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1話

 どうも、ごきげんよう。梅津です。

 夏ですね。暑いのでかき氷が食べたいです。できればユズレモンの。


 『あなたのSFコンテスト』に参加しています作品です。


 とある二人の幼馴染み達のお話です。では、どうぞ!

 見慣れた自身の部屋。白とこげ茶色をベースにしたシンプルな一室。

 窓にかかっている淡いベージュのカーテンが、風に吹かれて揺れる。


「だからひなた、あなたが嫌いよ」


 私の声は、あなたの耳に届いてるかしら?

 そっと確認すると、いつもは頭の軽そうな笑顔を浮かべている彼が違う表情で。


 ――よかった。今度こそ、解放されるのね。


 安堵あんどのため息を一つ、吐き出した。



***



 ――二歳年下の彼、藤堂とうどうひなたは、私、樋野ひの千佳ちかの幼馴染み。


 そもそもの始まりは、彼と私の家が隣だってこと。いたって単純。それ以外に理由なんてないわ。

 近所付き合いにおいての険悪さ、希薄が問題視されているけれど、私と彼の両親には適用されずに良好な関係を築いていた。結果、まるで家族のように育てられた私達。

 完全に物心つくまで彼との血のつながりがないなんて、わからないほどだった。


 だからって、私達の間に距離が生まれることはなくて。……いいえ、そもそも彼が私に一方的に懐いているのだから、変化がないのは当たり前ね。


 ひなたは、何故か昔から私の後ろをついて回った。特別なことなんて何もしてないわよ?

そうね、あえて言えばヒヨコが親の後に続くみたいな刷り込みかしら。

 私がママゴトをし始めれば、必ず彼がその相手役に立候補した。絵本を読み始めれば隣に座って、続きをせがんだ。


 それは私が小学校に入っても変わらなかった。帰宅した途端にひなたに抱きつかれて、「おかえり」と「遊ぼう」と言われる。断ることは一切できなかった。一度したら、彼が大泣きして私の親に説教をされたから。普通に考えたら、理不尽よね?

 幼心でも不満に感じていたけれど、反抗をすることなんてできなかったわ。親が私よりもひなたに甘いことを知っていたもの。


 そのせいで、私は友人と放課後に遊べなかった。宿題を済ませる以外はすべてひなたに時間を奪われる。彼は無邪気に私を拘束こうそくしていた。


 やがて彼も小学校に入学することになって。『これで交友関係が広がって、私の役目もなくなるかしら』なんて、そう油断していたけれど、甘かったの。

 明るい笑顔を生かして、ひなたは多くの友人を持った。ここまではいいわ。


 問題はその後。彼は何故か、私にくっつくことをやめなかった。下校時は必ず私のクラスまで来て、一緒に帰ろうと言ってきた。断る権利なんて、私には与えられなかった。そんなことをすれば、両親同様にとがめられるのは私だということをわかっていたわ。


 子供って言うのは正直な生き物で、人気者のひなたの私は嫉妬しっとの対象になった。特に女子からの攻撃がひどかったわ。物が失われる、陰口なんて当たり前。学年が違うなんてお構いなし。地域ごとに遊ぶグル―プでのコミュニティーがあるのだから、むしろ自然な流れよね。


 いたはずの友人は離れていった。皆自分のほうが大事で、かばうなんてしない。そこは私も共感をするから、べつに非難するつもりはないわ。

 ただ、できれば傍観してくれればとは思ったけれど。前まで遊んでいた子がイジメに加わる姿には、呆然としてしまった。


 孤立していく私のことなんて少しもわからずに、ひなたは変わらず笑いかけてきた。気まぐれに私を振りまわすその笑顔に、憎しみを覚えていたなんて彼は感じていなかったのだから。




 暗黒の小学校時代。中学入学時にはホッとしたけれど、すぐにその安堵あんどが一時のことということに気付いたの。

 ただでさえ小学校からの持ちあがり組がいるから、ひなたの存在なんてあっという間に広がって私に友達ができないのは確定事項。さらに彼が入学してしまえばどうなるか。そうなれば、到底穏やかに過ごすのは難しい。

 かといって、ひなたを避けるのはできない。周りは私が気に食わなくても、ひなたが困っているのを助けたいみたいだから。


 でも、諦めるのは嫌。そこで、私は決心したの。中学地域ごとに進学先は決まる。彼を切り離すなら、高校進学のときにしかないって。


 それからは、私は放課後は中学の図書館にこもりきりだった。家? 無理よ。だってひなたが待ち構えているもの。

 最初はひなたもグズって私の親におねだりをしていたわ。それを真に受けて両親が私に言ってきたのには唖然あぜんとしたけれど、小学校と中学校の科目内容や難易度を言えば納得したの。


 土日は朝早くに家を出て、市立の図書館が開くまでファーストフード店で勉強。家に長くいたらひなたに捕まってしまうから。

 朝から晩まで勉強し続けた甲斐かいあって、私の点数は面白いくらいに上がったわ。


 その間に私離れがひなたに起こればいい、と思ったのだけれど、そううまくはいかなかったの。

 隙を作れば、絶対にひなたは私に絡んできた。それはもう、よくきないわね、と呆れてしまうほどに。


 のらりくらりとなんとか彼から逃れていたけれど、やっぱり不満がつのっていたみたい。

 中学入学から4か月目の今日、ついに、ひなたが私のもとに直談判にやってきた。


***



 その日は日ごろの疲れがたまっていたのか、珍しく私は寝坊をしてしまった。身支度を整えさあ出かけよう、となったときに突撃訪問をしてきた人がいた。そんな迷惑を平然とかけるのは一人しかいない。


 朝から部屋に押し掛けて、ひなたは当たり前みたいに居座っている。そこには悪びれる要素なんて一切見当たらない。常識というものを、この幼馴染みは持ち合わせていないようね。


 床に敷かれたマットの上に座り、ひなたは丸く大きな瞳を私にまっすぐに向けてきた。クリクリとした瞳が、小学校時彼が異様に気に入られる要因となった一つかもしれないわね。

 私はといえば、仕方なく正面に座っていた。一人だけ立っているなんて、さすがに居心地も悪いわ。まぁそもそも、この部屋は私のものなのだから、私が遠慮をするのもおかしいと思ってしているだけなのだけれど。


 女の私よりも(やわ)らかそうな桃色の唇が動く。動作が加わるたびに茶色のクセッ毛混じりの髪が、瞳を覆う。


「千佳」


 ああ、面倒。無視をしてはダメかしら?


 でもここでそれを選択しては、後々もっとやっかいよね。


「……なに、ひなた」


 私が目の焦点をひなたの顔に当てるだけで、パッと表情を明るくさせた。すぐに怒った顔を作りなおしたけれど、バレバレなんだから無駄よ。


 頬をまるで食事時のシマリスのように膨らませてみせた。


「なにじゃないだろ! 最近、千佳はおかしい!」

「そう?」


 首を傾げてみせる。自分自身のことでも、わざとらしい。


「そう! 前までは一緒に買い物に出かけたり、部屋でゲームしたり、テレビ見てたりしてたじゃん!」

「そうかもしれないわね」


 たしかに、以前と比べれば格段に減ったかもしれないわ。でも。


「中学校と小学校なら、仕方がないじゃない?」


 微笑んで伝えておく。……私の場合は、それだけではないのだけれど。

 でも、ひなたもこんなことでは引き下がってくれないでしょうね。彼は、自分の意思は中々曲げないもの。だからこそ、今まで私が妥協だきょうするしかなかった。


 案の定、ひなたはギュッと眉を寄せて不機嫌そうに唇を(とが)らせてる。同級生の女子が見れば、間違いなく可愛いなんて言われてしまう表情。だけど、私にとっては見慣れて心を動かされたりなんてしないわ。


「~~かもしれない、けど!」

「ひなた、わがままを言わないでちょうだい」


 ピシャリと意見をさえぎる。彼に反論の余地を与えてはいけない。自分が正しい、と過信しているのだから。


 口を開け閉めしてから、悔しそうに下唇を噛みしめた。あら、そんなことをしてはもっと紅くなってしまうわよ? ひなたなら、そんなことさえも魅力になってしまうのでしょうけど。


「……俺のこと、避けているのか?」


 ……ああ、ビックリした。彼がそんなことを言い出すなんて。私のことを理解しているのかと思ったじゃない。そうだとどんなにいいか。否定を望んでチラチラとウザったらしく様子を探るしぐさに、期待はずれだってわかった落胆といったらないわ。


 ……でも、そうね。潮時かもしれない。


 今は7月。このままだと文化祭といった学校行事に参加するとひなたが騒ぎだすのは間違いない。そうなってしまえば、1年目からひなたがらみの厄介事に巻き込まれるのは必至。

 だましだましに、あやふやのままで居続けるのは厳しいわね。主に、私の精神衛生的に。


 親にクドクド言われてしまうから遠まわしに行ってきたけれど。ずっと継続できるほどに、そこまで要領が良いわけでもない。そもそも良ければイジメなんて受ける前に回避をできているはずよ。


 だから私は。彼の問いかけに、こう返した。


「――だとしたら?」


 ひなたは、肩を揺らした。私を恐る恐る見上げている。挙動不審になりながら、不安に押しつぶされそうになっている目に、優しく笑いかけた。


「避けているのか?」


 もう一度、疑問を口にした。信じ難そうにしている彼に、私は変わらない表情で答えを返した。


「避けられていないとでも、思っているの?」


 ひなたの表情が変わる。固まった彼に、私は今まで我慢してきた言葉を吐きだした。


「疲れるのよ、あなたといると。いらない苦労を振りまいておいて、元凶はちっとも知らないで笑ってるんだから、たまったものじゃないわ」

「ち……か……?」


 ひなたに悪気はなかったことぐらいわかっているわ。でも、それとこれとは別よ。いい加減、私は疲れたの。


「だからひなた、あなたが嫌いよ」


 都合のいい言葉しか拾わないあなたの耳に、私の声は届いてるかしら?

 そっと確認すると、いつもは頭の軽そうな笑顔を浮かべている彼が違う表情で。


 ――よかった。今度こそ、解放されるのね。


 安堵のため息を一つ、吐き出した。



 この話は暗く説明が長いですが、次回以降は会話中心となり明るくなります。


 次は明日の同時刻に投稿しますので、よろしければお読みください。

 では、読んでくださり、ありがとうございました。

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