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10話

 ついに10話目突入です!


 前話とは異なりかなり明るめです。コメディと言ってもいいほどです。

 ではではどうぞ!

 電柱の下で待っている能天気な幼馴染みの姿は、見慣れたものになってしまったわ。……慣れたくなんてなかったけれど。


「千佳!」

「……」


 毎日毎日、よく飽きないわね。


 暇人なのかしら。

 宿題はあるでしょうけど、ひなたならすぐに片付くでしょうから空き時間は充分に取れるとは思うわ。でも、それにしたって……ね。友人と遊んだりとかしないのかしら。

 ……いえ、もしかして。


「ひなた、あなた……」

「なに?」


 ひなたの笑顔が、私には物悲しく見えた。


「友達がいないの?」

「はぁ!? なんでそうなるんだよ!?」


 ビックリして大声を上げるなんて、図星かしら。


「いいのよ、隠さなくって。でも、私のところには来ないでほしいわ」

「ちょっと! いるからな!? しかもひどいな、言ってること!」


 なに? 当たり前のことじゃない?


「だって私が嫌だもの」

「ひどっ! マジでひどい! 千佳のバカ!」

「……」

「俺が悪かったから無言で帰るのはやめてくれ。って、無視すんな!?」


 聞こえないわ。幻聴ね。


 うるさい空耳を流して歩いていると、そのうち半泣きで後ろから「もうしません、お願いします」とすがるような声が聞こえた、気がした。


 このまま放置していたかったのだけれど、悪化して泣き出すと面倒ね。


 ……仕方ないわね。


 溜息をこぼして気苦労を減らした後、後ろを振り返った。


「はいはい、わかったわ。いるのね」

「……そうだよ、いるっつうの」


 スンスン鼻を鳴らさないでちょうだい。犬じゃあるまいし。

 目もウルウルさせてるなんて、ますますそう見えるわ。


 ふと思ったけれど、たしかにひなたは犬に似ている気がするわ。


 格好いい牧羊犬とか、番犬とか狩猟犬とかじゃなく、そう……どちらかといえば室内犬の。


「柴犬?」

「は?」 


 目をパチパチさせるひなたに、我に返った。いけないわ、私としたことが。思ったことをすぐ口に出してしまうなんて。


 ……でも、まさしくそうね。


 きっと、ひなたを動物にしたら、子犬ほどくらいになるかしら。マメシバね。


 想像してみると……。


「……」

「千佳?」

「なんでもないわ」

「? なんでそんな青汁飲んだみたいな顔してんの?」

「なんでもないわ」

「え、でもさ」

「な・ん・で・も・な・い・のよ?」

「……ハイ」


 そうね、なんでもないわよ。

 

 うっかり可愛いなんて、思ってないわ。ええ、そんなのは気のせいね。

 夏だから、頭がやられたのね。


 ひなたを黙らせたし、満足だわ。

 多少ごり押しだったみたいだけど、些細ささいな問題ね。


「……変な千佳。ま、いいけど。はい」

 

 私に伸ばしたひなたの手の中には紫の花が揺れている。長細い茎の先端のほうに花が固まって咲いていた。


「ラベンダーね」

「うん、ちょうどよかったな。これかいで変なの治せよ」

「……」

「ゴメンなさい千佳は変じゃないですだから帰らないで」


 まったく、ニッコリ満面の笑顔でなにサラッと侮辱ぶじょくしてくるのかしら。


 ひなたは察する能力に欠けすぎているわ。あといい加減に学習しなさい。今度から帰るわよ。

 しがみつこうとするひなたの手を払って、ラベンダーを見やった。


「……」

「……」

「…………」

「え、なんで取んないの」


 持ったまま停止したひなたは、戸惑っているけれど。そんなの当たり前じゃない。


「くさいからよ」

「キッパリ言うなよ! ってくさくないし!」


 ラベンダーってにおいがきついのよ。ずっと持っていたら頭が痛くなりそうだわ。家まで持っていくのなんて嫌。


 渡そうとするひなたの手を渋い気持ちで見ながら、近づかせないように身を引く。地味にショックを受けたみたいで、ひなたは情けない顔になった。良い気味。


「そんなくさいか?」

「ひなたは神経が通っていないから大丈夫よ」

「え、なにそれ。俺神経ないの!? やっぱり千佳の認識でどうなってるか、すっごく不安なんだけど」

「安心なさい。齟齬そごはないわ」

「キリッとした表情で自信に満ちた発言されて、こんなに心配になったのは俺初めてだよ」

「あら、おめでたいわね?」

「めでたくない! 全然めでたくないからな!?」


 間違ったことは言ってないわよ? だってひなた無神経じゃない。……まぁ言葉通りかは知らないけれど。


 どうやってももらうつもりゼロの私に、ひなたは一つ溜息を吐きだした。


「……わかった。家の前で渡す。それならいい?」

「……妥協点だきょうてん、といったところね」

「よし、じゃあそれで」


 それにしても、それ、どうしようかしら。


 持って帰っても、家の中までくさくなりそうよね。

 かといって庭に埋めてもよくないわ。ラベンダーの繁殖力って、他の植物を枯らすほどだったはずよ。万が一成長なんてしようものなら、庭が悲惨なことになるわ。


 ああ、そうだわ。


「風呂にでも散らそうかしら」

「うぇ!?」


 たしかそんな利用法もあったはずよね。


 って、さっきの奇声はなにかしら?


「ひなた、顔が真っ赤よ?」

「あ、いやうん! な、なんでもないし!」


 なんでもないって……まるでのぼせたみたいに頬を変えてるのに? 信憑性しんぴょうせいがないわよ?


 一体どうして…………ああ、そう。なるほどね。


「ひなた」

「あ、う、うん!?」

「あなた、想像したわね」

「なっ!? そ、そんなことない!」


 首をブンブン振って。もぎ取れてしまうわよ?


 オマケに顔の赤さが増しているわ。これは、アタリかしら。


 ……ふぅん。


「ひなた」


 困った表情で必死に手を振るひなたに、すばやく近寄って。

 その耳にささやいた。


「変態」

「う、なぁああああああ!?」


 あら、そんな叫ばないでちょうだい。いくらすぐに離れたからといっても、大声は耳に突き刺さるんだから。


「ちがっ!? 違うから! 想像はたしかにしたけど!」

「あら、やっぱりしたのね。あってるじゃない」

「うぁああああああ!!? した俺って変態なの!? マジで!? 違う違う違う変態じゃないっ! 変態じゃないっつうのぉおおおおおお!!」


 かつてないほどの取り乱しっぷりね。

 一人で空に向かって吠えるなんて、まるで狼みたいよ?


 これは……ちょっと。


「ふふふ」


 面白いかもしれないわ。



 千佳、開眼! 

 ひなたはもっと大変なことになりそうです。


 それと、明日から投稿時刻が遅れるかもしれません。申し訳ないです。


 では、今回も読んでくださりありがとうございました。


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