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19話(後編)

 後編です!

 あと2話で終了予定。


 これまで糖分なかった分、ここで一気に投入されてます。胸焼け注意です。

 コーヒーや辛い物を摂取したほうがいいかもしれません。

 というより書いている梅津が胸焼けです。うぇっぷ。……失礼しました。


 ではでは、どうぞ!

 ……特別なんて。

 いらないわ。そんな言葉。


 言われたって私は、拒絶しかできないもの。


「信じられないわ」


 ――どうしたらよかったっていうの?


 素直にひなたの手をつかむなんて、私にはもうできない。


 だからって、突き放すことだってできそうにない。


 中途半端にぶら下がった気持ちが、あふれかえってしまう。


「嫌いよ……」


 ――止めないと。


 抑えきれない感情が、押し寄せてしまう。

 

「嫌いよ、ひなたなんて……!」


 しがみついて彼の上着にしわをつけた。強く握っても文句を言わない。なにか反応しなさいよ!


「頭の中を占拠するし、身勝手に振り回すし、どんなに嫌っても懐いてくるなんて……」


 胸をこぶしで叩いてみた。でも、ちっとも動かない。ムカつくわ。


「私の足りない嫌な面ばかりあてつけみたいに見つけさせてくるし。比べてつらくなるのよ!」


 ドン、ドン、と叩く。それでも、ひなたは言い返さない。

 ああ、また視界が歪むわ。嫌よ。こんな至近距離で、しかもひなたの目の前で泣きたくなんてないのに。


「イライラしたり、ムカついたり、モヤモヤしたり。ドロドロした感情ばっかり植えつけて!」


 目から、涙がこぼれ始める。次から次に出てきて、止まらないの。

 ひなたは、どんなに叩いても無反応だった。


「ひなたと一緒にいると、みにくくなっていくのよ! こんな自分、情けないし、みっともないし、みじめだわ」


 苦しいの、わかりなさい!

 ドンッと力強く叩いたのに、ひなたには効果なんてないみたいで。よろけもしないし、言葉もない。


「大嫌いよ、嫌い。……ひなたなんて」


 叩くのも疲れてしまった。億劫おっくうで、ひなたの胸に手をおいたままやめた。

 本音をぶつけて、彼はどう思ったかしら。


 面倒? 落胆? 軽蔑? 呆れ?


 マイナスの方向性しか見えない。私の行動は、八つ当たりでしかないもの。

 ――なのに。


「ふはっ!」

「な……! なに、笑っているのかしら。無様だって言いたいの?」


 本気で怒ってるのに、その反応は変よ。バカにしかしてないわよね。

 笑って肩を揺らすたびに、苛立ちをあおってくるわ。オマケに締まりのない顔ね。表情筋が仕事を放棄しているわ。


「だって、千佳。それじゃあ、完全にな」

「……なにかしら」

「俺のこと、滅茶苦茶好きだって言ってるだけじゃん」

「は?」


 そんなはずないでしょう、ありえないわ。どうしてそんな結論に至るのよ。幸せな思考回路ね。


「俺のことばっかり考えるんだろ? 俺と千佳自身のことを比べて気にするって、つり合いたいってことだろうし。あと、ドロドロした感情なんて嫉妬しっとだよな?」

「……そんな、はず」


 ないわ。ありえない!!


 否定してみせたいのに、心が図星だと告げている。違うと言い切れれない自分が悔しい。

 唇をギュッと噛んでしまう。他ならない私自身の気持ちが、戸惑いを生み出してくる。


 かろうじて、絞り出すみたいにしか言葉が出なかった。


「……脳内変換もはなはだしいわ」

「そうかな?」

「そうよ」


 どれだけ前向きなのよ。

 真面目に悩んでる私が、アホみたいじゃない。


 私には難しいことだって、ひなたには簡単に感じてしまうのでしょうね。



 ああ、ムカつくわ。

 いつも、そうなんだから。



 単純だから余計なことを考えなくていい、ひなたがうらやましい。

 私にはできそうにないわ。


 頭をひなたの胸にぶつける。

 ……あったかい。ほのかに服から洗剤の香りがするわ。


 落ち着く、なんて。絶対に口にはしてやらないけれど。



 ひなたの手が、頭に落ちてくる。


 首を振って払うこともできたはずなのに、できないのは何故?


「はいはい、よしよし」

「バカにしないでちょうだい」

「バカになんてしてないし。可愛がってるんだよ」

「結構よ」

「そう言うなって」


 ひなたの手が私の頭を優しくなでる。丁寧ていねいに、ゆっくりと動くたびに、ささくれ立った心が治っていく気がした。


「千佳。目が真っ赤」

「……うるさいわね」


 泣いていたんだから仕方ないでしょう?

 ほおを伝っていた涙の跡を、ひなたの指がなぞって上書きをしていく。


「もう泣かなくていいからな」

「え……」


 目尻に、ふわりと温かいものが触れた。やわらかいそれは。


「っ!? な、なにしてるのよ!?」

「んー?」


 思わず叫んだ私を無視して、ひなたの唇はまだ顔に触れたまま。

 離さずに、我が物顔で移動し始める。


「……っ!」


 やめて、と言いたいのに驚きすぎて言葉がのどに張り付いてしまってできない。気恥ずかしいし、どうしたらいいのかもわからない。ただ、されるがままになってしまっている。


 気持ちいい、なんて。口がけても言えないわ。


 唇が頬、鼻、額、まぶたと徘徊はいかいをする。身じろぎすら、迷ってしまうわ。

 呼吸とか、どうしたらいいのよ。


「……あ。ゴ、ゴメンな!」

「……え?」


 一気に我に返ったのかしら? ひなたはパッと顔を離して、私を解放した。

 顔、紅いわ。


「うわ、うわ! マジで!? やっちゃったよ俺! ゴメンな千佳! ホント、マジでゴメン!!」


 半ばパニック状態になってるわね、これ。ゴメンを何度言えば気が済むのよ。

 それにそう何回も謝罪をされると、ムカムカするわ。


 ペコペコ腰を曲げちゃって。あなたはししおどしにでもなるつもりかしら?


 ……ああ、そうね。気にしてしまうのなら、こうすればいいのよ。


「ひなた」

「ごめんなさいすみませんでした申し訳ないです」


 早口で謝るひなたを無視して、一歩近づいた。


 そして、そのまま私は彼の頬に口づける。

 昨日、バラで与えてしまった傷に軽く触れる。早く治りますように。


「……は? え? な? …………はぁああああああっ!?」


 間近で叫ばないでちょうだい。頭に響くでしょう?


 クリクリとした大粒の瞳が、信じられないという感情をあからさまに出している。

 マジマジと見つめるひなたに、笑いかける。


「仕返し、よ」


 どうかしら? これなら、ひなただって気に病まないでいいわよね。お互い様になるもの。


「~~っ! もう無理!」

「え? ……ん!?」


 口がふさがって……!? 何故ひなたと私の唇が重なっているのよ!?


 柔らかくて温かい。けれど、しっとりと湿っていた。冷静に感触を頭で認識しているものの、心がざわめく。


 目なんて閉じる暇なんてない。こういう時は、しなければいけないって知ってはいるわよ?

 でも、急なことに対処なんてできるはずがないでしょう。


 ひなたの長いまつげが見える。まぶたがおろされていて、その下にのぞいているはずの目が見えない。

 改めて見ても、この幼馴染みの顔だちはひどく整っているわ。



 そして、そんな彼と私は今、キスをしている。



「……っはぁ」

「……は……」


 突然のことで呼吸の仕方を忘れてしまったわ。

 ……一体、どういうつもりよ。


 問い詰めたい。けれど、酸素が不足して深呼吸しかできない。

 それはひなたも同じみたいで、肩で息をしている。


 心臓が痛いわ。ひなたは私を壊す気なの?

 胸がドキドキと音を立てて、かつてないくらいうるさく騒ぐ。耳元まで聞こえるわ。


 なんとか呼吸を整えてみせても、脈拍は元には戻らない。


「……変態」

「はは……否定できないかも」

「当然よ」


 笑っているひなたは、悪びれた様子なんてない。なにを開き直っているのよ。

 顔も合わせづらいのは、私だけなの?


 ムカつくわ。 


 悔しいから、視線を彼のほうへ向ける。


 そこには、顔どころか首元まで赤くしていたひなたがいた。


「……キス魔」

「千佳限定ならいいや」

「私がよくないわ」


 ほがらかに笑って、私の心をかき乱す。気まぐれに振り回すひなたを、うらめしく思う。


「千佳」

「……なにかしら」


 謝ってきたら、そのほおにモミジを贈ってあげるわ。


 ムッとしてにらみあげてみると、ひなたの満面の笑みが返ってきた。

 これまで見てきた中で一番の笑顔を浮かべた彼は、まっすぐに私を見つめている。


「好きだよ」


 甘くささやかれて、反論を封じ込められる。

 とどめを容赦ようしゃなくさされて、息が苦しい。


 ――ああ、どうしようかしら。

 ファーストキスだったのに、嫌じゃなかったなんて。思うのすら恥ずかしい。


「嫌いよ」


 小声で呟いても、ひなたは嬉しそうに笑ってみせた。

 

 

 あまあまになりました。

 ……ハッ! そういえば梅津が書いてきた中で、唯一作品内でちゅーしたカップルかもしれません。

 そう思うと考え深いです。


 小話をはさんでから、最終回に続きます。

 日曜日中に全部終わらせるつもりです。


 今回も読んでくださり、ありがとうございました!

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