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15話

 遅れました!


 ではではどうぞ!

「千佳! おかえり!」

「ひなた」


 まぶしいほどウザったい笑顔であいさつをしてきた幼馴染みは、なんだか上機嫌だった。

 通常より割り増しで、相手にするのが面倒ね。帰りたいわ。


「ということで、帰っていいかしら」

「早いしなにが!?」


 目を見開いて反射で返してきた。そうよ、それくらいしゃきっとしなさいよ。ただでさえ面倒事の塊みたいな存在なんだから、悪化してどうするのよ。


「ふっふっふーそれよりも……どうだ!」


 ドヤ顔でひなたが取り出したるそれは、見事に咲き誇った桃色のユリの花だった。

 ……どこから持ってきたのかしら。


「今日は頑張ってみたんだ! 千佳、嬉しいよな? な?」

「落ち着きなさい」


 興奮して身を乗り出さないでちょうだい。近すぎよ。もう少しで顔がぶつかりそうだったじゃない。

 ひなたを静まらせるために、ユリを取った。


 りんとした雰囲気のあるユリは好きだわ。……ただ、ひなたからもらった、という点は微妙な気分になるけれど。


 複雑な心境の私をよそに、ひなたはニコニコと笑ってる。いまだ気分は上々みたいで、浮足立っているのが手に取るようにわかるわ。


「俺はヒマワリが好きだけど、千佳はこっちのほうが似合うかもな!」

「……そう」


 ヒマワリが似合うなんて、私には無理な話ね。似合いたくもないけれど。


「うーん……やっぱり嘘! 千佳ならヒマワリも似合うな!」

「そんなはずないでしょう」


 わざわざ訂正をする必要なんてないわ。絶対に似合わないから。むしろ望むところよ。

 呆れて否定しても、ひなたは満足そうにうなずくばかり。人の話を聞きなさい。なにを自己完結しているのよ。


「えー? そうか?」

「そうよ」


 強く肯定してみせる。


「なんであんな花が好きなのよ」

「え? 元気になるだろ。夏が来たって感じもいいし」

「夏の到来はたしかに感じるわ。でも元気には到底ならないわね」

「えー?」


 『元気になる』は前も言っていたわね。私にとっては見ていたってイライラして、ストレスになるだけよ。鬱陶うっとうしいったらないわ。


「いいと思うけどな、ヒマワリ」

「それはひなただからでしょうね」


 私は違うのよ。価値観が違うのなんて当たり前じゃない。

 不満そうにしてみせたって揺らぐものじゃないのよ、ひなた。


「千佳はすごく似合うのにな」

「しつこいわ。これ以上言うなら、その無駄口叩く口をめるわよ」

「え。なんか言い方が怖かった気がする。息の根とかに近かった表現だよな?」

「たしかめたいかしら」

「いいえ!」


 あら残念。首を勢いよく振るなんて、見えなかったなんて言い訳ができないじゃない。


「第一、そんなにヒマワリが好きで人にすすめたいなら、他の人をあたりなさい」


 ひなたなら、誰だって喜んで聞いてくれるはずよ。……ヒマワリをすすめたいなんて、どこぞの宗教みたいだけれど。でも怪しい勧誘でも、ひなたがやれば大抵の人ならひっかかってくれるんじゃないかしら。


「え、べつに他の人にしたいわけじゃないし」 

「なら、なんでするのよ」


 手間をかけさせないでほしいわ。

 胡乱うろんげに、面倒な幼馴染みを見やる。


「千佳だからしたいんだけど? 好きになってほしいし、似合ってるから」

「……っ!」


 この子は、本当に。


 キョトンとして首を傾げるひなたに、目眩めまいがする。

 なんて、なんて恥ずかしい子なのかしら。私が言ったわけじゃないのに、鳥肌が立ってしまったわ。



 ――実は、私がヒマワリが嫌いなわけを知っているんじゃないかしら。そんなはずがあるわけがないってわかっているけれど、疑ってしまいそうよ。



 手に持った花に顔をせる。ああもう、目もあてられないわ。


 どうして、嫌いなんて言い続ける私に、そんなことを普通に言えるのよ?

 私はふさわしくなんてないのに。一方的に押し付けるなんて、はた迷惑もいいところだわ。


「え? どうしたんだ?」

「……うるさいわ」


 黙ってなさいよ。私だって、いっぱいいっぱいなんだから。

 戸惑うひなたを、一言で沈黙させる。



 毎度毎度振りまわすひなたなんて、嫌いだわ。

 少しぐらい、相手のことを考えなさいよ。



 気恥ずかしさにもだえて悲鳴を上げている心をしずめようと、必死に花の香りをかいだ。

 強烈な甘い香りが私の鼻をくすぐっても、何故か鼓動こどうは自己主張をし続けたままだった。


 今回も読んでくださり、ありがとうございました!

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