14話
お待たせしました。昨日は突然の投稿遅延、失礼いたしました。体調不良で爆睡していたら間に合わなくなっていました。
起きたら23時でビックリです。
これからも「気まぐれなヒマワリ」をよろしくお願いします。
ではでは、どうぞ!
「お待たせ、千佳!」
「ちっとも待ってないわ」
「っ! なんかデートっぽいな。千佳、もう一回!」
「消えなさい、存在ごと」
「ひどい!?」
休み明けに満面の笑みで出迎える人物が一名。ひなただ。
土日を費やして治してきたせいか、ますます厄介さが上がったみたいね。
それとも数日会わなかったから、そう感じてしまうだけかしら。だったらいいわね、これ以上面倒になったらストレスが半端ないわ。
「ひどい……けど、なんか久々の千佳だからなに言われても嬉しいな!」
「……ひなた、あなた目覚めたの?」
「なにに!? え、ちょ、俺そういう意味で言ったんじゃないし!」
「熱で頭がイカレたのね。ただでさえ残念だったのに……ご愁傷さま」
「なんで憐れまれてんの!? あと距離を取んな!」
「だってうつりたくないもの」
「それって風邪とかじゃないな!?」
間髪いれずにツッコミを入れるなんて、風邪は全快したみたいね。
「千佳がひどい。……でも…………ふ。ふへへへ」
「……」
ひなたは困り顔から一変して、挙動不審になった。
その気味の悪い笑い声の原因に心当たりがある。ヘタにつついたらやぶ蛇だってことはわかっているから、黙っているしかない。
やっぱり紙飛行機は失策だったわ。血迷ってもしてはいけなかったわね。
だからって、我慢するのとは別問題だけれどね。
「キモい」
「ふふふふへへへへ~! べっつにいいし、千佳の照れ隠しなんて嬉しいだけだからな!!」
「……ウザい」
「ウザくていいっつうの! 千佳限定だ!」
「しつこい」
「千佳のデレがあるならいい!」
「マゾ」
「マゾじゃない!? それは違う」
「変態、ストーカー、単純、バカ、あとは――」
「ゴメンなさい。それぐらいで勘弁してください」
やっと標準に戻って、腰を曲げて謝罪をしてきたひなたに言葉の刃の追撃を止める。
「仕方がないわね。これぐらいにしておくわ。……次はやめないけれど」
「っう、うん! わかった!」
ガクガクと首を振って承諾するひなたに、頷いてみせた。
……とはいっても、きっとひなたのことでしょうし、すぐに忘れるか破るわよね。頭の出来は良いのに、こういうことは学ばないもの。
「そ、それよりな、ほら! 今日はちゃんと用意したんだ」
「ダリアね、もらうわ」
淡いレモン色の花びらが多くて、数え切れない。菊の仲間だから、見た目も似ている。仏壇に飾る花みたいで嫌われそうだけれど、私はそう思わないわ。少なくとも、ヒマワリよりかは断然良いわね。
文句を言うこともないから、黙って受け取る。
「……ふぅん」
「なにかしら」
ジロジロと人の顔見ないでちょうだい。金とるか、もしくは目を潰すわよ。
「なんでもない! なんでもないから茎の根元こっち向けんな!」
「あら、そう?」
そんなに慌てるなんて、先端恐怖症なのかしら。
「なんでもないけど……ちょっと、気になっただけだし」
なんでもないなら、なんでそんなボソボソ言ってるのよ。目を泳がしてどうしたのよ。
様子が変ね。一体どうしたっていうのかしら。ひなたが誤魔化したりするなんて、おかしいわよ。
もしかしてまだ、本調子じゃないの?
「ひなた、やっぱりまだ熱でもあるんじゃない?」
片手を上げて、ひなたの額にあててみせる。手のひらに人肌が伝わってくる。……平熱、ね。特に熱くも冷たくもないわ。
「ぅえ、ええっ? ち、千佳!?」
「……え?」
ひなたの驚きの声で我に返った。
今気付いたけれど、ひなたに触ってあまつさえ熱を測るなんて。……私はなにをしているのよ。
距離を慌ててとってみせた。ひなたはポカンと呆けて間抜けな面をさらしている。元々の可愛い印象を残す顔立ちのせいで、それは愛嬌があるように見える。ただのバカ面なのに。
「なにかしら」
「なにかしらって、え、ええ? 俺が聞きたいから」
「私だってそうよ」
「本人!」
仕方ないじゃない、とっさに身体が動いたんだもの。
まぁ、大体の原因はわかってるわ。
「前の癖が出ただけよ」
「前のって……あ、そっか」
尋ねようとしたひなたがとどまって、納得の表情になる。
以前はひなたか私、どちらかが具合が悪くなると、健康なほうがさっきみたいに体温を測ってみせたから。
「? 千佳?」
「……なんでもないわ」
幼稚園くらいはひなたは風邪をひくと、グズッて私と一緒に寝たがったものだけれど。
いつの間にか、ねだることはなくなったわね。
多少は変わったのかしら。この子も。
「千佳、もう一回やって」
「調子にのらない、ひなた」
気のせいね。全然変わってないわ。
前も今も、私にベッタリじゃない。
溜息を歯で噛み殺す。私を疲れさせる天才じゃないかしら、ひなたって。
抜けた笑顔で催促するアホな幼馴染みの戯言なんて、知ったことじゃないわ。
「アンコールだって、アンコール!」
「そんなに測りたいなら自分でやってなさい」
上機嫌なひなたは、口うるさく騒ぎたてる。静かにしなさい。あと病み上がりなのに、なにやってるのよ。のどを痛めていたでしょう、あなた。
見る必要すら感じなかったから、ほっておいて帰ろうかしら。
歩き出すと、ひなたが横に並んだ。
「ちぇー」と拗ねてみせるけれど、嬉しそうね。
彼がなにに喜んでいたのかは、わかっているわ。
私が、ひなたに自分から自然と触れたから。
それと……それに嫌悪していないから。
癖で触ってしまったけれど、その後に顔をしかめてしまうような気分にはならなかった。
嫌いなのに。
そんな相手、普通は触るのなんてもっての外のはずよね。
けれどどうして、のばしてしまった手を恨めしく思えないのかしら?
むしろ…………いえ、いいえ。そんなの……あるはずがないわ。
まだひなたの熱が残っていて、あの額の感触ごとなくそうと、強く手のひらを握った。
早く、早くなくなってしまえばいいのよ。
――こんな感情、いらないわ。
今回も読んでくださり、ありがとうございました!