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12/23

12話

 『あなたのSFコンテスト』の都合上、あと1週間弱で連載終了締め切りとなりました。いよいよですね。


 最後まで完走したいと思いますので、これからもよろしくお願いします。


 ではでは、どうぞ!

 放課後、普段通り私は学校の図書室で勉強をしていた。

 期末試験が終わったからって気を抜けないもの。今のうちに2学期の予習をしておいたほうが無難だわ。


 テスト後で、室内は人気がないのが嬉しい。テスト前はうるさくする人もいて、集中しにくかったわ。


 窓際がお気に入りで同じところに毎日座っている。

 他に図書室を頻繁ひんぱんに利用する生徒もいるけれど、その人達とは顔見知りよ。そして、暗黙のルールで互いに相手の席に座らないようになっているの。

 さしずめ、この席は私の指定席と言ってもいいかもしれないわ。


 そういうのって、悪くないわよね。


 机に向かっていた私は、ふと、不穏な音を聞いた。


 窓の外から響く、低い音。空を見てみると、暗い雨雲が太陽を隠していた。


「……」


 折りたたみかさを常備しておいて正解ね。

 夏で天候が崩れやすくなっているから、私はカバンの中に常に傘があるようにしているの。


夕立ゆうだちかしら」


 つぶやいた途端とたん、見計らったようにタイミング良く雨が振り始めた。

 あっという間に、外の視界が水滴で見えにくくなった。


 雷雨ね。夏にはありがちだわ。


 今帰ると、制服が大変なことになりそうね。傘が役割を果たせないんじゃないかしら。

 雨足が弱まるまで、待つ必要がありそうね。


 もう少し勉強をして帰ろうかしら。


 逸らした気を、机上の教科書に向けようとした。

 けれど、その瞬間に一つの顔が頭に浮かんだ。



 ……ひなたは、どうしたのかしら。



 最近は、ずっと私の帰りに顔を合わせようと、待ち伏せしているけれど。  


「傘くらい、持っているわよね……?」


 それぐらいの自己管理ぐらいできるはずよ。……そうよね?

 もう小学6年生なんだもの。こんな雨の中、何も持たないってことはないでしょう。そうしなければ風邪をひくってことくらい、頭が回るはずだわ。


「……」


 なのに、なんでかしら。すごく、嫌な予感がするわ。


 ひなたに使う脳みそなんてもったいないのに。


「……ハァ」


 目の前の開いていたページを閉じて、教科書とノートをカバンにしまう。


 なんで、私がひなたのことなんて気にしなければいけないのかしら。

 面倒だわ。


 気分まで、天候に引きずられてしまいそう。


 憂鬱ゆううつな思いで片づけを進めて、図書室を出た。 



***



 激しい雨にさえぎられて見にくい景色の中に、ポツンと人影を見つけた。


 その手ににぎられた白い花は、無残にしおれていた。どれほど雨に打たれてしまえば、そうなったのかというくらい。


 見事に咲いてたはずのクチナシの花と、今のひなたの姿が重なって見えた。


「あ、千佳……!」

「っ!」


 嬉しそうに見上げてきたひなたは、土砂降りの雨の中でも笑顔を浮かべた。

 頭の中が空になった後に、急に血流が回りだす。


 言葉をなくしてしまった私に、ひなたが不思議そうにしている。


「千佳?」

「……っなにやってるのよ!」


 バカじゃないかしら、なんで傘さしてないのよ!


 かみだって水分吸い過ぎて、顔に流れてるじゃない。唇だって真っ青よ。

 少なくても5分程度とかじゃないわ。まさか、雨が降り始めてからずっと、なんてことないでしょうね。

 どれだけ待ってたのかしらないけれど、こんなのいい迷惑だわ!


「傘もささないで待ってるなんて、ひなたはマゾなの?」

「え……いや、傘持ってなくて」

「取りに帰ればいいでしょう?」

「だってすれ違ったら困るし」


 ボンヤリと返事をしないでちょうだい。

 しかもそれだけの理由で、ねずみになるほどまでここにいたって言うの?


 困ったみたいに目を泳がせてる場合じゃないでしょう、ひなた。


 ああ、イライラする。


「あ、でも花が渡せる状態じゃなくなったな。失敗した」


 ケロリとそう告げるなんて、どういう神経しているのよ。

 今は、そういうことじゃないでしょう?


 舌打ちを思いっきりしてやる。この、わからず屋のバカひなた。


「え、いや。ごめんって千佳。やっぱりこんなの渡されても困るよな! 後でべつの用意するよ」

「誰もそんなの求めてないわ」


 明るく笑うひなたの笑顔が、私の胸にモヤを生み出す。


 やめてよ。私は、ひなたにこんなことをしろなんて言ってないわ。


 重すぎるわ。

 そんなに一心に感情を向けられたって、無理なのよ。だって、私はひなたが嫌いなんだから。


「千佳?」

「……」


 息ができなくなりそう。どうして、私はひなたにいつも苦しめられているのかしら。


 このままでいたら、余計にしんどくなってしまうわ。

 とりあえず、現状を少しは変えないと。


 ひなたに、傘を持っている手首を近づけた。


「入りなさい」

「え……」


 どうしてそこでためらうのよ。

 いつもの図々しさはどこへやったのかしら。


 困惑して口をモゴモゴしてないでよ。はっきり了承の声を返せばいいだけじゃない。


「でも、それだと……」

「なにかしら」


 グダグダしないでちょうだい。ただでさえ、怒鳴るのを我慢してるのに。これ以上私をキレさせるつもりかしら?


 かすためにひなたをにらむと、肩を震わせた。


「それだと、千佳がれるだろ」

「っ!」


 バカじゃないかしら、本当に。


 普段はちっとも気がつかないくせに、こういう時にできちゃうなんて。逆にしなさいよ、意味がないわ。

 

 遠慮なんてらしくないわよ。ここぞとばかりに、すり寄ってみせればいいじゃない。


 私が辛抱しんぼうできないわ。


「つべこべ文句言わないで、したがいなさい」

「え、うわ、ちょっ!?」


 強くひなたの手首を引っ張って、傘の下に入れる。

 冷たい。こんなに体温が下がってるのに、なんで言わないのよ。


 ひなたから飛んだ水滴がほおにかかったけれど、どうだっていいわ。


 本当に。バカね、ひなたは。


「え、ええ? 千佳、なんで?」

「黙りなさい」


 ひなたからの疑問を問答無用でじ曲げて、なかったことにする。


 目を丸くして聞いてきたって、知らないわよ。

 私だって、疑問なんだから。



 嫌いなはずなのに、ほっておけないのよ。



 そこまで大型じゃない傘だから、二人で使うとなると体を寄せるしかない。

 結果、必然的にひなたの身体と触れ合ってしまう。非常に不本意だけれど。でも、ここで『離れて』なんて言えば、ひなたは当然のようにのんでしまうでしょうから、口をつぐむ。


 ひなたが着ているパーカーは、雨をたっぷり含んだせいで形がペタンとつぶれている。それに、下にはいてるジーパンだって変色してる。その服のせいで、ますます体温が奪われてるんじゃないかしら。


 私自身、ひなたと接触している部分から制服が冷えていくのを感じた。もしかしたら、家に着いたときは、その付近は湿っているかもしれないわね。


 私の行動に戸惑った後に、ひなたはなさけない顔をした。


「ゴメン、千佳」

「あやまらないで。悪いと思うなら二度としないで」

「……うん」


 おとなしくうなずく彼に、ますますムカムカするわ。


 どうしてさっき引いたのよ。前までなら、そんなことしなかったじゃない。

 『傘に入れろ!』なんてわがままを躊躇ちゅうちょなく口にして、平然としていたはずよ。


 面白くないわ。

 嬉しくもないの。


 気を使う場所を、間違っているのよ。


「……嫌いだわ、ひなた」


 憎々(にくにく)しくて、ひなたに吐き捨てるようにつぶやいた。

 でも、彼は何故か顔をほころばせて笑う。……それも、幸せそうに。


「うん、好きだよ。千佳」


 嫌いと言っているのに肯定して『好き』と返すなんて、文脈がおかしいわ。

 雨音がひどいせいで、しっかり聞きとれてないんじゃないかしら? もしくは、熱でも出始めているんじゃない?

 

 ――好きなわけないわ、ひなたなんて。


 やっと接触しました。

 でも千佳もひなたも、そこまで気持ちに余裕ないですね。


 今回も読んでくださり、ありがとうございました。

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