19話(その後)
二人が仲直りした直後の話です。短めかと。
あとは最終回のみとなりました!
最終回は本日18時を予定しております。どうか最後までお付き合い願えればと思います。
ではでは、どうぞ!
「……多いわ」
「あー……へへへ」
「へへへじゃないわよ、反省なさい」
庭に転がった紙に嫌気がさすわ。元凶のひなたは、笑って誤魔化そうとするし。
私を気づかせようと窓ガラスに投げ続けた白い塊が、無造作に庭に散らばってる。
散らかしたままじゃ気にかかるから、片づけをすることにしたのだけれど。
ひなたはさっきの事故(キスなんて事故よね?)から、ヘラヘラと笑ったままで正直ウザいわ。
犯人にやらせようと思ったのに、頭に花を生やしたような状態じゃ役に立たないかもしれないわね。
「手間をかけさせないでちょうだい」
「ゴメン」
謝っているのなら笑いながら言わないで。意味がないわ。
やっぱり、私がやるしかないようね。ひなたは要員としての頭数に入れないのが賢明かしら。
溜息をついて、しゃがんだ。
そして、紙を一つつかむ。
ノートを破って丸めたのかしら。一体何ページ使ったの?
……? 中に黒い線があるわ? なにかしら?
「あ、ちょ!? ま、待った!」
慌ててとめようとする声が聞こえたけれど、やめるわけがないじゃない。大体、なにを焦っているのよ?
紙を開くと、目に入ってきたのは。
『おれは千佳が大好きだよ』
しわくちゃになった紙の中で、文字はひどくいびつになって見える。
――まさか、他のも?
アタフタして動けなくなっているひなたが行動を起こす前に、紙の塊を拾い集めては広げてみる。
『キライになるなよ』
『こっち向けって』
『笑え』
『さけんな』
『苦しむなよ』
『手、つなぎたい』
『だきしめたい』
『好きだよ』
『いっしょにいたい』
「うぁー……」
うめき声を上げて、顔を手で隠している。でもね、また首まで真っ赤になっているわよ、ひなた。
「なんで読んじゃうんだよ……」
そんな文句言われたって知らないわよ。だったら書かなきゃいいじゃない。
「親に気づかれるよりマシでしょう?」
「あ!? そっか、その可能性もあったのか……うわ、最悪だな」
……予想していなかったのね。『盲点!』みたいに驚くなんて、本当に考えなしね。呆れちゃうわ。
「どうして、こんなことしたのよ」
「どうしてって……保険だよ」
「保険?」
何に対してかしら? 私が怪訝な表情になっているのを見て、ひなたは一つ溜息を吐いた。
「もしかしたら、千佳が窓開けてくれない可能性だってあっただろ?」
「……そこまで考えて、何故落ちる危険性を省みないのよ」
「それはそれ、これはこれ、な?」
『な?』じゃないわよ、『な?』じゃ。寿命が縮むかと思ったのよ?
明るい笑顔を浮かべてるひなたに、溜息をついてみせても意味がない。彼の顔色は、まだ紅いままだ。
「けど、こうしておけば、あとで片づけに来た千佳が見るかもしれないって思ったんだよ」
「……」
ひなたのもくろみは当たったわ。たしかに今、私は発見したもの。
ただ、和解をした後だったというのが、計算外だっただけ。
その結果、羞恥で身悶えることになってしまったみたいだけれど。
私だって、送られる側だから多少の気まずさは感じているわ。飾り気のない言葉だけれど、それが彼らしいもの。
それに、ね。つまり、これって――
「~~っ!」
「へ? どうしたんだ、千佳?」
「なんでもないわよ!」
「おわっ!? どうして怒ってるんだよ!? ってか赤いな? そこまで怒ってんのか?」
「知らないわ!」
顔を背けて、表情を髪で隠す。
ああもう、恥ずかしい子!
――だって、この紙は全部、ひなたのラブレターじゃない。
「あー……ところで千佳、その、な。紙返してくれないかな?」
頬を掻きながら照れくさそうに催促するひなたを、横目で睨んでみせた。
「……お断りよ」
「え、ちょっと!? マジで俺困るから! 耐えられないから!」
「勝手に困って耐えてなさい」
「ええー……」
これは全て私にくれた言葉でしょう?
だったら、どうするかは私の自由だわ。
ひなたの心底困り果てた声に、笑いがこみ上げる。
ポカポカと温かい感情が、全身を巡っていく。
――ひなたは私を気まぐれに振りまわすけれど。
こんな感情なら、悪くないかもしれないわ。
最終回は本日18時を予定しております。
今回も読んでくださり、ありがとうございました!