする。
私は手を伸ばして、彼の指からキキョウを取った。
「……もらうわ」
「! うん!」
それだけで笑う彼が、愚かだと思うわ。
だって、嫌いだと言い続ける相手に渡して、なにが楽しいのかしら。
小学生の小遣いだって高くはないはずなのに。削ってこれにあてるなんて。
ストーカーでも、変質者でもないけれど。変人なのかもしれないわね。
首を斜めにして、ひなたが笑顔で尋ねてくる。
「キキョウが好きなのか?」
「……そうね、」
べつにこれまで、どっちでもなかったけれど。
「嫌いではないけれど。好きなほうだわ」
気の迷いでそう答えてしまった。
――ああ、ひなたの変人具合に感染してしまったのかしら。
じゃないと……今、私の中でほんの一瞬よぎった感情に説明がつかないわ。
嬉しい、なんて。
そしてひなたにはデレが伝わっていないです。能天気に笑ってます。
「あ、捨てられなかった! やった!」と喜んでいます。ひなたぇ……。
それでは、本日も読んでくださり、ありがとうございました。