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13話

 今日は短めです。


 ではでは、どうぞ!

 帰り道にひなたがいなかった。

 今まで、あんなにしつこいほど待っていたのに。


 モヤモヤとする。何故かは知らないけれど。


 自分の部屋に着くと、教科書がたっぷりと詰まったカバンを床に置く。重さがなくなると同時に、自然と溜息がこぼれた。


「……ハァ」


 調子がくずれるわね。

 いればいるで振りまわすし、いなくなったらそれはそれで戸惑わせるなんて。ひなたは面倒しかかけないのかしら。


 とりあえず窓を開けて、部屋の空気を入れ替えて気分も変えないと。


 窓辺に寄って鍵に手をかけようとしたとき、目が合った。


「……ひなた」


 ひなたの部屋の窓は開けていた。そのため、日光を反射しているせいで顔が見えないなんてならずに、はっきりと見える。


 ……まさかだけれど、もしかして私が帰ってから、ずっと見ていたのかしら。


 やっぱりひなたってストーカーなのかしら。


 私の疑惑なんてわからないひなたは、のんきに手を振ってみせた。見えてるから、そんなバカみたいに室内で腕を振らないでちょうだい。ホコリがたつわよ?


 そもそも、なにしてるのよ。


 ニコニコと満面の笑みを浮かべるひなたは、パジャマ姿だった。

 そして彼は落書き帳をかかげてみせた。

 そこには端的でわかりやすい一言が載っていた。


『かぜひいた』


 なるほど、そうね。たしかにひなた、昨日ひどい雨の中立っていたもの。別段、不思議ではないわ。自業自得というか、自然の摂理せつりよね。

 ただ、ただね。何故、あなたは嬉々として文字を書いているのかしら。絶対安静じゃないの?


 今の時間までその姿ってことは、結構症状が悪かったはずよね。学校自体だって登校できたのかしら。

 起きている場合じゃないでしょう。


『今日も花、準備できなかった。ゴメン』


 ションボリとした顔で見せてきたけれど、ひなた、当然だから。

 むしろ用意しているひまがあったら寝なさい。部屋から出て病原菌まき散らさないでよ。


 手でシッシッと犬を追い払うような動作をしてみせる。


 ひなたが『ガーン|||』なんて書いているみせてるけれど、知ったことじゃないわ。

 蒸気出そうなほどほおを赤くした病人がしていることじゃないでしょう。


 大体ね、その紙に書いているのだって、あなたが声を出せないからそうしてるのよね?

 じゃないと、大声が取り柄のひなたが、窓ごしに話しかけてこないなんて無理に決まってるわ。


『わかった、ゴメン』


 そう書くと、ヘラリと笑った。普段と違って、笑顔にも力がないように見えるような気がしなくもない。


 私のジェスチャーに従って、ひなたはベットにもそもそと入っていった。


 ……目が合ったままじゃ意味がないでしょう。

 横になってもこっちガン見していちゃ、寝れないってことぐらいわかるわよね?


 私のせいで悪化したなんて言われたら、面倒だわ。ただでさえ昨日のだって、ひなたの一方的な行動の結果とはいえ居心地が悪いんだから。



 ――ひなたのことは嫌いよ。

 だけれど、嫌いだからって弱ってる姿に『ざまあみろ』、なんて言えないわ。いえ、言えるような自分にはなりたくないのよ。


 そんなことをしてしまったら、ひなたの性格と比較してもっと卑屈ひくつになってしまいそうだもの。

 自分まで嫌いになりたくないわ。



 眼に力を込めて、気迫を送る。

 なにを言っているか読みとりやすいように、口をゆっくりと動かす。


「寝・ろ」


 あら、ひなた。引きつった顔になって、すぐさま目をつむったわね。最初からそうしてればよかったのよ。


 これでやっと、当初の目的だった窓を開けることができるわね。

 開けると、やや暑さが残ったジメッとした空気が室内に入ってきた。夕方だから、きっともう少ししたら涼しくなるはずね。


 もう一度ひなたのほうに目を向けると、ちゃんと寝ていた。一瞬で起き上がるなんて愚行をしなかったようね。


 それとも、もしかしてもう眠ってしまったのかしら。……ひなたなら、ありえるわね。あの子、寝つきがすごくよかったもの。そのぶん寝起きが最悪だったけれど。 


 それか、思いのほかに風邪の症状が重いか。


「……」


 カバンからノートを取り出して、空白のページをやぶる。テーブルにのってるペン立てからボールペンをつかんだ。


 そこに、一言だけ書く。


 文字が内側になるように、紙を折っていった。右端と左端を折り、中央で曲げて重ねる。それから取っ手となる部分を折って完成。久々に作ったけれど、なんとかなるものね。


 簡単な紙飛行機がテーブルの上にできていた。


 紙飛行機を持って、窓際に戻る。

 そしてそのまま、腕を上げて投げた。


 軽い紙でできているそれはまっすぐ飛んだ。風が吹いていなかったのが理由かもしれない。

 ひなたの部屋の窓枠を難なく通り、ベットのそばに不時着ふじちゃくした。


 見届けて、テーブルに教科書を出し始める。

 これ以上ひなたのことを考えてる時間はないわ。日課の勉強をしないといけないもの。



 ……なんとなくしてしまったけれど、これでよかったのかしら。



 私らしくない行為よね。


 でも、どうしてかしら。行動の是非は気になるのに、何故か後悔はしていないの。

 敵に塩を送るって、こういうことを指すのかもしれないわ。


 あの紙飛行機の中身には、4文字しか書いていない。


『お大事に』  


 ひなたが目覚めてその言葉を見つけるときを、なんだかむずがゆく思った。


 


 今回も読んでくださり、ありがとうございました!

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