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17話

 今回でいよいよ物語も佳境に入っていきます。


 結末まで、どうぞよろしくお願いします!

「千佳、おかえり!」

「……ただいま、ひなた」

「! うん!」


 笑顔で近寄ってきた柴犬……もとい、ひなたにエサ代わりのあいさつをあげてみる。

 すると案の定、ひなたは笑顔の輝きを増してみせた。……このままいけば、その明るさで発電でもできちゃうんじゃないかしら。


「今日はなにかしら」

「え? あ、えっとな、これだよ!」


 どうして一瞬反応が遅れたのかしら。ただ、ボウッとしていただけ?


 慌てて取り出してみせたのは、ひなたの手のひらにすっぽり収まっている小さな花。

 それを彼の手からつまんで取った。


「オシロイバナね」


 指で小柄な花をクルリと回す。白がベースの花びらに、ピンクの線がところどころ入っている。

 この花って、かわいい大きさよね。


 小さい頃は、よくこれを使ってママゴトをしたわ。……目の前の幼馴染みと一緒に。

 その時の配役が私が妻で、ひなたが夫だったのは黒歴史だけれど。『いってらっしゃい』と『おかえり』のあいさつ代わりの行動なんてなかったわ。ええそう、あれは若さゆえの過ちというものよね。


 余計なことを思い出したけれど、表情には出さないで済んだ。

 ひなたにバレてしまったら厄介だもの。


 それに、そんなことよりも他のことに意識があったから。


 ……って、なんでそんなマジマジと見てるのよ。


「なにかしら?」 

「だって、千佳がご機嫌だから」

「……そうかしら」


 わかりやすかったかしら。ひなたにまでさとられてしまうなんてダメね。もう少し感情をおさえたほうがいいわね。


 否定も肯定もしない返事に、ひなたが前のめりになった。


「なぁなぁ、教えてくれよ! なにかいいことでもあったのか?」

「……いいこと、ね」 


 ニコニコと笑ってねだるひなたを、いつもなら無視をしたけれど。

 私はちょうど気分がいいの。だから、彼の問いに答えることにした。


「テストで全て90点以上をとったの」

「! すごいな!」


 ひなたが言えば嫌味に聞こえる賛辞ですら、気にならない。

 はず、だったのに。


 ……何か、引っかかるのよ。

 どうしてかしら。


 嫌味に取って、ということじゃなく、違う観点でイライラとした思いがきあがってくる。


「よかったな!」


 満面の笑顔で祝福するひなたに、怒りがつのっていく。

 素直に嬉しいとは感じない。私の中で、真逆の感情が強くなっていく。


 眉がつり上がっていくのが自分でもわかるわ。


「……ひなたは、私がいい点とってもいいのかしら」


 どうして私はこんなことをたずねているの? 脳内の冷静な私がそうやって自身の行動の矛盾を指摘しているけれど、とどまることはできなかった。


 期末テストが良かったのを喜んでいたのは、一番に私だったはずなのに。 


 そもそも、ひなたはわかっていないの? 

 私は隣の市にある高校を受験するつもり。テストの点が上がるほど、そこに合格する可能性が上がる。

 つまりは、私の通う高校が遠くなるってことを指すのに。


 小学生だから、毎回のテストがどれほど重要なのかをわかっていないのかもしれないわね。


「もちろん! って、言いたいし、言えたらかっこいいけど……すっごく、すっごく嫌だね!」


 けれど、ひなたは私の考えをあっさりと否定してみせた。


 じゃあ何故、そんな笑ってるのよ。少しは悲しんだらどうかしら。


「なら、どうして……笑えるのよ」

「え? だって千佳が一生懸命やった結果が出たってことだろ? よかったなって思うし。千佳が喜んでくれるなら、俺はそれが一番かな」

「……」


 自己的かと思えば、私のことを配慮するなんて。ひなたの思考回路は理解不能よ。


 私だったら、そんな風になんて思えないわ。自分に利があるほうに物事が進めば、相手が悲しんでいても心のどこかでは嬉しくなるでしょうね。


 ひなたは、良くも悪くも純粋だから。


「自分が苦しんでいても嬉しいなんて……このマゾ」

「え、ちょっと、静かにののしんな」

「違うのかしら」

「違うよな!? いや、たしかに結果だけ見ればそうなるけど」

「いいでしょう、要点が押さえてあって」

「うん、要点は経過だと俺は思うな」


 軽口にものってくる。言葉の応酬が、楽しい。のに、何故だか空≪むな≫しいわ。


 引きとめてほしかった、なんて。うっすらと思った私が、バカみたいね。

 図書館で一度されたから、今回もそうだと勝手に思っていた。



 ――けれど、もしさっきされたら、私はなんて答えたのかしら。



 浮かびかけた内容を、首を振って打ち消した。


 ……いいえ、そんなのはあり得ない話。すでに、彼からの回答も得られたのだから。


 ひなたにとっては、この件は後押しをする程度のことなのかもしれない。

 胸の奥がキリリと音を立てて、締めつけられるような。だけれど、そんなのはただの気のせい。私の勘違いでしかないの。



 ――ひなたは、私を気まぐれに傷つける。

 前も、そして、今も。


 残るところ、後3~4話です。


 今回も読んでくださり、ありがとうございました!

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